ヒッチン系

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数学では、ヒッチン可積分系(英語:Hitchin system)は、1987年にニージェル・ヒッチン英語版が導入し、複素簡約群やコンパクトリーマン面の選択とは独立した可積分系(integrable system)のことを言う。

ヒッチン系は、代数幾何と、リー代数論と、可積分系の理論の交点にあり、共形場理論とも関係し、複素数体上の幾何学的ラングランズ対応英語版[1]からで重要な役目も果たす。種数ゼロのヒッチン系は、クニーズニク-ザモロドチコフ方程式英語版のある極限とみなすこともできる。古典力学の可積分系の大半はヒッチン系の特別な場合(もしくは、その有理型の一般化か、もしくは特異点を持つ一般化)の極限として得ることができる。

ヒッチンファイバー は、ヒッチンペア英語版[2]のモジュライ空間から特性方程式(characteristic polynomial)への写像である。Ngô (2006, 2010)では、彼の基本補題(fundamental lemma)英語版の証明に、有限体上のヒッチンファイバーを使った。

  1. ^ 幾何学的ラングランズは1990年代に、数体のラングランズ対応の研究から、函数体のラングランズの研究する過程で発生したラングランズ対応の一部とみなすことができる。
  2. ^ ヒッチンペアとは、ヒッグスバンドルの (F,\Phi) のペアのことを言う。

内容[編集]

代数幾何学の言葉では、(力学)系の相空間は、ある簡約群を G としたときに、安定 G-バンドル英語版モジュライ空間への余接バンドル英語版のある代数曲線への部分的なコンパクト化である。この空間は標準的なシンプレクティック形式をもっている。簡単のために G=GL(n)、つまり一般線型群とすると、ハミルトニアンは次のように記述される:バンドル F での対象空間から G-バンドルへの写像は、

H^1(End(F)),

であり、ここにセール双対性(Serre duality)により、

\Phi \in H^0(End(F)\otimes K),

に双対であるので、ペア

(F,\Phi)

は、ヒッチンペア、もしくはヒッグスバンドルと呼ばれ、余接バンドルの中の点を定義する。

Tr(\Phi^k),k=1,...,rank(G)

ととると、

H^0( K^{\otimes k} ),

の中の元を得る。これは (F,\Phi) には依存しないベクトル空間である。従って、任意の基底をこのベクトル空間の中でとることで、函数 Hiを得て、これがヒッチンのハミルトニアンである。一般の簡約群にたいしても構成は同じで、G のリー代数の不変多項式を使う。

この明らかな理由により、これらの函数は代数的に独立であり、函数の個数が相空間の次元のちょうど半分であることが計算の結果で分かる。これらの函数のポアソン可換性英語版の部分の証明が、非自明な部分である。

付記[編集]

2006年頃以前の英語版Wikipediaの『ヒッチン系』という記事にあったことを追記する。古典的な説明をすると、ヒッチン系の起源が明確となり、他の記事とのバランスをとるにも、有益と思われる。(このAppendixの部分は、2011年2月11日に"http://www.encyclopediaofmath.org/index.php/Hitchin_system"にも掲載されている。)

代数的に完全可積分なハミルトン系英語版は、与えられた種数g\ge2リーマン面上の安定ベクトルバンドル英語版 (固定されたランクと次数のベクトルバンドルも参照のこと) のモジュライ空間(moduli space)への余接バンドル英語版の上で定義された。Hitchin自身の定義[a9] は、スペクトル曲線に大きく拡張された[a8]。その基礎となるものは、1970 年代の代数的完全可積分系での多重性の発見である。そのような系は、Lax方程式英語版で与えられる。

