補助貨幣

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補助貨幣(ほじょかへい)は、本位貨幣のような主たる貨幣に対する補助的な貨幣に対して用いられていた名称である。おもに小額決済のために発行されていた。

概要

本位貨幣が存在しない現在では法令に公式の「補助貨幣」は存在しないが、現在の日本では「補助貨幣」は銀行券に対立する用語として一般には用いられている[1]。しかし、これは1988年以前は日本の硬貨臨時補助貨幣として発行され、当時の事実上の現金通貨が日本銀行券と臨時補助貨幣のみであったたからであり[1][2]臨時通貨法が廃止された現在ではその用例も法令上は正しくない[注釈 1]

また、アメリカや中国などではドル人民元などに対する通貨の補助単位セント、角など)である分数貨幣の意味として「補助貨幣」と呼ばれることもある。

通常は硬貨が補助貨幣に充てられたが、稀に政府紙幣などの紙幣が用いられることもあった。銀行券などと共に法定通貨とされることが通常だが、法定通貨としての強制力においては、一回の決済での総額面や使用枚数に制限があることが多い。小額の本位貨幣を鋳造することは技術面の問題から困難であり、これを補うために本位貨幣の素材よりも素材価値が低い金属で鋳造されることが多い。そのため、額面価格よりも低い価値素材で鋳造される場合もあり、定位貨幣として位置づけられている。このため、制限法貨として一定の金額の範囲内でのみ強制通用力をもっている場合が多い。従って経済の混乱や補助貨幣の素材の不足による素材価値の上昇によって額面価値と素材価値に大きな乖離が発生した場合には補助貨幣が溶解されて、必要な流通量が確保できないという状況も想定される。

日本の法令上の補助貨幣

明治4年(1871年)5月10日公布の新貨条例では本位金貨の他に50銭以下の貨幣が定められたが、この法令の文面では「定位ノ銀貨幣」および「定位ノ銅貨」(後に「銅貨」と修正)と定められ、さらに「定位トハ本位貨幣ノ補助ニシテ制度ニヨリテ其価位ヲ定メテ融通ヲ資クルモノナリ故ニ通用ノ際コレカ制限ヲ設ケテ交通ノ定規トス」と明記されている。この新貨条例は明治8年(1875年)6月25日に「貨幣条例」と改められて公布され、「補助ノ銀貨」および「補助ノ銅貨」の表記となった[3]

明治30年(1897年)10月1日施行の貨幣法においては、本位金貨の他に50銭以下の銀貨幣、白銅貨幣および青銅貨幣が定められ、これらにも法貨としての通用制限額が定められた[3]

昭和13年(1938年)6月1日施行の臨時通貨法では政府は貨幣法に定めるものの他に臨時補助貨幣を発行することが可能となり、これ以降発行される硬貨はすべて通用制限額が定められた臨時補助貨幣となった[4]

昭和63年(1988年)4月1日施行の通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律では、本位貨幣が廃止され臨時補助貨幣のみが名前を変えて生き残ったのであるが、本位貨幣の廃止に伴い名目上「補助」は意味を成さないものとなり、同法律により「貨幣」と規定されることとなった[5]

このため現在、日本円の硬貨は「貨幣」とは称するものの、この法律施行以前に発行されていた、臨時補助貨幣の様式および法定通貨としての通用制限をそのまま踏襲したものであり、補助貨幣的な性格を有するものである。

法貨としての通用制限

日本

日本の硬貨が法定通貨としての強制力を有するのは、一回の決済につき、同一額面の貨幣それぞれについて20枚まで[6]である(例えば、十円硬貨15枚と百円硬貨15枚の計30枚は、同一額面では20枚を超えていないので、1,650円として強制通用力がある。逆に一円硬貨のみで20円、五円硬貨のみで100円、十円硬貨のみで200円、百円硬貨のみで2000円を超えた場合は受け取りを拒否される事がある)。

また、必ずしも通貨としての流通を目的としない記念貨幣地金型貨幣が補助貨幣として発行されることもある。

中国

中華人民共和国人民元の分数貨幣である輔幣の強制通用力には制限が設けられていない。

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ 『世界大百科事典』は臨時通貨法が現行法であるという前提で解説されており、これは1988年以前のことである。

参考文献

  1. ^ a b 『世界大百科事典』26、平凡社、2009年
  2. ^ 青山礼志『新訂 貨幣手帳・日本コインの歴史と収集ガイド』ボナンザ、1982年
  3. ^ a b 『明治大正財政史(第13巻)通貨・預金部資金』 大蔵省編纂、1939年
  4. ^ 大蔵省昭和財政史編集室 『昭和財政史(第9巻)通貨・物価』 東洋経済新報社、1956年
  5. ^ 造幣局125年史編集委員会編 『造幣局125年史』 造幣局、1997年
  6. ^ 「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」昭和62年6月1日号外法律第四二号