国制分類 (プラトン)

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プラトンの国制分類とは、プラトンが各対話篇で行った国制の分類。

『国家』における5分類[編集]

中期の『国家』第8巻においては、以下の5分類が提示される[1]

  • 「優秀者支配制」(アリストクラティア[2]) - 「理知」優位[3]
  • 「名誉支配制」(ティモクラティア[4]) - 「気概」優位[3]
  • 寡頭制」(オリガルキア[5])- (富への)「欲望」優位[6]
  • 民主制」(デモクラティア) - (自由への)「欲望」優位[7]
  • 僭主独裁制」(テュランニス)

この対話篇では、プラトンは、「哲人王」によって統治された「優秀者支配制」を理想的な国制とし、他方で、下方の劣った国制に転退・堕落していく原因と様相も描写している。

『政治家』における6分類(7分類)[編集]

後期の『政治家』においては、支配者の数と法律との関係によって分けられた現実の国制として、

  • 王制」(バシレイア) - 法律に基づく単独者支配
  • 僭主制」(テュランニス) - 法律に基づかない単独者支配
  • 貴族制」(アリストクラティア[8]) - 法律に基づく少数者支配
  • 寡頭制」(オリガルキア) - 法律に基づかない少数者支配
  • 民主制」(デモクラティア) - 多数者支配(法律に基づくか否かでの区別無し)

の5つが挙げられる[9]

「民主制」(デモクラティア)は、(多数者支配であるがゆえに)法律に基づくか否かの区別があまり意味を持たないため、区別されないままだが、この対話篇内で後述される、以下のような法律の観点からの区別を持ち込めば、これは6分類となる[10]。(逆に言えば、法律の観点を除き、支配者の数のみから見た場合、この分類は3分類となる。)

法律遵奉時 法律軽視時
最良 単独者支配(王制) 多数者支配(民主制)
中間 少数者支配(貴族制) 少数者支配(寡頭制)
最悪 多数者支配(民主制) 単独者支配(僭主制)

また、中期の『国家』において理想的な国制とされた、「哲人王」によって統治された「優秀者支配制」は、この対話篇では実現が困難なものとして埒外に置かれる[11]ので、それも含めれば、7分類となる。

『法律』における分類[編集]

後期末(最後)の対話篇である『法律』第3巻では、アテナイに代表される自由な民主制と、ペルシアに代表される専制的な君主制が、その両極端ゆえに衰退・崩壊したとして、スパルタクレタのように、両方の要素を適度に併せ持った国制、言わば、

が推奨される[13]

脚注・出典[編集]

  1. ^ 国家』第8巻-第9巻
  2. ^ 一般的には「貴族制」を指すが、ここではプラトンは語義通り「優秀者」による支配の意味で用いている。
  3. ^ a b 『国家』550B
  4. ^ 一般的にはソロンの改革に見られるような、財産によって階級・権限を分けた「財産政治/制限民主制」を意味する言葉だが、ここではプラトンはクレタスパルタに見られるような「軍人優位の、勝利と名誉を愛し求める体制」の意味で用いている。『国家』547D-548C
  5. ^ ここではプラトンは、この言葉を「財産評価に基づく体制」「財産家・富裕層による支配体制」の意味で、すなわち一般的には先の「ティモクラティア」という言葉で言い表されている意味内容で用いているので紛らわしい。『国家』550D, 551A-B
  6. ^ 『国家』553C, 562B
  7. ^ 『国家』562B
  8. ^ 『国家』においては「優秀者支配制」の意味で用いられていたが、ここでは本来の意味である「貴族制」の意味で用いられている。
  9. ^ 政治家』291D-292A
  10. ^ 『政治家』302B-303B
  11. ^ 『政治家』303B
  12. ^ 『プラトン全集13』岩波書店p830
  13. ^ 法律』第3巻693D-E,701D-E

関連項目[編集]