董厥

董 厥（とう けつ、生没年不詳）は、三国時代の政治家。蜀（蜀漢）に仕えた。字は龔襲、荊州南陽郡義陽の人（「諸葛亮伝」が引く『晋百官表』）。三国志蜀志に独立した伝はないが、「諸葛亮伝」に記録がある。

諸葛亮が丞相となったときの幕府で令史となり、諸葛亮から思慮深く過不足がない人物という評価を得た。転任により主簿に移った。

諸葛亮の死後、徐々に昇進を果たし尚書僕射となった。やがて陳祗の後任の尚書令となる。後に樊建に尚書令を譲り、輔国大将軍、大将軍平台事となった。

258年、それまで国政の中心であった陳祗の死後、平尚書事となった。261年、諸葛瞻が平尚書事となり、董厥、樊建と共に朝政を統べる事となった。このときの肩書きは輔国大将軍、南郷侯となっている。

彼等の上席である姜維は戦争で外地にあったため、皇帝劉禅の寵愛する宦官の黄皓が政治の実権を握るようになっていたが、董厥達はお互いがかばい合うのみで、政治の歪みを正すことはできなかった。諸葛瞻と董厥は樊建と違い黄皓と私的に親しくするようになっていた。

諸葛瞻と董厥は姜維が外征により国力を疲弊させていると考え、劉禅に上奏し、姜維の軍権を剥奪して益州刺史に転任させ、国内に召還するよう要請することを考えたという（孫盛著『異同記』）。

263年、魏が大軍を率いて侵攻すると、輔国大将軍の地位にあった董厥は張翼や廖化とともにその迎撃に向かった（「後主伝」）。董厥は張翼とともに陽安関の入り口に向かった（「姜維伝」）。漢寿まできたところで、陰平より敗走してきた姜維、廖化と合流し、剣閣に立て籠もった（「姜維伝」）。董厥達は剣閣を堅守したものの、間道をつたって別方面より成都を目指した魏軍が江油と綿竹を落し、諸葛瞻も戦死すると（「姜維伝」「諸葛亮伝」）、劉禅は譙周の勧めで降伏を決断し（「譙周伝」）、蜀は滅亡した（蜀漢の滅亡）。

264年の春、劉禅は一家を挙げて洛陽に移住することになったが（「後主伝」）、董厥もそれに従って樊建とともに洛陽へ赴き、相国参軍となり、その年の秋には樊建とともに散騎常侍を兼任し、蜀の民心の鎮撫にあたったという。なお、劉禅に従った蜀の旧臣の多くは列侯されたが、その中に樊建の名はあるが董厥の名はない（「後主伝」）。

『三国志演義』では、蜀滅亡後、劉禅が洛陽に向かうときになって病気となり、廖化とともに憂死したことになっている。