 L=[M,L]\ \ \ \ \mathrm{with\ }(n\times n) \mathrm{-matrices\ }L,M,

この系は、パラメータ \lambda に依存し、スペクトル曲線は、パラメータ空間のn-重 被覆空間で、ループ代数英語版の余随伴(co-adjoint) 軌道にある。このことはアドラー-コスタント-シメス(Adler-Kostant-Symes)のシンプレクティック商英語版の方法により得られる。[a1] を参照。ニージェル・ヒッチンは X標準バンドルの全空間の上の固有値の曲線を定義し、この曲線のヤコビ多様体(Jacobi variety)の上のフローを線型化した。

このアイデアは膨大な量の代数幾何学を巻き起こした。安定ペアのモジュライ空間 [a12]、有理型英語版ヒッチン系 [a3] と [a4] 、主G -バンドル (principal bundleのヒッチン系 [a5]、幾何学的ラングランズプログラム英語版への応用を持つ量子化されたヒッチン系 [a2]。

さらに、曲線 X をモジュライ空間の中で動かすことで、ヒッチン [a10] はバンドル空間の上の射影的な接続を構成することで、幾何学的量子化へ到達した。熱作用素英語版に関連する方法は、熱方程式 (heat equationをランク 1 の場合のリーマンテータ函数英語版を特徴づける熱方程式へと一般化させる。熱作用素の係数は、ヒッチン系のハミルトニアンによって与えられる。

ヒッチンのハミルトニアンと接続との明確な公式は、種数 2 の場合には、[a7][a6] で議論された。(KP-方程式英語版も参照)を持ったHitchin のハミルトニアンは、[a4] と [a11] で与えられた。

付記の文献[編集]

[a1] M.R. Adams, J. Harnad, J. Hurtubise, "Integrable Hamiltonian systems on rational coadjoint orbits of loop algebras, Hamiltonian systems, transformation groups and spectral transform methods", Proc. CRM Workshop, Montreal 1989 (1990) pp. 19–32

[a2] A.A. Beilinson, V.G. Drinfeld, "Quantization of Hitchin's fibration and Langlands program" A. Boutet de Monvel (ed.) et al. (ed.), Algebraic and Geometric Methods in Math. Physics. Proc. 1st Ukrainian-French-Romanian Summer School, Kaciveli, Ukraine, Sept. 1-14 1993, Math. Phys. Stud., 19, Kluwer Acad. Publ. (1996) pp. 3?7

[a3] F. Bottacin, "Symplectic geometry on moduli spaces of stable pairs" Ann. Sci. Ecole Norm. Sup. 4, 28 (1995) pp. 391–433

[a4] R. Donagi, E. Markman, "Spectral covers, algebraically completely integrable, Hamiltonian systems, and moduli of bundles" M. Francaviglia (ed.) et al. (ed.), Integrable Systems and Quantum Groups. Lectures at the 1st session of the Centro Internaz. Mat. Estivo (CIME), Montecatini Terme, Italy, June 14–22, 1993, Lecture Notes Math., 1620, Springer (1996) pp. 1–119

[a5] G. Faltings, "Stable G-bundles and projective connections" J. Alg. Geometry, 2 (1993) pp. 507–568

[a6] B. van Geemen, A.J. de Jong, "On Hitchin's connection" J. Amer. Math. Soc., 11 (1998) pp. 189–228

[a7] B. van Geemen, E. Previato, "On the Hitchin system" Duke Math. J., 85 : 3 (1996) pp. 659–683

[a8] N.J. Hitchin, "The self-duality equations on a Riemann surface" Proc. London Math. Soc., 55 (1987) pp. 59–126

[a9] N.J. Hitchin, "Stable bundles and integrable systems" Duke Math. J., 54 (1987) pp. 91–114

[a10] N.J. Hitchin, "Flat connections and geometric quantization" Comm. Math. Phys., 131 : 2 (1990) pp. 347–380

[a11] Yingchen Li, M. Mulase, "Hitchin systems and KP equations" Internat. J. Math., 7 : 2 (1996) pp. 227–244

[a12] C.T. Simpson, "Moduli of representations of the fundamental group of a smooth projective variety I-II" Publ. Math. IHES, 79/80 (1994/5) pp. 47–129;5-79

参考文献[編集]