科学技術・イノベーション基本計画

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科学技術・イノベーション基本計画(かがくぎじゅつ・いのべーしょんきほんけいかく)は科学技術イノベーション創出の振興施策を推進する日本の基本計画である[1]

概要[編集]

科学技術・イノベーション基本計画(以下、基本計画)は研究開発とイノベーション創出の推進に関する方針・人材育成施策・環境整備施策・必要事項を定める。基本計画は中期計画であり、5年ごとに再策定されている。以下はこれまでの基本計画である:

  • 第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021~2025年度)
  • 第5期科学技術基本計画(2016~2020年度)
  • 第4期科学技術基本計画(2011~2015年度)
  • 第3期科学技術基本計画(2006~2010年度)
  • 第2期科学技術基本計画(2001~2005年度)

策定過程[編集]

基本計画の策定は政府の義務であり[2]、その際、総合科学技術・イノベーション会議(以下、CSTI)の議を経ることが法律で定められている[3]。現在は次の過程を経て決定される:

  • 諮問(内閣総理大臣 → CSTI)
  • 基本計画案の策定(CSTI傘下の基本計画専門調査会)
  • 答申(CSTI → 内閣総理大臣)
  • 閣議決定(内閣

例えば第6期基本計画の場合、2019年4月に首相からCSTIへ諮問がおこなわれ[4]、2019年8月から2021年2月にかけて専門調査会が基本計画案を策定し、2021年3月16日にCSTIとして答申が出され[5]、2021年3月26日に基本計画が閣議決定された[6]

法的根拠[編集]

科学技術・イノベーション基本計画は科学技術・イノベーション基本法を法的根拠とする。この法律により基本計画の策定が義務付けられ(法第12条1[2])、また予算措置を含めた基本計画の履行が求められる(法第12条6[7])。

科学技術基本計画[編集]

科学技術基本計画(かがくぎじゅつきほんけいかく)は科学技術・イノベーション基本計画の前身にあたる基本計画である。

統合イノベーション戦略[編集]

統合イノベーション戦略(とうごういのべーしょんせんりゃく)は科学技術・イノベーション基本計画に基づいた年次戦略である[8]

統合イノベーション戦略(以下、統合戦略)では、科学技術・イノベーション基本計画の中長期的な方向性および過去年度の実施状況を踏まえ、各年度の重点施策を規定する[9]。すなわち中長期方針と実行状況に基づいた年次戦略・計画である。年次戦略である統合戦略は1年ごとに再策定されている。以下はこれまでの年次戦略である:

統合戦略の策定は科学技術・イノベーション基本計画を根拠とする[10]

統合イノベーション戦略の策定過程[編集]

統合イノベーション戦略は基本計画の年次戦略であることから、総合科学技術・イノベーション会議(以下、CSTI)の議を経て決定される。一方で年次レベルの施策決定は各司令塔機能との綿密な連携が必要であることから、案の策定においては統合イノベーション戦略推進会議(以下、推進会議)が大きな役割を果たしている。

現在は次の過程を経て決定される:

  • 戦略案の策定
  • 決定(推進会議)
  • 諮問(内閣総理大臣CSTI
  • 答申(CSTI → 内閣総理大臣)
  • 閣議決定(内閣

例えば戦略2022の場合、2022年6月1日に推進会議として戦略2022案が決定し[11]、2022年6月2日に首相からCSTIへ諮問がおこなわれ[12]、2022年6月2日にCSTIとして答申が出され[13][14]、2022年6月3日に「統合イノベーション戦略2022」として閣議決定された[15]

科学技術イノベーション総合戦略[編集]

科学技術イノベーション総合戦略(かがくぎじゅついのべーしょんそうごうせんりゃく)は統合イノベーション戦略の前身にあたる年次戦略である。2013~2017年度の各年度に策定されていた。

統合イノベーション戦略推進会議[編集]

統合イノベーション戦略推進会議(とうごういのべーしょんせんりゃくすいしんかいぎ)はイノベーションに関連が深い複数の司令塔会議を調整し、統合イノベーション戦略を推進するための会議である[16]

2024年2月現在、調整対象となる司令塔会議は以下である:

