有機体論
有機体論(ゆうきたいろん、英:organicism [注 1])とは、生命現象の基本というのは、部分過程がorganize(編成)されて、その系(システム)に固有の平衡または発展的変化を可能にしている点にある、とする立場[1]のことである。
有機体論は、生命現象というのは、あくまで有機体の物質と過程がある特定な結合状態・秩序にあるときに(のみ)可能なものなのだということ、Systemeigenschaften(その系に具わる特性)である、ということに力点を置く[1][注 2]。
20世紀前半では、L.ベルタランフィー、ウッジャー(Joseph Henry Woodger)、W.E.リッター(William Emerson Ritter)、Edna.W.Baileyらによって論じられた[1]。その後も現在にいたるまで、多くの賛同者がいる。
歴史
もともと生命をどのように見るのか、ということについては、古代からいくつかの見方があった。(なお、生命に限らず、そもそも、人間のものの考え方には様々な方式がある、と言ってよい。)
ギリシアでは、イオニアの自然学に見られる自然観では、自然の変化をプシュケーによるものとして説明した。それに対して、アナクサゴラスやデモクリトスは(当時そのようなものは誰も見たこともなかったが)「atom 原子 」なる、微細な物質的な要素を空想し、そうした要素にもとづいた自然観を主張した(原子論)。だが、その後デモクリトスの自然観は一旦ほぼ忘れ去られ、思いだされたのは近代になってからである。
近世になると、ヨーロッパでデカルトが、<<延長>>という概念を前面に出しつつ、もっぱら要素的な物体の領域に着目する機械論的な自然観を主張した。それに対してライプニッツはモナド論を展開し、個体が有機的発展活動を営んでいることを説いた。
カントは、有機的な自然には合目的性が働いている、とした。そして全体と部分とは相互に制約しあう統一体である、とした(『判断力批判』)
ホワイトヘッド(1861-1947)は、有機体の創発性や過程性について考察し、環境とともに生成しつつ秩序を形成する組織体としてとらえた[2]。そして『過程と実在』において、全宇宙の生命が有機体的に自己創造することを壮大なコスモロジーとして説いた[2]。
L.ベルタランフィー(Ludwig von Bertalanffy)が説いた有機体論では、Fliessgleichgewicht流動平衡(内容的に動的平衡とほぼ同じもの)とhierarchy 階層構造の概念が中心的な役割を果たしている[2]。
有機体論は、今日の人間科学の基礎理論としても位置づけられている。例えば化学者プリゴジンの自己組織化理論、あるいは神経生理学者マトゥラーナや社会学者ルーマンのオートポイエーシス・システム理論などで、基礎理論として用いられているのである。[2]
参考文献
- 岩波生物学辞典 第4版【有機体論】
- 岩波 哲学思想事典【有機体(論)】新田義弘 執筆
出典
出典
脚注
- ^ 他言語では、仏:organicisme、独:Organizismus
- ^ 説いているテーマは生命論ではあるが、なかば人間の思考パターン自体の問題点を指摘している。例えば、<<家>>にはその下位要素として確かにドアや窓や屋根があるが、だからといって、家を一旦バラバラにして、ドアや窓や屋根などの要素を、たとえ全てであっても、空き地に乱雑に山のように積み上げても、それはもはや <<家>> では全然なく、ただのガレキにすぎない、 <<家>>と呼べるのはあくまでドア・窓・屋根などが特定の位置関係で、特定の結合状態で、特定の秩序にあるときである、といったことである。つまり、初学者が陥りがちな、また学者ですらしばしば陥ってしまうことがある、思慮の足らない還元主義という思考パターンの問題点の指摘が内に含まれている。
関連文献
- 書籍類
- William Emerson Ritter, The unity of the organism; or, The organismal conception of life, R.G. Badger, 1919
- ルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィ『生 命―有機体論の考察』みすず書房、1974、ISBN 4622016753
- ホワイトヘッド『過程と実在』 (平林康之訳、上・下 みすず書房、1981~83 ISBN 4622017601,ISBN 462201761X)
- ホワイトヘッド『過程と実在 ―生命の躍動的前進を描く「有機体の哲学」』(山本誠作訳、晃洋書房 2011 ISBN 4771022356)
- 西川富雄『自然とその根源力 』(叢書ドイツ観念論との対話)、ミネルヴァ書房 1993 ISBN 4623023656
- 野尻英一『意識と生命――ヘーゲル『精神現象学』における有機体と「地」のエレメントをめぐる考察』社会評論社、2010、ISBN 4784508996
- 論文類
- 望月俊孝 (1998)「カントの有機体論 : 「生命」の概念をめぐって」[1]
- 野尻英一(2006)「カントとヘーゲルにおける有機体論の差異について――社会科学の起源を探る――」
- 飯野和夫(1982)「シャルル・ボネの有機体論」 [2]
- 伊坂青司 「ヘーゲルの<有機体>論 --ドイツ観念論における自然哲学の一断面」