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トカイワイン

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トカイ・エッセンシア

トカイワインまたはトカイハンガリー語:Tokaji)は、ハンガリートカイ(Tokaj)と周辺の地方からなるトカイ・ワイン地区(ハンガリー語:Tokaj-Hegyalja Borvidék)で作られるワインである。またトカイワイン地区の北端はスロヴァキアの国境と接しており、スロヴァキア側で作られた貴腐ワインもTokajiと表記することがEUの採決により許されている(同時にそれ以外の国や地方の貴腐ワインをTokajiあるいはそれに類する表記で販売することは禁止された)。

そのワインはトカイ地方独特の気候が産み出す。二つのが合流するトカイ地方は、からにかけての朝、濃いが発生する。この霧は丘の上に昇っていき、やがてブドウ畑全体を包み込む。そして霧による湿気によって、貴腐菌というカビに侵された白ブドウが作り出される。貴腐菌は水分を外に出し、糖分を濃縮させることで、とても甘いブドウになる。貴腐ワインが生まれたのは、17世紀にトカイはオスマン帝国の侵略を受け、住民たちはこの地から避難せざるを得なくなった。しかしを離れている間に、ブドウ本来の収穫期を過ぎてしまい、霧によって収穫されずに残っていた実にカビがつき、腐り始めていた。諦めきれずそのブドウでワインを作ったところ、濃厚で甘いのようなワインになったことが始まりである。

トカイワインには、主にフルミントと呼ばれるブドウ品種が用いられる。その他にトカイワイン地区で栽培されているブドウ品種はハールシュレヴェルーイエローマスカットなどで、一般的にはこの3種をブレンドして使うが、単一種によるワインも作られる。「トカイワイン」はトカイ貴腐ワインとほぼ同義に使われる名称であるが、トカイ地区ではそれ以外に辛口白ワインとしてのフルミントや、最近では遅摘みブドウによる甘口白ワイン(アイスワイン)なども生産されている。貴腐ワインやアイスワインの瓶は一般的なワインのもの(750ml)よりも小さめで500mlのものが標準サイズである。フランスソーテルヌ・ワインドイツトロッケンベーレンアウスレーゼと並ぶ世界三大貴腐ワインのひとつに数えられる。フランスのルイ14世に「王者のワインにしてワインの王者」(Vinum Regum, Rex Vinorum)と絶賛した逸話は有名である。フランツ・シューベルト1815年に作曲した「トカイ賛歌("Lob des Tokayers", D. 248)」という歌曲作品がある。

  • トカイ・エッセンシア (Tokaji Eszencia)
    • ボトリティス・ シネレア菌の影響で貴腐化したブドウのみを使い、圧搾機にかけず自然の重みで搾り出された果汁を自然発酵させた物。よってアルコール度数は10%未満と低く、糖分が非常に高い。グラスで普通のワインのように飲むと高い糖分のために血糖値を瞬間的に高くするので、専用の匙などで「一口だけ」が推奨される飲用法である。アスーの規格改正で生まれた階級のアスー・エッセンシアと区別するために「ナチュラル・エッセンシア」というラベルで販売されていることもある。オレムスの醸造長によると、できない年もありできる年でも1ヘクタールでやっと500ml x 2本のエッセンシアができるほど大変貴重なものである。1600年のエッセンシアが存在するなどの噂もあり、ワインでもっと熟成に耐えるワインといわれているので、文化的価値の高さも伺える。他の国の貴腐ワインでは100%貴腐葡萄からのワインは存在していないため、地球上でトカイだけが唯一貴腐葡萄100%である。またPCゲームのファイナルファンタジーでのエリクサーのモデルとされたワインでもある。昔ハンガリーでは薬として飲まれていたほどである。
  • トカイ・アスー・エッセンシア (Tokaji Aszú Eszencia)
    • トカイ・ワイン規格の更新によって生まれた貴腐ワイン、アスーの階級。それまでは136リットルの樽の中に、プットニというトカイ産地の伝統的なブドウ籠で何杯分の貴腐ブドウ(1籠約25kg=この籠は統一規格ではなく21kgから27kgと幅がある)が含まれているか、という規格であったが、更新後はリッターあたり何グラムの糖分が含まれているかによって、3~6プットニョシュのランク付けを行うことになった。しかし当り年には6プットニョシュ以上の糖分を含む貴腐ワインができるために、6プットニョシュ超級として「アスーエッセンシア」という新しい階級が生まれた。

