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[[File:Laundry in the river.jpg|thumb|240px|現代の[[アビジャン]]での洗濯の風景(2006年)]]
[[File:Léon Augustin Lhermitte - Lavoir.jpg|thumb|240px|フランスの[[レアリスム]]画家 [[レオン・レルミット]](1844-1925)が描いた洗濯の風景]]
[[File:Léon Augustin Lhermitte - Lavoir.jpg|thumb|240px|フランスの[[レアリスム]]画家 [[レオン・レルミット]](1844-1925)が描いた洗濯の風景]]
[[File:Japanese women wash clothes, Japan. (10796577693).jpg|thumb|150px|物干し竿に[[和服|着物]]を干す女性(左)と[[たらい]]で洗濯する女性(右) (日本、1925年)]]
[[File:Japanese women wash clothes, Japan. (10796577693).jpg|thumb|150px|物干し竿に[[和服|着物]]を干す女性(左)と[[たらい]]で洗濯する女性(右) (日本、1925年)]]
[[File:Laundry copper.jpg|thumb|180px|イギリス [[イプスウィッチ]]に残る、衣類を煮沸しつつ洗濯するためのかまど。(ヨーロッパでは歴史的に、伝染病を予防するため衣類を熱湯で煮沸しつつ洗う習慣が形成され、現代でもそれは続いている。)]]
[[File:Laundry copper.jpg|thumb|180px|イギリス [[イプスウィッチ]]に残る、衣類を煮沸しつつ洗濯するためのかまど。]]
[[File:Rhof-histWaschmaschine.ogv|thumb|200px|動画。歴史的な手動洗濯機で洗う様子。お湯で洗う。なお現代のドイツなどの電動洗濯機でも温度設定機能がついているものが多く、電気やガスで水道水を80℃や90℃といった温度の熱湯にして洗濯することが広く行われている。60℃以上の湯で洗うと洗濯物に潜む雑菌をほぼ全て殺すので「部屋干し」をしても変な匂いがしない。]]
[[File:Rhof-histWaschmaschine.ogv|thumb|200px|動画。歴史的な手動洗濯機で洗う様子。お湯で洗う。]]
[[File:Wash N Go coin laundry in irving texas usa 2014-03-05 21-13.jpg|thumb|240px|現代の先進国にある共同洗濯場、[[コインランドリー]]]]
[[File:Wash N Go coin laundry in irving texas usa 2014-03-05 21-13.jpg|thumb|240px|現代の先進国にある共同洗濯場、[[コインランドリー]]]]
[[File:Frýdlant, Jizerská, prádlo 01.jpg|thumb|260px|洗濯された衣類]]
[[File:Frýdlant, Jizerská, prádlo 01.jpg|thumb|260px|洗濯された衣類]]
'''洗濯'''(せんたく)とは、[[衣類]]や[[リンネル]]類など[[布地]]を[[洗浄|洗う]]こと。
'''洗濯'''(せんたく)とは、機械的作用と化学的作用を利用して[[衣類]]など[[布地]]を[[洗浄|洗う]]こと<ref name="ninomiya" />。洗濯には衣類等の衛生や保存だけでなく特に文明社会では社会的受容の目的もある<ref name="ninomiya" />


洗濯は[[家事]]のひとつにも数えられる。顧客の衣類を洗濯する専門の業種は「クリーニング業」と呼ばれる。界面活性剤による洗濯のほか、[[ドライクリーニング]]などの手法を用いて[[洗浄]]する。
もともと洗濯は、[[川]]の[[流れ]]、[[池]]、[[泉]]などを利用して行われた。洗濯物を手でもんだり、足で踏むことでおこなう。片手で水面に浮かべた洗濯物を、もう一方の手に持った木の[[枝]]や[[棒]]で打ち叩くという方法もしばしば行われている。

