脳動脈瘤

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脳動脈瘤
脳動脈瘤がある頭部のMRI画像
概要
診療科 神経放射線下治療学[*], 脳神経外科学, 神経学
頻度 Lua エラー モジュール:PrevalenceData 内、28 行目: attempt to perform arithmetic on field 'lowerBound' (a nil value)
分類および外部参照情報
ICD-10 I67.1
ICD-9-CM 437.3
DiseasesDB 1358
MedlinePlus 001414
eMedicine neuro/503 med/3468 radio/92
MeSH D002532
ウィリス動脈輪脳動脈瘤好発部位

脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう、cerebral aneurysm)とは、動脈壁の脆弱性等に起因する先天的な血管壁が瘤状に変化したもの。大きさは1~2mm程度の比較的小さなものから、30mmを超える大きなものまで様々である。

動脈瘤の血管壁は中膜を欠いている為に破綻しやすく、多くの脳動脈瘤はクモ膜下腔に存在するので、クモ膜下出血の最大の原因となる。

20%の確率で複数の動脈瘤が発見される。

好発部位

特に分岐の豊富なWillis動脈輪が好発部位となる。

  • 内頸動脈後交通動脈分岐部(IC-PC)
  • 前交通動脈(A-com)
  • 中大脳動脈第一分岐部(MCA)
  • 脳底動脈終末部(basilar top)

原因

  • 先天的な中膜の欠損がある状態で内弾性板の断裂が加わり、そこに血圧の負荷が加わる事で嚢状に動脈瘤が膨らむと考えられている。また遺伝的要因も否定できず、脳動脈瘤の家族歴がある場合は発症の確率が高まるという研究結果もある。
  • 特殊な原因の脳動脈瘤として、細菌性脳動脈瘤や外傷性脳動脈瘤がある。
    • 細菌性脳動脈瘤
      • 感染が原因の脳動脈瘤である。通常は連鎖球菌やぶどう球菌が原因であることが殆どである。稀に真菌が原因となることもあり、真菌性脳動脈瘤と呼ばれる。
      • 原因疾患としては細菌性心内膜炎が大部分であり、血液培養で陽性を示す。そのほか敗血症髄膜炎、歯科的処置に合併することもある。
      • 発生機序としては、感染源からの菌塞栓が血液中を循環して脳末梢の血管壁に付着、そこで血管壁の中膜並びに外膜炎症反応がおこり壁の脆弱化が起こり、不整な動脈瘤が形成される。
    • 外傷性脳動脈瘤

未破裂脳動脈瘤の自然経過に関しての報告

  • 国際未破裂脳動脈瘤研究(ISUIA, 2003)
    • 脳動脈瘤の破裂率に関して、前向き経過観察(1,692例、2,686瘤、平均4.1年、6,544人・年)を行った研究である。
    • くも膜下出血の既往のない7mm以下の未破裂脳動脈瘤のうち、内頸動脈―後交通動脈瘤を除くWillis輪前方の動脈瘤はほとんど破裂しないことが示された。
    • 後方循環の動脈瘤の破裂率は年間0.5%であった。
    • 脳動脈瘤のサイズが7~12mmの場合、前方の動脈瘤は年間0.5%、後方は年間2.9%、13~24mmの場合には前方年間2.9%、後方は年間3.7%、25mm以上では前方年間8%、後方年間10%の破裂率であった。
  • 日本での報告(日本破裂脳動脈瘤悉皆調査、Unruptured Cerebral Aneurysm Study; UCAS)
    • 日本脳神経外科学会が主体となって進めた未破裂脳動脈瘤の自然歴に関する前向き調査。
    • 調査結果は2012年6月にNew England Journal of Medicine誌で報告された。
    • 主な結果は以下のとおりである。
      • 1.日本において治療されていない未破裂脳動脈瘤の破裂率は年0.95%であった。
      • 2.破裂は小さな動脈瘤でも発生するが、大きな動脈瘤ほど破裂の危険性が高かった。
      • 3.前交通動脈、内頸動脈ー後交通動脈分岐部の動脈瘤は中大脳動脈の動脈瘤より破裂率が約2倍高かった。またこれらの部位の動脈瘤は比較的小さなものでも破裂率は年0.5%以上であった
      • 4.不正な突出(blebまたはdaughter sac)のある動脈瘤はないものに比較して約1.6倍の破裂率であった。

