ベンゼン

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ベンゼン
IUPAC名 ベンゼン
別名 ベンゾール
識別情報
CAS 71-43-2
PubChem 241
RTECS CY1400000
SMILES c1ccccc1
C1=CC=CC=C1
InChI InChI=1/C6H6/c1-2-4-6-5-3-1/h1-6H
特性
化学式 C6H6
モル質量 78.11 g/mol
外見 無色透明の液体
密度 0.8786 g/cm3, 液体
融点

5.5 °C, 279 K, 42 °F

沸点

80.1 °C, 353 K, 176 °F

への溶解度 0.8 g/L (25 °C)
粘度 0.652 cP at 20 °C
双極子モーメント 0 D
危険性
危険性標識 強い可燃性(F)
Carc. Cat. 1
Muta. Cat. 2
毒性(T)
NFPA 704
3
2
0
Rフレーズ R45, R46, R11, R36/38,R48/23/24/25, R65
Sフレーズ S53, S45
引火点 −11 °C
関連する物質
関連物質 トルエン
ボラジン
特記なき場合、データは常温(25 ℃)・常圧(100 kPa)におけるものである。

ベンゼン (benzene, C6H6) は最も単純な構造の芳香族炭化水素である。分野によっては慣用としてドイツ語 (Benzol) 風にベンゾールと呼ぶことがある。ベンジンとはまったく別の物質であるが、英語では同音異綴語である。

置換基となる場合はフェニル基 (phenyl group) と呼ばれる。フェニル基の略号としてはPhが用いられる。芳香族炭化水素の置換基はアリール基と呼ばれ、フェニル基はナフチル基と同様にアリール基に属する。

6個の炭素原子が平面上にの甲(六角形)状に配置し、各炭素はsp2混成軌道をとっている。ケクレ構造式(構造式左図、後述)では交代する二重結合単結合で表されているが、実際には非局在化しているため、π電子は特定の結合に寄与していない。したがってすべての結合は等価でありケクレ構造式のような区別はない。非局在化していることを強調するためにベンゼン環を六角形の中に丸を書いた形(構造式右図)で表示することがある。

石油化学工業に代表される化学工業において基礎的な物質であり、構造および性質が類似する4物質、ベンゼン (Benzene)、トルエン (Toluene)、エチルベンゼン (Ethylbenzene)、キシレン (Xylene) の頭文字をとってBTEXと称されることがある。

目次

[編集] 物性

融点5.49℃、沸点80.1℃、無色の液体溶剤自動車燃料のほか、有機化学工業において幅広く利用される。WHOの下部機関IARCより発癌性がある (Type1) と勧告されており、日本でも大気汚染に係る環境基準が定められている。

[編集] 発見

1825年ファラデーによって、鯨油熱分解したときの生成物の中から初めて発見され、その分子式は1834年ミッチェルリッヒによって確認された。そして1865年にドイツの化学者フリードリヒ・ケクレによって、炭素原子からなる六員環構造をもち、各炭素原子に1つずつ水素原子が結合し、さらに、炭素原子間には単結合と二重結合が交互に配列した「ベンゼンの環状構造式」が提案された。これらの構造は提案者のケクレにちなんで「ケクレ構造式」と呼ばれている。この構造は、ケクレが夢の中でヒントを得たとされている。猿が手を繋いでいたとか、蛇(ウロボロス)が自分の尻尾を噛んでぐるぐる回っていたなどといわれているが、その真偽については疑問が持たれている(詳細はケクレの項目を参照)。

提唱されたベンゼンの構造式

ケクレ以外にもデュワーバンバーガーをはじめとして多くのベンゼン構造式が提唱されてきた。

これらのうち、デュワーのベンゼン式に相当する置換化合物(フォトピリドン (photopyridone) など)が発見されており、デュワー式に相当するベンゼンの類縁体の総称してデュワーベンゼンと呼称されることがある。ヘキサメチルデュワーベンゼンは市販もされている。

[編集] 製法

ベンゼンは炭素が豊富な素材が不完全燃焼すると産生される。自然界では火山噴火や森林火災でも発生し、タバコの主流煙・副流煙にも含まれる。

ベンゼンの工業的製造法には以下のものがある。

第二次世界大戦までは、製鉄産業においてコークスの副産物としてベンゼンが生産された。その後1950年代になると、特にプラスチック産業の成長によりベンゼンの需要は増大し、石油からベンゼンを生産することが求められた。今日では、ベンゼンの9割以上は石油化学工業で生産され、石炭からの生産は相対的に少なくなった。