ソムリエ教本でさえあいまいに書かれているが、樽での熟成期間が3年、瓶熟成が2年以上の合計5年の熟成期間を経てから市場に卸されることも規格上のルールの一つである。

  • トカイ・アスー・3-6プットニョシュ (Tokaji Aszú puttonyos)
    • 136リットルに対してプットニシュ(約25キログラム)という単位で貴腐ブドウが何杯使われているかを表している貴腐ワインで「トカイ・ワイン」と言えば普通はこの貴腐ワインのことである。アスー・エッセンシアで記したとおり現在の規格では、貴腐ブドウの使用量ではなく出来上がったアスーワインの糖分含有量によって3~6プットニョシュおよびアスー・エッセンシアの5階級に分類される。エッセンシアやサモロドニとの分類は、貴腐ブドウの使用量ではなく醸造技法による。貴腐ブドウと貴腐化していないブドウをそれぞれ一次発酵後にブレンドした貴腐ワインがアスー(Tokaji Aszú)である。ソムリエ教本でもあいまいに書かれているが、樽での熟成期間が2年、瓶熟成が1年以上の合計3年熟成期間を経てから市場に卸されることも規格上のルールの一つである。
  • トカイ・サモロドニ 甘口と辛口 (Tokaji Szamorodni) <édes-sweet száraz-dry>
    • アスー(アスーエッセンシアと3~6プットニョシュの貴腐ワイン)が、貴腐ブドウと貴腐化していないブドウをそれぞれ別々に一次発酵させてからブレンドして作られるのに対して、貴腐ブドウとそうでないブドウとを選別しないでそのまま作ったワインである。また発酵を人工的に止めることはせず酵母が自ら活動を止めるまで任せておくという、より伝統的な醸造法を取ることも特徴で、醸造技術ではなくその年の自然状況に大きく影響されるため、アスー以上にヴィンテージに意義のあるワインである。現在はアスーの影に隠れてしまったが、歴史的に「トカイ・ワイン」の名を広めたのはこのサモロドニのことであったと言われる。スイートの場合、当り年のものは3プットニョシュ以上の糖分を含むことも稀ではなく、セプシ・イシュトヴァンの2003年サモロドニは糖分含有量が5プットニョシュに相当するものである。またドライの場合、貴腐ワイン独特の香りをもつフルーティな辛口ワインとなる。辛口のサモロドニなどはシェリーの産膜酵母ができているのを確認することもできるが、ワイナリーが試飲などで触れてしまうためみることは稀である。尚、日本では間違ってソモロドニと表記されてしまっている。
  • トカイ・フォルディターシュ (Tokaji Fordítás)
    • ハンガリー語の直接の意味は、「ひっくり返す」である。トカイアスーに使われた貴腐葡萄(アスーパスタ)を再度使って作るワインである。貴腐葡萄100%のワインともいえる。アタックにエッセンシアの片鱗を感じられるが、アフターが短いのが特徴。 
  • トカイ・マーシュラーシュ (Tokaji Máslás)
    • ハンガリー語の直接の意味は「コピー」でアスーワインを作る過程でのベースワインと混ぜた貴腐葡萄を再度ベースワインに加えてつくるワイン。このワインは現在市場にはほとんどでまわっていない。


  • その他
    • 上述5種(エッセンシア、アスー3~6プットニョシュ+アスーエッセンシア、サモロドニ、フォルディターシュ、マーシュラーシュ)以外には、フルミントの辛口ワインなどが作られている。また最近では、アイスワインも生産されるなどワイナリーの切磋琢磨の様が伺える。

関連項目