推進会議は内閣に設置され、統合イノベーション戦略 (2018年度) を間接的な、内閣総理大臣決裁「統合イノベーション戦略推進会議の設置について」を直接的な設置根拠とする[17][18]

統合戦略は基本計画の年次戦略であるため、推進会議の究極の目的は政府一丸での基本計画推進であるといえる。

統合イノベーション戦略推進会議本会議[編集]

統合イノベーション戦略推進会議における本会議(ほんかいぎ)は統合イノベーション戦略推進会議の主要会議である。

本会議は統合イノベーション戦略や有識者会議から上がった各種指針等の決定・了承を担っている。2018年に第1回が開催され、2024年3月現在で第18回まで開催されている。第12回(2022.6)以降、第18回(2024.2)まで全て持ち回り開催されている[19][20]

イノベーション政策強化推進のための有識者会議[編集]

イノベーション政策強化推進のための有識者会議(いのべーしょんせいさくきょうかすいしんのためのゆうしきしゃかいぎ)は統合イノベーション戦略推進に関する専門事項調査を目的として、課題ごとに設置される有識者会議である[21]

統合イノベーション戦略に含まれる個別戦略を扱う有識者会議である。2024年現在、以下の有識者会議が設置されている:

以下は終了した有識者会議および傘下の会議体である:

AI戦略会議[編集]

AI戦略会議(えーあいせんりゃくかいぎ)はAIに関する専門事項調査を目的とした有識者会議である。

AI戦略実行会議(イノベーション政策強化推進のための有識者会議「AI戦略」)の発展的解消により、新たな有識者会議として2023年に設置された[23]

AIに関する暫定的な論点整理[編集]

AIに関する暫定的な論点整理(えーあいにかんするざんていてきなろんてんせいり)は AI 戦略会議の有識者による AI に関する2023年5月時点での暫定的な論点整理である。

AI 戦略会議が2023年5月に発表し、2023年6月に統合イノベーション戦略推進会議で了承されている[30]

秩序あるAI発展のために、以下の7つのリスクについて論点を整理している:

  • ① 機密情報の漏洩や個⼈情報の不適正な利⽤のリスク
  • ② 犯罪の巧妙化・容易化につながるリスク
  • ③ 偽情報等が社会を不安定化・混乱させるリスク
  • ④ サイバー攻撃が巧妙化するリスク
  • ⑤ 教育現場における⽣成 AI の扱い
  • ⑥ 著作権侵害のリスク[31]
    • リスク: 類似物の生成、大量の権利侵害案件による紛争解決対応の困難化、クリエイティブ効率化(アップサイドリスク)
    • 政府対応: 現行法の周知、生成物著作物性・利用時著作権侵害・学習と権利制限但書等に関する論点整理と対応が必要
  • ⑦ AI によって失業者が増えるリスク[32]
    • リスク: 広い業種での技術的失業リスク
    • 政府対応: 影響の調査研究、対応策の検討、リスキリング・人材流動化の検討が必要

この論点整理は知的財産推進計画2023急速に発展する生成 AI 時代における知財の在り方)や文化審議会法制度小委員会2023年度)での議論の前提となっている。

脚注[編集]