粗製ベンゼンの2008年度日本国内生産量は 534,406 t、工業消費量は 383,904 t、純ベンゼンの2008年度日本国内生産量は 4,580,950 t、工業消費量は 2,351,642 t である[1]

石炭蒸し焼きによる一酸化炭素を主成分とする都市ガス製造過程でも、ベンゼンが生成する。このため、都市ガスを製造した工場跡地において、ベンゼンなどによる土壌汚染地下水汚染が起こることがある。

[編集] 接触改質

接触改質 (catalytic reforming) では、沸点が80–200℃の炭化水素の混合物を水素ガスと混合する。そして、塩化白金あるいは塩化ロジウム触媒と500–525℃、8–50気圧で作用させる。この条件下では、脂肪族炭化水素は環を形成し、水素を失って芳香族炭化水素になる。反応生成物を蒸留、およびジエチレングリコールスルホランなどによる溶媒抽出によって分離精製して純粋なベンゼンを得る。

[編集] 水蒸気クラッキング

水蒸気クラッキング (steam cracking) は脂肪族炭化水素からエチレンや他のオレフィンを生成する過程である。ナフサなどを原料とすると芳香族に富む分解ガソリンを副生する。これを蒸留および溶媒抽出によって分離精製して純粋なベンゼンを得る。

[編集] トルエンの水素脱アルキル化

トルエンの水素脱アルキル化 (toluene hydrodealkylation) によって、トルエンはベンゼンに変換される。この過程ではトルエンは水素と混合され、クロムモリブデンまたは酸化白金触媒に500–600℃、40–60気圧で作用させる。場合によっては、触媒の代わりにより高い圧力が使用される。反応式を以下に示す。

C6H5CH3 + H2 → C6H6 + CH4

通常、反応の収率は95%を超える。場合によってはトルエンの代わりにキシレンやもっと分子量の大きい芳香族化合物が使用されるが、変換効率は悪い。

[編集] トルエンの不均化

トルエン2分子の反応によってベンゼンとキシレンを生成する。トルエンと比較すると、ベンゼンとキシレンは化学原料としての需要が多いので経済的に成立するプロセスである。反応式を以下に示す。

2 C6H5CH3 → C6H6 + C6H5C2H5

この他に、アセチレン3分子から赤熱した鉄触媒でも得ることができる(ヘキストワッカー法)。

3 CH≡CH → C6H6

[編集] ベンゼン環

前述のとおり、ベンゼン環上のπ電子は非局在化しており、単なる二重結合・単結合の並びに比べて安定性が高くなる。

このようにπ電子を非局在化した環状炭化水素のうち、π電子が (4n+2) 個(6個、10個、14個、……)あるものはすべてのπ電子が結合性軌道に入るため特に安定性が高くなる。ベンゼン環を含む、このような安定した化合物を芳香族化合物と呼ぶ。

結合距離は1.397Åであり、C−C間の1.534ÅとC=C間の1.337Åの中間である。これは、全ての炭素同士の結合が等価になっていることを意味し、π電子が非局在化していることを示している。

[編集] 主な化学反応

構造式の見かけ上ベンゼンは二重結合を持つが、アルケンと異なり付加反応よりも置換反応の方が起こりやすい。

[編集] 健康被害と産業界への影響

1950年代サンダル工場で接着作業に従事していた工員が継続的なベンゼンの吸入により、造血器系の傷害(白血病等)を受け死亡する事象が発生した。この事象を契機としてベンゼンの毒性・発癌性が問題視されるようになり、有機溶剤としては代替品で毒性の比較的低いトルエンやキシレンが使用されるようになった。しかし、これら代替溶剤は故意の吸入(いわゆるシンナー遊び)という、別の弊害を生むことになった。現在においても化学工業・理化学実験では使用が忌避される傾向にある。ベンゼン含有量を削減したガソリンなどがその代表例である。

2006年春以降英国などの諸外国で清涼飲料水からベンゼンが低濃度検出されることが公表され、10ppbを越える製品の自主回収が要請された。生成の原因は保存料である安息香酸酸化防止剤であるビタミンCの反応によるもの、とされている。日本でも厚生労働省医薬食品局食品安全部が市販の清涼飲料水を調査し、1つの製品で70ppbを超える濃度が検出され、自主回収を要請した。

[編集] 地下水汚染

都市ガス製造時に生成しガス製造施設で高濃度のベンゼンによる土壌汚染地下水汚染が公表されている。[2]

[編集] 参照資料

  1. ^ 化学工業統計月報 - 経済産業省
  2. ^ 豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議公開資料東京都

[編集] 関連項目