ネーターの定理

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ネーターの定理(ネーターのていり、: Noether's theorem)は、解析力学や場の理論における重要な定理であり、系に連続的な対称性があればそれに対応する保存則が存在することを主張するものである。 ドイツの女性数学者エミー・ネーターによって発見された。

内容

系が或る変換に対して記述に変化を受けない場合、この変換をその系の対称性と呼ぶ。特に解析力学においては、変換に対して系の作用積分が変化しない時に、この変換を対称性と呼ぶ。これは、系の運動方程式は最小作用の原理を通じて定まる為、作用の変分がゼロであれば系の運動方程式は変化しない為である。ネーターの定理は、ラグランジアンの変数に対する連続的な変換が系の対称性になっている場合に、対称性の下での作用の変分 (ゼロに等しい) が或る保存量の時間についての全微分になっている事を言っている。

解析力学におけるネーターの定理

ラグランジュ形式の解析力学で記述される系を考え、q=(q1,…,qn)を一般化座標とし、L を系のラグランジアンとする。このとき、作用積分

が微小変換

に対して対称性を持つとする。 ここで、この変換は幾つかのパラメータの線型結合で書けるとする。

但し、重複する添え字記号については、アインシュタインの記法に従い、和をとるものとする。 このとき、

は保存し、

を満たす。

場の理論におけるネーターの定理

場の量を扱う場の解析力学や場の量子論においても、対称性は基本的な概念であり、ネーターの定理がしばしば応用される。ネーターの定理によって導かれる保存則に登場する ネーターカレント (または 保存流)や、ネーターチャージ(または 保存電荷 )は特に重要な概念になっている。

力学変数として場 φ(x ) を考え、作用積分を

とする。

作用が座標の微小変換並びに付随する場の量の微小変換

に対して対称性を有し、

を満たすとする。このとき、ネーターカレント

が保存量となり、次式を満たす。

特に変換が次のようなパラメータの線型結合

で書ける場合には、ネーターカレントは

と表すこともできる。

現代的な見方では、場の変分は、場の量自身の変換と座標変換を含むδφではなく、同一座標値での差を取ったリー微分δ*φで記述すると都合がよい。

このとき、ネーターカレントは

または

と表される。

ネーターカレントの時間成分を積分した

ネーターチャージと呼ばれる。これは変換の生成子(無限小生成作用素)となり、次の交換関係を満たす。

場の理論における例

時空の並進対称性

座標変換において、無限小の平行移動を考える。

このとき、場の量の変換は、

であり、ネーターカレントは

となる。ここではTμν

で与えられるエネルギー・運動量テンソルである。保存則は

であるが、各無限小量ενは独立であるから

が成り立つ。対応するネーターチャージは、

となり、これはエネルギー並びに運動量である。

ローレンツ変換

無限小ローレンツ変換

と付随する場の無限小変換

を考える。ここで、行列Σμ ν

で定義される。また、γμ

で定義されるガンマ行列である。このとき、ネーターカレントは

となる。こうして定義された三階のテンソルMμνλを角運動量密度という。Mμνλはν、λについて反対称である。また、対応するネーターチャージは角運動量

となる。

電磁気学における例

たとえば、電磁気学においては作用がゲージ変換のもとで不変であり、これに伴い電荷の保存則 (連続の式) が導かれる。

ここで、Jはネーターカレントで、その第0成分は電荷密度である。

導出

力学変数 がラグランジュ方程式

を満たしているとする。

変換

を考える。 は変換のパラメータで、に於いて

である。 このとき、系が対称性を持つとは、作用積分

の関数としてみたとき、

となることである。

においてこの微分を計算すると、

運動方程式を用いれば、

また、

から、

従って、

が保存する。

参考文献

原論文
  • E. Noether, Nachr. Ges. Wiss. Gottingen, 235 (1918)[1]
  • F. Klein, Nachr. Ges. Wiss. Gottingen, 171 (1918)
  • E. Bessel-Hagen, Math. Ann., 84, 258 (1921)
関連論文

関連項目