なお、[[開発途上国]]も含めて世界的に見てみると、現在でも、川・池・泉などで洗濯を行うということはかなり広く行われている。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
=== 古代 ===
[[18紀]]や[[19世紀]]のヨーロッパでは、地域コミュニティ(村など)にしばしば設置されている共同の洗濯場(水ためられた、ごく小さな池やプールな場所)に洗濯もの木製の洗濯タライを持参して(近所の人々と談笑しつつ)人の手を用いて[[石鹸]]も用いつつ洗濯しり、(イギリス、ドイツなど伝染病が広がった歴史のある地域では)都市部の家庭の女性が自宅内で洗濯する場合は、かまどで煮沸しつつ棒でかきまわしつつ洗濯したり、あるいは床においた[[金属]]性の[[たらい|タライ]]に水と洗濯物を入れ、手で洗ったり足で踏んで、きれいな水ですすぐ、などといった方法が一般的だった。そして洗い終わったものは[[ロープ]]などに干す
洗濯や洗浄剤の歴史は4大文明の黎明期には既にあり、特に古代オリエントには多くの記録が発見されている<ref name="ninomiya">{{Cite journal |和書|title=洗浄と清潔の歴史概観|url=https://doi.org/10.11419/senshoshi1960.37.292 |author=二宮健一|journal=繊維製品消費科学 |volume=37 |issue=6 |pages=292-299 |year=1996 |doi=10.11419/senshoshi1960.37.292 |publisher=日本繊維製品消費科学会 |accessdate=2020-07-23}}</ref>。古代、人々は水辺に住んでその水を利用して洗濯していたが、水の乏しい地域では[[砂]]でもんで洗濯をしていた<ref name="ninomiya" />。


最初の洗濯条件の改良は湯の使用で、冷水よりも温水のほうが汚れ落ちの効果が高いことは古くから知られていた<ref name="ninomiya" />。『枕草子』には湯による洗濯の記述がある<ref name="ninomiya" />。
[[江戸時代]]の[[江戸]]では、木製の[[桶]]と[[洗濯板]]で洗濯が行われた。川の水や[[井戸]]水を汲み、桶の中で手で洗い、竹などで作った[[物干し竿]]に干すのである。灰が用いられることもあった。[[長屋]]の井戸の周囲では女たちが洗濯をしに集い、会話に花が咲く光景も見られたという


古代エジプトや古代ギリシャでは洗濯方法は踏み洗いが一般的だった<ref name="ninomiya" />。古代エジプトでは洗濯は水中の2本の足の象形文字で表現された<ref name="ninomiya" />。
なお、[[石鹸]]や[[灰]]は[[界面活性剤]]の役割を果たしており、汚れの成分の分離を促進する。また[[重曹]]や[[アンモニア]]が溶けて[[弱アルカリ性]]となった水は、汚れの[[皮脂]]成分の[[脂肪酸]]と反応して水溶性の[[鹸化]]物質となり汚れが落ちる。[[古代ローマ]]では回収して[[発酵]]させた[[尿]]を使って洗濯する業者がいたことが知られている<ref>排出されたばかりの尿にアンモニアは含まれないが、体外では土中の[[細菌]]などによってアンモニアに分解される。{{Cite web|url=https://gigazine.net/news/20180405-ancient-roman-bathrooms/|title=「尿を使って衣服を洗濯していた」など現代では想像できない古代ローマのトイレ事情とは? |publisher=[[Gigazine]] |date=2018-04-05 |accessdate=2018-11-12}}</ref>。また冷水よりも温水のほうが汚れ落ちの効果が高いことも知られていた
また、古代ギリシャの叙事詩 [[オデュッセイア|オデッセイ]]には王女ナウシカ([[ナウシカアー]])が川で踏み洗いをする記述がある<ref name="ninomiya" />。日本の平安時代末期の扇面古写経にも洗濯の様子が描かれているが、日本でも踏み洗いが一般的だった<ref name="ninomiya" />。一方、『万葉集』には「ときあらい」という言葉があり着物をほどいて洗う方法も行われていた<ref name="ninomiya" />。


紀元前5000年頃には洗浄剤が使用されるようになった<ref name="ninomiya" />。紀元前3000年頃のエジプトでは湖水から得られる天然炭酸ソーダが利用された<ref name="ninomiya" />。
しかし、人力で行う洗濯というのは重労働であった。


紀元前3000年頃からは[[灰]]を溶かした灰汁が利用されるようになり19世紀後半まで最も一般的な洗浄剤だった<ref name="ninomiya" />。日本でも『古事記』の「さねかずら」、『万葉集』の「さなかづら」や「さいかち」など植物の浸出液を洗濯に使っており、平安時代には灰汁も使われるようになった<ref name="ninomiya" />。
20世紀に[[先進国]]では[[洗濯機]]が実用化され普及した。ヨーロッパで普及したのは横向きのステンレス[[ドラム]]が回転し、回転の途中に洗濯物が[[ドラム]]の上部から落下し、水面に打ち付けられて、その衝撃で汚れが落ちるタイプであった。アメリカでは洗濯物の乾燥機も相当程度普及した。
日本でも昭和期に洗濯機が登場、普及した。ただし日本で普及したのは洗濯槽の中で水と洗濯物が[[渦巻き]]状に回るものであり、最初は2槽式が、やがて1槽式が普及した。国や地域や時代ごとに普及している洗濯機のタイプが異なっているのである。


