耳鳴り
耳鳴り(みみなり)とは、実際には音がしていないのにも拘らず、何かが聞こえるように感じる現象。耳鳴(じめい)ともいう。
耳鳴とは
一般に耳鳴は、難聴とともに出現することが多いとされている。このありふれた病態は、軽い不快感から、不眠、ときにうつ状態など、大小のストレスを引き起こしうる。耳鳴りは本人にしか聞こえない自覚的耳鳴と、外部から聴取可能な他覚的耳鳴に分類される。急に生じた耳鳴が急性感音難聴の唯一の自覚症状であることもあり、早めに一度は耳鼻咽喉科受診をするべきであると考えられる。また、頻度は少ないものの、脈拍と同調する耳鳴の一部に、腫瘍や血管病変に起因するものがあり、注意が必要である。
耳鳴の原因
蝸牛有毛細胞の異常運動、伝達機構の障害、信号変換機構の障害
耳鳴の分類
自覚的耳鳴
自覚的耳鳴は本人にしか聞こえることのない耳鳴である。
耳鳴りはベンゾジアゼピン離脱症候群の1つとして、ベンゾジアゼピン系の治療投与の中断により発生する可能性がある。それはまれに長期離脱症候群として何ヶ月も続く。[2][3]
病的な耳鳴り
難聴とともに出現することが多く、外有毛細胞の障害がその原因であると想定されているが、明確な原因は不明である。病院を訪れた耳鳴患者は80-90%程度の割合で何らかの難聴を伴うと報告されている。よって、耳鳴の自覚がある場合、早期に、一度は、耳鼻科一般外来を受診し、鼓膜の診察と聴力検査を受けるべきである。難聴の自覚が無くとも軽度の急性感音難聴が背後に存在する場合もあり、このような場合にはステロイド全身投与などの治療を早期に受けるべきである。慢性の耳鳴は、しばしば強烈なストレスを伴うが、脳腫瘍などから来ているものの場合を除き、生命予後に関わる疾患の一症状であることはあまり無い。しかし、そのストレスは時に絶大になりうることが知られている。
生理的耳鳴り
完全な無音状態で、「シーン」という耳鳴りが聞こえることがあるが、健常な反応であり、病気ではない。
他覚的耳鳴
他覚的耳鳴は外部からも聴取可能な、実際に聞こえる耳鳴である。その正体としては、大小の筋肉の痙攣や、血管病変の拍動などが知られている。このなかで、血管病変が耳鳴の原因である場合には、時に致命的になることがある。心拍に同調した拍動性耳鳴の訴えがある場合には、脳神経外科や耳鼻咽喉科を早期に受診するべきである。
治療
自覚的耳鳴
急性期には、まず難聴の原因となる疾患毎に推奨されている治療を受けるべきである。たとえば、突発性難聴であればステロイドの内服や点滴、高気圧酸素療法などがその治療となる。慢性化した耳鳴には、漢方薬の内服、安定剤の内服、局所麻酔薬の注射、鍼灸などの民間療法などが行われるが、確実にこれを消失させることはしばしば困難である。その他、慢性期におこなわれうる治療として、Pawel Jastreboffの神経生理学的耳鳴理論によるTinnitus Retraining Therapy(TRT)が本邦にも広まっており、その有効率は6-80%程度とされている。他に中耳腔注入療法[4]、ブロック療法(星状神経節ブロック)、自律訓練法[5]などがある。
他覚的耳鳴
筋肉の痙攣の場合には抗痙攣薬などが用いられることもある。血管病変などには病変に応じた外科的治療などがなされる。
漢方薬による治療
以下に処方例[6]を示す。
- 老齢者・腎虚
- 牛車腎気丸、八味地黄丸、六味丸
- 全身性疾患(脳動脈軟化症、高血圧症、低血圧症)
- 柴胡加竜骨牡蠣湯、大柴胡湯、釣藤散、柴胡佳枝乾姜湯、真武湯、苓桂朮甘湯
- 精神神経疾患(心身症、更年期障害、神経症)
- 女神散、加味逍遥散、芎婦調血飲、抑肝散加陳皮半夏、連珠飲
参考文献
- 神崎仁『耳鳴の克服とその指導』金原出版、1999年。ISBN 4-307-50601-4。
出典
- ^ 神崎(1999)p.90
- ^ Riba, Michelle B.; Ravindranath, Divy (12 April 2010). Clinical manual of emergency psychiatry. Washington, DC: American Psychiatric Publishing Inc. p. 197. ISBN 978-1-58562-295-5
- ^ Delanty, Norman (27 November 2001). Seizures: medical causes and management. Totowa, N.J.: Humana Press. p. 187. ISBN 978-0-89603-827-1
- ^ 坂田英治『耳鳴りを治す本』、(マキノ出版、2002)
- ^ 神崎(1999)p.70-p.71
- ^ 神崎(1999)p.104