  1. ^ "第十二条 政府は、科学技術・イノベーション創出の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため" 科学技術・イノベーション基本法(令和二年法律第六十三号による改正).
  2. ^ a b "第十二条 政府は ... 科学技術・イノベーション創出の振興に関する基本的な計画(以下この条において「科学技術・イノベーション基本計画」という。)を策定しなければならない。" 科学技術・イノベーション基本法(令和二年法律第六十三号による改正).
  3. ^ "3 政府は、科学技術・イノベーション基本計画を策定するに当たっては、あらかじめ、総合科学技術・イノベーション会議の議を経なければならない。" 科学技術・イノベーション基本法(令和二年法律第六十三号による改正).
  4. ^ "府政科技第 301 号 平成31年4月18日 ... 平成33年度から5か年の科学技術基本計画の策定のため、貴会議において調査審議する必要がある" 内閣総理大臣. (2019). 諮問第21号「科学技術基本計画について」. 総合科学技術・イノベーション会議(第52回)議事次第.
  5. ^ "「科学技術基本計画について」に対する答申 令和3年3月 16 日" 総合科学技術・イノベーション会議. (2021). 諮問第21号「科学技術基本計画について」に対する答申. 総合科学技術・イノベーション会議(第52回)議事次第.
  6. ^ "科学技術・イノベーション基本計画について(決定)" 内閣. (2021). 令和3年3月26日(金)定例閣議案件. 首相官邸.
  7. ^ "6 政府は、科学技術・イノベーション基本計画について、その実施に要する経費に関し必要な資金の確保を図るため、毎年度、 ... 実施に必要な措置を講ずるよう努めなければならない。" 科学技術・イノベーション基本法(令和二年法律第六十三号による改正).
  8. ^ "統合戦略 ... 基本計画に基づき、毎年度特に重点を置くべき施策を毎年の状況変化を踏まえ⽰す戦略。" 第6期科学技術・イノベーション基本計画.
  9. ^ "第6期基本計画において⽰された中⻑期的な政策の⽅向性を踏まえ ... 毎年の状況変化を踏まえその年度に特に重点を置くべき施策について定めてきた。 " 第6期科学技術・イノベーション基本計画.
  10. ^ "年次戦略として統合戦略を策定 ... 第6期基本計画期間中においても、毎年度、特に重点を置くべき施策について、第6期基本計画との関連性を明確にして年次戦略で⽰していく。" 第6期科学技術・イノベーション基本計画.
  11. ^ "令和4年6月1日付をもって、議題(1)「統合イノベーション戦略2022(案)について」については、全ての議員において、原案通り決定することを議決した。" 統合イノベーション戦略推進会議. (2022). 第12回統合イノベーション戦略推進会議 議事要旨. 統合イノベーション戦略推進会議(第12回).
  12. ^ "府科事 第 605号 令和4年6月2日 ... 「統合イノベーション戦略2022」の策定のため、貴会議において調査審議する必要がある" 内閣総理大臣. (2022). 諮問第30号「統合イノベーション戦略2022について」. 総合科学技術・イノベーション会議(第61回)議事次第.
  13. ^ "議題のうち、「統合イノベーション戦略2022(案)」について、この会議の答申とすること ... 可決された。" 総合科学技術・イノベーション会議. (2022). 第61回総合科学技術・イノベーション会議議事概要. 令和4年度 総合科学技術・イノベーション会議(本会議).
  14. ^ "「統合イノベーション戦略 2022 について」 に対する答申(案) 令和4年6月2日" 総合科学技術・イノベーション会議. (2022). 諮問第 30 号「統合イノベーション戦略 2022 について」 に対する答申(案).
  15. ^ "統合イノベーション戦略2022について(決定)" 内閣. (2022). 令和4年6月3日(金)定例閣議案件. 首相官邸.
  16. ^ "イノベーションに関連が深い司令塔会議である ... 会議について、横断的かつ実質的な調整を図るとともに、同戦略を推進するため、内閣に統合イノベーション戦略推進会議 ... を設置する。" 内閣総理大臣決裁. (2021). 統合イノベーション戦略推進会議の設置について.
  17. ^ "2018 年夏を目途に、「統合イノベーション戦略推進会議」を設置する" 統合イノベーション戦略 (2018年度)
  18. ^ "内閣に統合イノベーション戦略推進会議 ... を設置する。" 内閣総理大臣決裁. (2021). 統合イノベーション戦略推進会議の設置について.
  19. ^ "第12回統合イノベーション戦略推進会議を持ち回り開催し" イノベーション戦略推進会議. (2022). 第12回統合イノベーション戦略推進会議 議事要旨.
