飲膳正要

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『飲膳正要』
飲膳正要
繁体字 飲膳正要
簡体字 饮膳正要
発音記号
標準中国語
漢語拼音Yǐnshàn zhèngyào

飲膳正要』(いんぜんせいよう)は、中国元代料理書養生書・本草書[1]。当時のモンゴル料理食事療法イラスト付きで記されている。1330年忽思慧中国語版が元の文宗に献上した[2]

内容[編集]

本書は現代では料理書として知られるが、本来は王侯貴族のための養生書である[3]。書かれた時代を反映して、モンゴル語トルコ語ペルシア語アラビア語ウイグル語などの漢訳らしき語が多く含まれる[1][4]

料理は、滋養に良いとされる羊肉や、タルバガンチャツァルガナなど、北方の特産品を使った料理が多い[4]西方料理もある[5]。南方の中華料理は少ない[6]。記述が簡潔なため、料理を再現するのは難しい[7]

医学面では、当時最先端だった金元医学中国語版は反映されておらず、旧来の説に従う部分が多い[8]

イラストは各巻にあるが[9]、料理の図解よりも食事風景を主に描いている。画中には当時栄えた磁州窯の器も見える[10]

目次[編集]

全3巻24篇。

  • 巻1
    • 「三皇聖紀」
    • 「養生避忌」 - 養生論[2]
    • 「妊娠食忌」 - 妊婦のための養生論。
    • 「乳母食忌」
    • 「飲酒避忌」
    • 「聚珍異饌」 - モンゴルの珍味料理95種のレシピ[2][4]
  • 巻2
    • 「諸般湯煎」 - 薬用剤56種のレシピ[2]
    • 「諸水」
    • 「神仙服食」
    • 「四時所宜」
    • 「五味偏走」
    • 「食療諸病」 - 治療食のレシピ[2]
    • 「服薬食忌」
    • 「食物利害」
    • 「食物相反」 - 避けるべき食べ合わせ
    • 「食物中毒」
    • 「禽獣変異」
  • 巻3 - 中国の本草書を参考に食材を解説する本草部[2]
    • 「米穀品」
    • 「獣品」
    • 「禽品」
    • 「魚品」
    • 「果品」
    • 「菜品」
    • 「料物」

成立[編集]

元代天暦3年(1330年)3月、忽思慧中国語版文宗トク・テムルに献上した[2]。忽思慧は、延祐年間(1314年 - 1320年)から「飲膳太医」を務めていた[2]。「飲膳太医」とは、世祖クビライが設置した元代特有の官職(定員4名)であり[2]、宮廷の料理人医師[4]太医中国語版)にあたる。

本書の編纂には、忽思慧だけでなく、趙国公の常普蘭奚も参加し、大司農張金界奴が校正にあたり[11]虞集が序を寄せている[1]

伝来[編集]

本書は20世紀になるまで周知されていなかった[2]。元代には公刊されず、秘府に蔵されていた[1]明代景泰7年(1456年)、代宗景泰帝の命により覆刻・公刊された[2]。この景泰本は日本にも伝わり、幕末の森立之らに言及された[2]。20世紀、『四部叢刊続編』が日本の静嘉堂文庫所蔵の景泰本の影印を収録したことで、周知されるようになった[2]。なお、景泰本と別系統の明刊本・鈔本や、残巻のみの元刊本も現存する[12]

日本語訳[編集]

  • 忽思慧 著、金世琳;越智猛夫 訳『薬膳の原典 飲膳正要』八坂書房、1993年。ISBN 978-4896946239 (全イラストも収録)

参考文献[編集]

関連文献[編集]

  • ソロングト・バ・ジグムド 著、ジュルンガ;竹中良二;丸山博 訳『モンゴル医学史』農山漁村文化協会、1991年。ISBN 4-540-91074-4 
  • 遠藤雅司「フビライとの宴 馬乞(マーチ)」『歴メシ! 決定版――歴史料理をおいしく食べる』晶文社、2022年。ISBN 978-4794973429 
  • 中村喬「『飲膳正要』 養生薬膳の書」『月刊しにか』第7巻、第12号、大修館書店、1996年。 NAID 40004854886 

外部リンク[編集]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 篠田 1972, p. 329f.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 加藤 1991, p. 182f.
  3. ^ 篠田 1972, p. 330;340.
  4. ^ a b c d 小長谷 2005, p. 199ff.
  5. ^ 篠田 1972, p. 334.
  6. ^ 篠田 1972, p. 333.
  7. ^ 篠田 1972, p. 340.
  8. ^ 篠田 1972, p. 330ff.
  9. ^ 小林 2017, p. 94.
  10. ^ 宮 2018, p. 32(巻2「諸般湯煎」の画中).
  11. ^ 宮 2018, p. 394.
  12. ^ 宮 2008, p. 8.