アナログコンピュータ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アナログコンピュータ(analog/analogue computer)は、電気的現象・機械的現象・水圧現象を利用してある種の物理現象を表現し、問題を解くのに使われるコンピュータの一形態である[1]。アナログコンピュータはある種の物理量を別の物理量で表し、それに数学的な関数を作用させる。実世界の系をコンピュータでモデル化することをシミュレーションと呼ぶ。
アンティキティラ島の機械は、既知の最古の機械式アナログコンピュータである。天体の位置を計算するよう設計されていた。1901年にアンティキティラ島で発見され、紀元前100年ごろのものと推定されている。
目次 |
[編集] アナログコンピュータの年表
- 1620 - 1630年 - 計算尺が発明された。
- 1876年 - 微分解析機が発明された。1920 - 1930年代に実用が開始された。
- 第二次世界大戦のころ、爆撃照準器などにアナログコンピュータが用いられた。
- 1950年代 - General Precision Systems の電子式アナログコンピュータ。
- 1950年代 - MONIACコンピュータ(水を使って国家経済のシミュレーションを行った)。
- 1960年ごろ - Heathkit EC-1(教育用アナログコンピュータ)
[編集] 電子アナログコンピュータ
線形機械部品(ばね・制動装置)と電子部品(コンデンサ・コイル・抵抗器)の類似は数学的にも表現できる。つまり動作が同じ形の方程式でモデル化される。
しかし両者には厳然とした違いがあるため、アナログコンピュータに意味がある。質量・バネを使ったシステムを考えてみよう。物理的にシステムを作るには、まずバネ・おもりを買ってくる必要があり、これらを接続して適当な定着装置で固定し、適当な入力範囲に対応できる試験装置をつけて、最後に実測する。
電気的に等価なものは少しの増幅装置(オペアンプ)といくつかの受動線形部品だけで構成される。計測にはオシロスコープを使う。回路内では、質量にあたるものはポテンショメータで調節できる。この電気的システムは物理システムの類推であり、そのためにアナログコンピュータと呼ばれる。これは構築が安価で安全で簡単に変更可能である。電子回路はまた、シミュレート対象のシステムよりも高速に動作することが多い。したがって、シミュレーションは実時間以上に高速化され、即座に結果が得られる。
電気機械式のアナロジーの欠点は変数の範囲が限られることで、これをダイナミックレンジと呼ぶ。それらは雑音レベルによっても制限される。
電気回路を他の方法でシミュレートするのは簡単である。例えば、電圧は水圧でシミュレート可能だし、電流は水の流量すなわち毎秒何立方メートルというような値でシミュレート可能である。流体素子を使用して論理回路を組む事も可能である。
電気システムの「アナログ」「デジタル」という言葉はしばしば正しく認識されておらず、混乱したあやふやな意味がまかり通っている。アナログシステムは連続的な時間によって連続的に変化する電気システムとしてしか理解されていない。上述のように不連続な関数もモデル化できるため、これは正しい理解とは言えない。実際「デジタル」にも正確な技術的定義が存在する。回路では、デジタルとは離散的な電圧レベルを符号として扱うことであり、それによって表される記号を操作するのがデジタルコンピュータである。電子アナログコンピュータは電圧や電流の波形を物理量として操作する。したがってアナログコンピュータの出力の精度は、その出力を読み取る機器における量子化に制限される。デジタルコンピュータの精度は有限だが、その限界は時間との兼ね合いだけで決まる。
[編集] ハイブリッドコンピュータ
デジタルコンピュータとアナログコンピュータを合わせたハイブリッドコンピュータと呼ばれる機器が存在する[2]。ハイブリッドコンピュータは正確だが精度の低い「シード」値をアナログコンピュータで生成し、それをデジタルコンピュータの反復プロセスに入力して必要な精度を得る。3 - 4桁の高正確度なシード値を用いることで、反復回数が劇的に低減され、結果として必要な精度の計算にかかる時間が低減される。また精度がそれほど重要でない場合、非線形の微分方程式を解くのにアナログコンピュータを使うようなハイブリッドコンピュータも存在する。いずれにしてもハイブリッドコンピュータは特定の種類の問題を解くにあたり、デジタルコンピュータより遥かに高速で、アナログコンピュータより遥かに正確である。ゆえにリアルタイム性と正確性が要求される分野に適している(例えばフェーズドアレイレーダーや気象など)。
[編集] 機構
アナログコンピュータでの計算は、抵抗・電圧などを測定することでなされることが多い。たとえば2変数の加算器はふたつの電流源で構成される。第1の変数は第1の電流源を調整することで設定される(つまり x mAに設定)。そして第2変数は第2電流源を設定する(y mA)。これを並列接続して一方を接地した上で抵抗器を接続すれば、抵抗器に流れる電流が x+y mAとなる(キルヒホッフの法則参照)。他の演算もオペアンプなどを使って同様に行われる。
電気の属性を使ってアナログコンピュータを構築するのは、計算が実時間(実際にはオペアンプのゲイン帯域幅で制限される)で行われ、デジタルコンピュータのような遅延が生じないためである。この特性を使うとデジタルコンピュータにはやや難しい積分の計算なども簡単にできる。積分はコンデンサを使って電流(時間の関数としての電荷)を積分した電圧に変換することで計算する。