  20. ^ "第18回統合イノベーション戦略推進会議を持ち回り開催し" 統合イノベーション戦略推進会議. (2024). 第18回統合イノベーション戦略推進会議 議事要旨.
  21. ^ "1.統合イノベーション戦略推進会議の下 ... 「統合イノベーション戦略」... の推進に関する専門の事項を調査することを目的として、「イノベーション政策強化推進のための有識者会議」... を課題毎に設置する。" 統合イノベーション戦略推進会議. (2018). 「イノベーション政策強化推進のための有識者会議」 の設置について. 統合イノベーション戦略推進会議(第9回).
  22. ^ "第2項の規定に基づき、イノベーション政策強化推進のための有識者会議「核融合戦略」... を開催する。" 統合イノベーション戦略推進会議議長. (2022). イノベーション政策強化推進のための有識者会議「核融合戦略」の開催について. 統合イノベーション戦略推進会議(第13回).
  23. ^ a b "幅広い知見を有する有識者による「AI戦略会議」を新たに設置した。" 統合イノベーション戦略 2023.
  24. ^ "第2項の規定に基づき、イノベーション政策強化推進のための有識者会議「安全・安心」... を開催する。" 統合イノベーション戦略推進会議議長. (2018). イノベーション政策強化推進のための有識者会議「安全・安心」の開催について. 第1回 イノベーション政策強化推進のための有識者会議「安全・安心」.
  25. ^ "第2項の規定に基づき、イノベーション政策強化推進のための有識者会議「バイオ戦略」(以下「会議」という。)を開催する。" 統合イノベーション戦略推進会議議長. (2019). イノベーション政策強化推進のための有識者会議「バイオ戦略」の開催について. 第1回 イノベーション政策強化推進のための有識者会議「バイオ戦略」.
  26. ^ "第2項の規定に基づき、イノベーション政策強化推進のための有識者会議「量子技術イノベーション」... を開催する。" 統合イノベーション戦略推進会議議長. (2019). イノベーション政策強化推進のための有識者会議「量子技術イノ ベーション」の開催について. 第1回 イノベーション政策強化推進のための有識者会議「量子技術イノベーション」.
  27. ^ "第2項の規定に基づき、イノベーション政策強化推進のための有識者会議「マテリアル戦略」... を開催する。" 統合イノベーション戦略推進会議議長. (2020). イノベーション政策強化推進のための有識者会議「マテリアル戦略」の開催について. 第1回 マテリアル戦略有識者会議.
  28. ^ "第2項の規定に基づき、イノベーション政策強化推進のための有識者会議「AI戦略」(AI戦略実行会議)... を開催する。" 統合イノベーション戦略推進会議議長. (2018). イノベーション政策強化推進のための有識者会議「AI戦略」(AI戦略実行会議)の開催について. 第1回 イノベーション政策強化推進のための有識者会議「AI戦略」(AI戦略実行会議).
  29. ^ "AI戦略実行会議の下に、「新AI戦略検討会議」... を開催する。" AI戦略実行会議. (2021). 「新AI戦略検討会議」の開催について. 新AI戦略検討会議(第1回).
  30. ^ "議題(3)「AIに関する暫定的な論点整理について」については、全ての議員において、了承された。" 統合イノベーション戦略推進会議. (2023). 第16回統合イノベーション戦略推進会議 議事要旨. 統合イノベーション戦略推進会議(第16回).
  31. ^ "⑥ 著作権侵害のリスク ⽣成 AI がオリジナルに類似した著作物を⽣成 ... 著作権侵害事案が⼤量に発⽣し、紛争解決対応も困難 ... 映像制作を効率化する例もある ... 政府は、まずは現⾏の著作権法制度を丁寧に周知すべき ... AI ⽣成物が著作物として認められる場合、その利⽤が著作権侵害に当たる場合や著作物を学習⽤データとして利⽤することが不当に権利者の利益を害する場合の考え⽅などの論点を整理し、必要な対応を検討すべき" AI戦略会議. (2023). AIに関する暫定的な論点整理.
  32. ^ "⑦ AI によって失業者が増えるリスク AI が⼈間の作業を代替する可能性は、失業リスク ... より広い分野・職種で ... 失業者が増えるのではないか ... 政府は、AI が雇⽤に与える影響に関する各種の調査研究等の情報を収集し、必要に応じて対応を検討すべき ... リスキリングや⼈材流動化を ... AI の⽂脈においても検討していくべき" AI戦略会議. (2023). AIに関する暫定的な論点整理.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]