有機化学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

有機化学(ゆうきかがく、英語:organic chemistry)は、有機化合物すなわち炭素化合物の合成、性質についての研究を目的とする化学の分野である。伝統的には二酸化炭素一酸化炭素炭酸などは有機化合物に含めない。大体は C−C 結合か C−H 結合を持つものが有機化合物である。また、ある有機化合物を炭素以外(金属元素の場合も含む)ので置換した構造を持つ化学物質も広義の有機化合物として有機化学の対象とされる物もある[1]

構造有機化学反応有機化学(有機反応論)、合成有機化学生物有機化学などの分野がある。

100を超える元素の中で炭素の化合物だけが特に取り上げられる理由は、炭素が無限の多様性をもつ物質を作る材料になりうるからである。実際、現在知られている化合物のうち、炭素以外の元素のみからなるものは、炭素を含むものにはるかに及ばない。また生体を構成するタンパク質核酸脂質といった化合物もすべて炭素化合物である。これは、炭素が −C−C−, −C−O−, −C−N− といった連鎖を任意の数だけ繰り返して共有結合できる唯一の元素だからである。ケイ素はいくぶん似た性質を持つが、炭素に比べると Si−Si 結合やSi=Si結合等の安定度が低いために炭素ほどの多様性をもたない。

目次

歴史 [編集]

有機化学が誕生する以前から人類は様々な有機物を利用していた。食料については言うに及ばず、麝香樟脳等の香料、石鹸アルコール等がその好例である。石鹸は油脂を植物灰中の金属塩と反応させて作られていた。

従って有機化学の始まりを定義するのは異論のあるところである。初期の有機化学は有機物が持つ性質を分析することであったと考えられる。何故ならば有機物は人工的には合成することができず、生命の神秘的な力によって生まれると考えられていたからである(生気論)。二酸化炭素などはを燃やせば作ることができるため、生命力に依らない無機物であるとされた。つまるところ、人によって作ることができず、生物によってのみ作ることができる物質が有機物であると考えられていたのである。

生気論は1828年ドイツフリードリヒ・ヴェーラーによって打ち破られた。彼は、シアン酸アンモニウムの加熱によって有機物である尿素が得られることを示したのである。これ以降も様々な有機物が合成されるに至り生気論は崩壊した。これによって有機物の定義は冒頭にある通りになった。

その後、様々な有機化合物の性質が調べられ数々の反応が発見された。その中で特筆すべきものとして芳香族化合物の発見があげられる。最初に見つかった芳香族化合物ベンゼンである。ベンゼンの構造はフリードリヒ・ケクレによって示された(ただし、「ケクレがベンゼンの構造を示した」というエピソードについては異論も唱えられている。本件の詳細はケクレの項目を参照のこと。ベンゼンの構造として別にプリズマンデュワーベンゼンが提唱されたが、結局却下された。)が、二重結合を有する物質の割に反応性が低いことや、置換誘導体の種類が少ないなど奇妙な性質を持っていることが分かった。この奇妙な性質の原因が解明されるのは量子力学が導入されてからである。

さらに時代が下って1934年ウォーレス・カロザースによって最初の合成高分子であるナイロンが作り出された。やがて有機化学の発展と共にゴム接着剤樹脂などが合成されるようになり、靴下から宇宙船まで様々な分野に応用されている。

また、有機化学は元来生物を構成する物質を扱う学問であり、生化学とごく密接に関連している。有機化学における手法は、生化学における化学反応の理解や、生体物質の解析などに応用される。

現在では、有機化学は生化学や高分子化学の基礎として位置づけられている。

実験操作 [編集]

有機化学の基本的な実験操作は、2012年現在、かなり洗練され、実験の安全性および結果の妥当性を保証するものとして、ほぼ確立されているので、実験者はまずそれらをしっかりと身につけることが求められる。 ただし、各手順は研究者によって微妙に異なることもあり、時にはそこから流派(出身研究室)を推測することも可能である。

炭素骨格と官能基 [編集]

有機化学化合物合成方法を考える場合、炭素骨格の構築官能基の変換に大別することが多い。

一般の有機化合物は、鎖式炭化水素アルカンアルケンアルキン)あるいは環式有機化合物シクロアルカン芳香族炭化水素複素環式化合物など)を骨格とし、そこに官能基ヒドロキシ基カルボキシル基など)が結合した構造を持っている。

官能基を変換することは比較的容易である。例えば、アルコールは適当な酸化剤を用いることによって、アルデヒドあるいはカルボン酸に変換でき、カルボン酸からさらにアミドエステルへと変換することが可能である(官能基についてはに詳しい説明がある)。

一方、炭素骨格を構築することはなかなか難しい。古くからアルドール反応グリニャール反応が用いられてきたが、期待する炭素骨格を効率よく合成することは困難であった。しかし、近年では鈴木カップリングメタセシス反応など、効率の良い反応が開発され、タキソールシガトキシンのような複雑で巨大な分子も全合成することが可能となっている。

脚注 [編集]

  1. ^ 例えば、メタンのC-Hを塩素で置換した四塩化炭素CCl4はC−C やC−Hを持たないが有機溶媒の一種とされる。とは言え、メタンをすべて酸素で置換した二酸化炭素は無機化合物とされるように有機化合物を置換したものすべてが有機化合物であるということではない。

関連項目 [編集]

全般
IUPAC命名法 - 塩基 - 酸化還元 - 加水分解 - 立体化学化学構造投影式光学異性体不斉炭素原子絶対配置立体配置
有機化合物
炭化水素アルカンアルケン)- 不飽和炭化水素 - 芳香族炭化水素 - 複素環式化合物
置換基 - ハロゲン化アルキル - カルボン酸酸アミド酸ハライド酸無水物
生体物質
核酸塩基 - ヌクレオシド - ヌクレオチド - 核酸
アミノ酸 - ポリペプチド - タンパク質
- 単糖 - 二糖 - 多糖デンプンセルロース) - 糖鎖
脂質 - 炭水化物
化学工業
石油 - 高分子生体高分子ゴム樹脂合成繊維) - 無機化学 - 油脂
その他
生物学と有機化学の年表

外部リンク [編集]