ルーベンスとイザベラ・ブラント

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『ルーベンスとイザベラ・ブラント』
英語: Honeysuckle Bower
作者ピーテル・パウル・ルーベンス
製作年1609年
種類油彩キャンバス
寸法178 cm × 136.5 cm (70 in × 53.7 in)
所蔵アルテ・ピナコテークミュンヘン

ルーベンスとイザベラ・ブラント[1]: Honeysuckle Bower)は、フランドルの画家ピーテル・パウル・ルーベンスにより1609年頃に描かれた絵画である。

『スイカズラの木陰のルーベンスとイザベラ・ブラント』[2]とも。ミュンヘンにあるアルテ・ピナコテークに収蔵されている[3]

作品[編集]

ルーベンスは1609年イザベラ・ブラントと結婚した。このころのルーベンスはアントウェルペンノートルダム寺院より『キリスト昇架』や『キリスト降架』の制作依頼を受け、すでにヨーロッパでの名声を獲得していた。イザベラはアントウェルペンの有力者の娘であった[4]

本作は、結婚を記念して結婚直後に描かれた、自分たち新婚夫婦の肖像画であり、ルーベンスが32歳、イザベラが18歳のときのものである[4][5]

『ロザリオをもつ貴婦人の肖像』

2人の背景には、スイカズラというつる植物が描かれている。スイカズラは、甘い香りをもち、つるが絡み合うことから、恋人の象徴とされている。2人は寄り添っており、ルーベンスの右手にイザベラの右手が重ね合わされている。イザベラの右手人差し指には、指輪がはめられている[4][5]

2人は流行の衣装を身につけており、イザベラがつけている腕輪も高価なものと思われる。首に巻いている襞襟(フレーズ)については、イザベラは固く糊付けされた円盤状のもので、ルーベンスのほうは柔かいレースが用いられている。ルーベンスは、足を組んで座っている[6]。彼は、を帯びることで、地位のある者であることを示している[4]

本作におけるイザベラの服装と極めてよく似た衣装を身につけた人物を描いた、ルーベンスによる作品『ロザリオをもつ貴婦人の肖像』が、ティッセン=ボルネミッサ美術館に収蔵されている[7]

解釈[編集]

美術史家の小林頼子は、「スイカズラには、終わりなき歓び、変わらない心といった意味合いがあり、新婚の門出の喜びをスイカズラに託したり、愛がいつまでも変わらないことを誓ったりといったことが、ルーベンスがこの肖像画に込めた思いであったのだろう」との旨を述べている[8]

脚注[編集]

  1. ^ カルカ麻美. “ヨーロッパ絵画の宝庫アルテ・ピナコテーク”. 株式会社オールアバウト. 2018年12月30日閲覧。
  2. ^ 『巨匠たちの迷宮』 2009, p. 54.
  3. ^ 『名画の謎』 2016, p. 184.
  4. ^ a b c d 『名画の謎』 2016, p. 182.
  5. ^ a b 『花と果実の美術館』 2010, p. 34.
  6. ^ 『しぐさで読む美術史』 2015, p. 193.
  7. ^ 荒屋鋪透 (1985年11月15日). “作品解説:『ルーベンス展』より”. 三重県立美術館. 2018年12月30日閲覧。
  8. ^ 『花と果実の美術館』 2010, p. 36.

参考文献[編集]

  • 木村泰司『巨匠たちの迷宮 名画の言い分』集英社、2009年。ISBN 978-4-08-781421-7 
  • 中野京子『中野京子と読み解く 名画の謎 対決篇』文藝春秋、2016年。ISBN 978-4-16-390308-8 
  • 小林頼子『花と果実の美術館 名画の中の植物』八坂書房、2010年。ISBN 978-4-89694-967-4 
  • 宮下規久朗『しぐさで読む美術史』筑摩書房、2015年。ISBN 978-4-480-43318-3