ピットラトリン

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ピットラトリン: Pit latrine)は、落とし込み式の簡易型の便所[1]アフリカなどの発展途上国で普及している方式である[2]。なお、日本でいう汲み取り式便所とは異なり、ピット(槽)が満杯になったら閉鎖し、別のピットを使用する形式(地下浸透式便槽トイレ)である[3][4][注 1]

概要[編集]

世界的にみると近代的な衛生設備が導入されていない地域では、トイレがなかったり、地上に便器のみが設置されたハンギングラトリン(Hanging latrine)などの形式も残っている[3]

これらに対してピットラトリンは地下に穴を設けた簡素な形式で、2007年の日本トイレ協会「途上国のトイレ・環境改善支援事例集第2集」によると発展途上国26か国39事例で最も多い形式がピットラトリンだった[4]。ピットラトリンは地下浸透式の設備で、汲み取り式便所とは異なり、ピット(槽)が満杯になったら閉鎖し、別のピットを使用する形式(地下浸透式)である[3][4]。構造上も閉鎖されたピットは1~2年土中に放置して疫学的に無害な土壌に戻すことを前提にした設計になっている[3]

汚水処理技術の分類上はピットラトリンや汲み取り方式は乾式に分類されるが、汲み取り方式が集中式なのに対し、ピットラトリンは分散式に分類される[2]

改良型[編集]

従来のピットラトリンに通気口や換気扇、コンクリートシールドなどを設置したVIP(Ventilated Improved Pit)と呼ばれる形式もある[1][4]

評価[編集]

国連ミレニアム開発目標(MDGs)の衛生施設に関するIndicator7.9では、換気付や蓋付など整備されたピットラトリンは「改良」に分類されるが、蓋なしピットラトリンや開放式ピットは「非改良」の衛生施設とされる[5]

注釈[編集]

  1. ^ 日本の環境省の資料でも「日本では一般的に行われていない」方式として整理されている[2]

出典[編集]

  1. ^ a b 杉田映理『第1部 日本の農村開発と農村研究 - 第4章 農村における衛生改善―日本の経験と途上国への示唆―』日本貿易振興機構アジア経済研究所、2008年、107-140頁。ISBN 9784258045693https://hdl.handle.net/2344/00011685 
  2. ^ a b c 技術ノート (PDF) 環境省
  3. ^ a b c d 酒井彰「NGOによる国際技術協力 : バングラデシュ農村における衛生改善事業」『環境技術』第34巻第11号、環境技術学会、2005年11月、780-785頁、doi:10.5956/jriet.34.780ISSN 03889459NAID 10016831152 
  4. ^ a b c d 日本トイレ協会「途上国のトイレ・環境改善支援事例集第2集」 (PDF) JICA-Net
  5. ^ 下ヶ橋雅樹, 浅見真理, 秋葉道宏「水衛生分野の国際的な動向と今後の展望 (特集 国際保健の潮流)」(PDF)『保健医療科学』第62巻第5号、国立保健医療科学院、2013年10月、514-525頁、ISSN 1347-6459NAID 110009808336