キントキヒゴタイ

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キントキヒゴタイ
神奈川県金時山 2023年9月下旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク上類 Superasterids
階級なし : キク類 Asterids
階級なし : キキョウ類 Campanulids
: キク目 Asterales
: キク科 Asteraceae
亜科 : アザミ亜科 Carduoideae
: トウヒレン属 Saussurea
: タカオヒゴタイ
S. sinuatoides
変種 : キントキヒゴタイ
S. s. var. glabrescens
学名
Saussurea sinuatoides Nakai var. glabrescens Nakai (1931)[1]
シノニム
  • Saussurea sawadae Kitam. (1935)[2]
  • Saussurea nipponica Miq. var. glabrescens (Nakai) Kitam. ex Lipsch. (1965)[3]
和名
キントキヒゴタイ(金時平江帯)[4]

キントキヒゴタイ(金時平江帯、学名:Saussurea sinuatoides var. glabrescens)は、キク科トウヒレン属多年草タカオヒゴタイ(高尾平江帯、学名:S. sinuatoides)を分類上の基本種とする変種。別名、センゴクヒゴタイ[5]。なお、分類表内のシノニムに示すとおり、独立種 S. sawadae とする見解もある[4][6][7]

特徴[編集]

は高さ30-90cmになる。茎には、葉柄から沿下した翼がある。根出葉や下部の茎葉はふつう花時には存在しない。茎の中部につく葉身は卵形で、長さ9-11cm、幅8cm、縁にしばしばバイオリン状の湾入があるが、ときにそれがないこともある。葉身の先端は短い鋭尖頭、基部は心形またはやや鉾状心形になり、葉柄は長さ6-11cmになり、翼がある[6]

花期は9-10月[8]頭状花序は茎先または枝先に単生するか、2-3個が寄り集まり[6]、多いときは20-30個が散房状から円錐状につくこともある[8]総苞は鐘形で、長さ幅ともに13-15mmになる[6]。総苞片は7-8列あって[8]、緑色で、総苞片間にくも毛があり、総苞外片は広卵形で、先端は鋭頭または短い鋭尖頭、先は反り返らない[6]か反曲する[8]

分布と生育環境[編集]

日本固有種[7]。本州の中部地方の神奈川県静岡県に分布し[5]、山地の草地や林縁に生育する[8]丹沢山地箱根では、標高1,300m以上にタンザワヒゴタイ S. hisauchii が、山地南部の山麓から標高1,000mあたりまでは本種が分布し[8]、両種は垂直的にすみ分けている[5]

名前の由来[編集]

和名キントキヒゴタイは、「金時平江帯」の意で、植物学者北村四郎 (1935) による命名である[2][8][9]。これより前に、植物学者中井猛之進は、箱根の仙石原でこの植物を採集し、タカオヒゴタイの変種として Saussurea sinuatoides var. glabrescens Nakai (1931) を記載し、和名をセンゴクヒゴタイ(仙石平江帯)と名付けた[10]。しかし、北村 (1935) は、「タカオヒゴタイに類似してゐるが葉は莖に廣く沿下し頭花の鱗片は短かい」とし、独立した種としてキントキヒゴタイを記載した。和名は、北村が箱根の植物研究家の澤田武太郎とともにタイプ標本を採集したのが箱根の金時山であることによる[9]

タカオヒゴタイの変種としての変種名 glabrescens は、「やや無毛の」意味[11]。独立種としての S. sawadae種小名(種形容語)sawadae は、S. sawadae のタイプ標本を北村とともに採集した箱根の植物研究家で、底倉温泉の旅館経営者の澤田武太郎への献名である[12][13]

種の保全状況評価[編集]

国(環境省)および都道府県のレッドデータブックレッドリストの選定状況はない。

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

  1. ^ キントキヒゴタイ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ a b キントキヒゴタイ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  3. ^ キントキヒゴタイ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  4. ^ a b 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』pp.564-565
  5. ^ a b c 門田裕一 (2017)『改訂新版 日本の野生植物 5』「キク科トウヒレン属」p.268
  6. ^ a b c d e 北村四郎 (1981)『日本の野生植物 草本III 合弁花類』「キク科トウヒレン属」p.223
  7. ^ a b 門田裕一 (2011)「トウヒレン属」『日本の固有植物』pp.147-148
  8. ^ a b c d e f g 勝山輝男、高橋秀男、城川四郎、秋山守、田中徳久「第7章 植物相とその特色」、『丹沢大山自然環境総合調査報告書』、pp.556-557、神奈川県環境部、1997年
  9. ^ a b Siro KITAMURA「Compositae Nobae Japonicae IX」『植物分類及植物地理(Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第4巻第2号、植物分類地理学会、1935年、78,80、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00002594230 
  10. ^ T. Nakai「Contributio ad Cognitionem Generis Saussureœ Japono-Koreanæ」『植物学雑誌(Botanical Magazine, Tokyo)』第45巻第539号、東京植物学会、1931年、518-519頁、doi:10.15281/jplantres1887.45.513 
  11. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1494
  12. ^ 田中徳久「澤田コレクション―澤田武太郎氏収集の書籍と植物さく葉標本―」『自然科学のとびら』第6巻第1号、神奈川県立生命の星・地球博物館、2000年、8頁。 
  13. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1512

参考文献[編集]