蟻浴

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
典型的な蟻浴の身振りをするオウチュウ

蟻浴(ぎよく。: Einemsen, : anting)とは、鳥類が自らの昆虫、通常はアリを擦り付ける行動である。

アリなどの昆虫はギ酸などの、殺虫剤殺ダニ剤殺菌剤 として機能しうる化学物質を分泌する。また、味の悪い酸を除去してそれらの昆虫を食べられるようにするという目的とも考えられている。鳥自身の尾腺フランス語版英語版から出る分泌物を補っているとも見られる。アリの代わりにヤスデが用いられることもある。250以上のが蟻浴をすることが知られている。日本に生息する鳥類の例ではカラスムクドリなど[1]

発見史[編集]

この行動は、ドイツの鳥類学者エルヴィン・シュトレーゼマンドイツ語版英語版によって1935年に『鳥類学月報』誌(Ornithologische Monatsberichte XLIII. 138)でeinemsenとして初めて記述された。インドの鳥類学者サリーム・アリー英語版は1936年に『ボンベイ自然誌協会英語版誌』において、いとこのフマーユーン・アブドゥラリ英語版による観察の解釈を行い、その中でシュトレーゼマンの論文について考察し、この語はantingと英訳できるのではないかと提案した[2]

蟻塚の土を羽にまぶす鳥が観察されており、これも蟻浴と同等なものであると考える研究者もいる[3]

効用[編集]

蟻浴はダニなどの羽につく寄生虫を減らしたり、菌類細菌類を抑えたりするのではないかと考えられてきたが、いずれの理論にも説得性のある論拠はほとんどない[4][5]。ある種のアリが用いられることは、それらが放つ化学物質の重要性を示唆している。

鱗翅目の幼虫を用いた「蟻浴」の例も多々あり、臭角から放出される防御物質を利用しているのではないかとする考察がある[6]。またホソクビゴミムシ、ハサミムシヤスデなどのキノン類を放つ虫や、さらには生のタマネギ、ヘアトニック、防虫剤、溶いたマスタード、燃えるマッチのような刺激性のあるもの全般でも蟻浴行動が誘発される場合がある[7]


アオカケスの観察に基づく蟻浴の別の効用の仮説として、有害な酸を自分の羽に散らすことで昆虫を食べられるようにしているのだというものがある。アオカケスはアリの酸嚢が満たされている時にのみ蟻浴行動を見せ、実験的にアリの酸嚢を取り除いておいた場合には蟻浴は見られなかった[7]

羽の生え変わりに蟻浴が関係しているという説もある。しかしながら、この相関関係は夏には蟻の活動が増大することにも帰しうる[8]

脚注[編集]

  1. ^ 柿澤亮三ほか 『森の動物の100不思議』 日本林業技術協会、1994年、28ページ。ISBN 978-4487790685
  2. ^ Ali, Salim (1936) Do birds employ ants to rid themselves of ectoparasites? Journ. Bombay Nat. Hist. Soc., 38(3):628-631.
  3. ^ Kelso, L. and Nice, Margaret M. 1963 A Russian contribution to anting and feather mites. The Wilson Bulletin 75(1):23-26 PDF
  4. ^ Revis, H.C. and Waller, D.A. (2004) Bactericidal and Fungicidal Activity of ant chemicals on feather parasites: an evaluation of anting behavior as a Method of Self-medication in Songbirds. The Auk 121(4): 1262–1268
  5. ^ Lunt, N, P.E.Hulley, A. J. F. K. Craig (2004) Active anting in captive Cape White-eyes Zosterops pallidus. Ibis 146:360–362 PDF
  6. ^ Wenny, Dan (1998). “Three-striped warbler (Basileuterus tristriatus) "anting" with a caterpillar” (PDF). Wilson Bull. 110 (1): 128-131. http://elibrary.unm.edu/sora/Wilson/v110n01/p0128-p0131.pdf 2010年10月12日閲覧。. 
  7. ^ a b Eisner, T. (2008) “Anting” in Blue Jays, evidence in support of a food-preparatory function. Chemoecology 18(4): 197–203
  8. ^ Power, E. E and D. C. Hauser 1974. Relationship of anting and sunbathing to molting in wild birds. Auk 91:537-563. PDF

関連項目[編集]