症状

破裂しない限り、原則として無症状。

ただし内頸動脈と後交通動脈分岐部に生じた脳動脈瘤や脳底動脈と上小脳動脈分岐部に生じた脳動脈瘤では、瘤による圧迫で同側の動眼神経麻痺をきたす。これらの脳動脈瘤が原因の動眼神経麻痺が出現してきた場合は、切迫破裂の状態と考え早期に治療が必要である。また、最大径が2.5cm以上のいわゆる、巨大動脈瘤になると、動脈瘤の部位に応じた圧迫症状が起こる。

診断

  • 脳血管造影
カテーテルを血管内に挿入してそこから造影剤を流しながらレントゲン撮影する。最近は3D撮影できる装置も普及している。脳血管造影は脳動脈瘤検査の基本であり、従来は脳動脈瘤患者(特に手術を行う患者)に対しては必須の検査であった。しかし最近は検査に伴う侵襲と他の診断機器の進歩から必要なときのみに行うという施設も多い。
脳血管造影や3D-CTAと比較して侵襲の小さい検査である。脳ドックでの脳動脈瘤スクリーニングに用いられる。MRIのT1強調画像、T2強調画像では、動脈瘤内の血栓化の有無を確認することもできる。
  • 3D-CTA(3D-CT angiography)
造影剤を経静脈的に投与して撮像する。造影剤アレルギーのリスクの分、MRAよりも侵襲は大きいと言えるが、脳血管造影よりも患者にかかる負担は遥かに小さいと言える。


治療

未破裂脳動脈瘤の治療

脳卒中ガイドライン2009、脳ドックガイドライン2008によれば、以下のことが推奨されている。

  1. 未破裂脳動脈瘤が発見された場合、患者の背景因子、病変の特徴、未破裂脳動脈瘤の自然歴、および施設や術者の治療成績を勘案して、治療の適応を検討する。
  2. 未破裂脳動脈瘤の自然歴(破裂リスク)から考察すれば、原則として患者の余命が10-15年以上ある場合に下記の病変について治療を検討する。
    • 大きさ5~7mm以上の未破裂脳動脈瘤
    • 5mm未満であっても、破裂の危険性が高いと推測される動脈瘤(症候性のもの、多発性、後方循環、前交通動脈、内頸動脈―後交通動脈分岐部の動脈瘤、不規則な形状、ブレブの存在)
    • その他の危険因子として、サイズが大きいもの、高齢、女性、クモ膜下出血の既往、くも膜下出血の家族歴、喫煙、高血圧、が挙げられる。
  • 経過観察を行う場合には、喫煙習慣、大量飲酒習慣の是正、高血圧の治療を行い、半年~1年毎に画像検査を行う。経過観察にて瘤の拡大、変形、症状の変化が明らかになった場合、治療に関して再度評価を行うことが推奨される。
  • 治療を行う場合には、開頭術(クリッピング)或いは血管内治療(コイリング)を検討する。開頭術にはクリッピング困難時にトラッピング、親動脈近位部閉塞術を行う。それすら困難な場合は動脈瘤被包術(コーディング術、ラッピング術)などを考慮する。血管内治療は外科的治療のリスクが高い症例で選択されることが多く、高齢者や多発性動脈瘤で有利であるが、逆にneckの広い動脈瘤や大型動脈瘤では再開通率が高く不利である。
  • 血管内治療においては治療後も不完全閉塞や再発などについての経過観察が必要で、開頭クリッピングも完全に成功したとしても再発や新生にてクモ膜下出血が20年間で12%認められるため経過観察は必要である。
  • ISAT試験、CRAT試験では、クリッピングとコイリングの治療法の効果には大きな差がなかったとの報告があった。

くも膜下出血の対応

関連項目

外部リンク