非線形関数とその計算は関数発生器(ダイオード(PN接合の指数関数特性や単方向特性))・FET(スイッチとして)・ツェナーダイオードと抵抗器・コンデンサ・コイル(ただしコイル自体もシミュレートできるので、アナログコンピュータで使われることは稀である)を様々に組み合わせた装置)である程度の精度で実施できる。例えば電流をダイオードで対数の電圧に変換できる。これを利用して電流を対数の電圧に変換して加・減算し、ダイオードで逆対数変換することにより乗・除算できる。ダイオードの単方向特性を利用して絶対値を計算したり、FETをスイッチとして使いコンデンサに電荷を蓄積・保持させることで電圧を一定時間保持させたり最大・最小値を求めたりすることが出来る。ツェナーダイオードなどで電圧を制限した正帰還増幅器でヒステリシス特性を作ることもできる。
計算可能な物理プロセスはアナログコンピュータに翻訳可能である。たとえばアナログ計算の概念を示すものとして、スパゲッティをソートすべき数値の集まりとみなしたり、ゴムバンドを点の集合の凸包を探すのに使ったり、まっすぐな紐をネットワークの最短ルートを捜すのに使ったりといったことが挙げられる。
[編集] アナログコンピュータの部品
アナログコンピュータは複雑なフレームワークを持つことが多いが、計算に必要な根本的な電子部品は以下のようなものである。
電気を使ったアナログコンピュータで使われる主な数学的な操作は以下の通りである。
[編集] 限界
一般に、アナログコンピュータは(理論上ではなく)現実のいくつかの効果によって制限される。アナログ信号は直流成分・交流成分・周波数・位相に分解される。これらの成分の現実の特性上の制限によってアナログコンピュータは制限される。その制限としてノイズフロアや半導体部品の非線形性や寄生インピーダンス、電子の蓄積が有限であることなどが挙げられる。ちなみに一般に使われている電子部品はそのような入出力特性の範囲内で使われている。
アナログコンピュータはほぼあらゆる計算をデジタルコンピュータに譲ってきた。風洞によるシミュレーションをアナログコンピュータと言い張るには無理がある。というのはレイノルズ数・マッハ数などの数値は実験データをさらに加工して得られるものだからである。ある意味で物理学は情報処理にもとづいて物理的現象を計算にマッピングするものである。したがって、風洞実験はあくまでも実験であり、それに基づいた計算である。
[編集] 最近の研究
デジタル計算が非常に一般化している一方、アナログ計算に関する研究を行っている研究者は数えるほどしかいない。米国ではジョナサン・ミルズが拡張したアナログコンピュータを使った研究を行っている。ハーバード・ロボティクス研究所でもアナログ計算が研究分野となっている。
[編集] 実用的なアナログコンピュータ
以下は、実際に開発され実用に供されたアナログコンピュータの例である。
- アンティキティラ島の機械
- アストロラーベ
- 微分解析機
- MONIACコンピュータ
- ノモグラム
- ノルデン爆撃照準器
- オペアンプ
- プラニメータ
- 計算尺
- 弾道計算機
- トルクエタム
- カメラの自動露出機構
- Water integrator
アナログシンセサイザーは一種のアナログコンピュータとみなすこともでき、その技術は電子式アナログコンピュータの技術から生まれたものの応用である。
[編集] 理想のアナログコンピュータ
理論家は理想のアナログコンピュータを実数計算機と呼ぶ(実数全体を扱えることから、そのように呼ばれる)。それに対してデジタルコンピュータは信号を有限の値に量子化するため、有理数の範囲しか扱えない(無理数は近似的に扱う)。
このような理想的なアナログコンピュータは「理論上」はデジタルコンピュータで扱えない問題も解くことが出来る可能性がある。しかし、実際のアナログコンピュータは理想には程遠い(主にダイナミックレンジの問題)。さらに言えば、無限の時間とメモリを与えられれば、デジタルコンピュータも実数に関する問題を扱える。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- A.K. Dewdney. "On the Spaghetti Computer and Other Analog Gadgets for Problem Solving", Scientific American, 250(6):19-26, June 1984. Reprinted in The Armchair Universe, by A.K. Dewdney, published by W.H. Freeman & Company (1988), ISBN 0-7167-1939-8.
- Universiteit van Amsterdam Computer Museum. (2007). Analog Computers.
[編集] 脚注
[編集] 外部リンク
- Introduction to Analog-/Hybrid-Computing (PDF、ファイル容量約7.5メガバイト)
- Example programs for Analog Computers (PDF)
- A great disappearing act: the electronic analogue computer Chris Bissell, The Open University, Milton Keynes, UK Accessed February 2007 (PDF)
- Lots of documentation about analog computers as well as detailed descriptions of some historic machines
- Analog computer basics
- Analog computer trumps Turing model
- Jonathan W. Mills's Analog Notebook
- ハイブリッドコンピュータシステム、1975年(昭和50年)、計算機の歴史、統計数理研究所
- Indiana University Extended Analog Computer
- Harvard Robotics Laboratory Analog Computation