また[[重曹]]や[[アンモニア]]が溶けて[[弱アルカリ性]]となった水は、汚れの[[皮脂]]成分の[[脂肪酸]]と反応して水溶性の[[鹸化]]物質となり汚れが落ちる。[[古代ローマ]]では回収して[[発酵]]させた[[尿]]を使って洗濯する業者がいたことが知られている<ref>排出されたばかりの尿にアンモニアは含まれないが、体外では土中の[[細菌]]などによってアンモニアに分解される。{{Cite web|url=https://gigazine.net/news/20180405-ancient-roman-bathrooms/|title=「尿を使って衣服を洗濯していた」など現代では想像できない古代ローマのトイレ事情とは? |publisher=[[Gigazine]] |date=2018-04-05 |accessdate=2018-11-12}}</ref>。
20世紀には、洗濯機が普及するとともに、[[粉]]状の[[合成洗剤]]も広まった。


=== 中世〜近世 ===
洗濯は[[家事]]のひとつにも数えられる。子供たちは近年の日本の学校では、[[家庭]]([[家庭科]])という教科で洗濯の方法について教えられている。
になるとヨーロッパでは湯沸かし洗濯槽、たたき洗いに使用する石、洗濯板などを備えた共同の洗濯場が設置さるようになっ<ref name="ninomiya" />。一週間のうち主月曜日が洗濯され洗濯は社会的行事であっ<ref name="ninomiya" />。(イギリス、ドイツなど伝染病が広がった歴史のある地域では)都市部の家庭の女性が自宅内で洗濯する場合は、かまどで煮沸しつつ棒でかきまわしつつ洗濯したり、あるいは床においた[[金属]]性の[[たらい|タライ]]に水と洗濯物を入れ、手で洗ったり足で踏んで、きれいな水ですすぐ、などといった方法が一般的だった。


[[江戸時代]]の[[江戸]]では、木製の[[桶]]と[[洗濯板]]で洗濯が行われた。川の水や[[井戸]]水を汲み、桶の中で手で洗い、竹などで作った[[物干し竿]]に干すのである。灰が用いられることもあった。
現在、顧客の衣類を洗濯する専門の業種は「クリーニング業」と呼ばれる。界面活性剤による洗濯のほか、[[ドライクリーニング]]などの手法を用いて[[洗浄]]する。


== 洗濯表示 ==
=== 近現代 ===
アメリカでは1930年代に一般家庭へ電気と水道が供給されるようになり[[電気洗濯機]]が普及した<ref name="ninomiya" />。20世紀に[[先進国]]では洗濯機が実用化され普及した。
{{see|洗濯表示}}

20世紀には、洗濯機が普及するとともに、[[粉]]状の[[合成洗剤]]も広まった。


== 洗濯用品 ==
== 洗濯用品 ==
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* [[洗濯板]]
* [[洗濯板]]
* [[洗濯ネット]]
* [[洗濯ネット]]
* [[洗濯表示]]
* [[洗剤]]
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* [[柔軟剤]]
* [[柔軟剤]]
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* 例: 命の洗濯
* 例: 命の洗濯


== Gallery ==
== ギャラリー ==
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Jahn Ekenaes Women doing laundry 1891.jpg|河を覆う氷にあけた穴で洗濯をする人々([[ノルウェイ]]、1891年の絵画)
Jahn Ekenaes Women doing laundry 1891.jpg|河を覆う氷にあけた穴で洗濯をする人々([[ノルウェイ]]、1891年の絵画)
Lavoir de Bondigoux.jpg|[[南フランス]]に残る共同洗濯場
Lavoir de Bondigoux.jpg|[[南フランス]]に残る共同洗濯場
Laundry in the river.jpg|thumb|240px|現代の[[アビジャン]]での洗濯の風景(2006年)
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[[カテゴリ:生活]]
[[カテゴリ:生活]]
[[カテゴリ:家事]]
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2020年7月23日 (木) 05:19時点における版

フランスのレアリスム画家 レオン・レルミット(1844-1925)が描いた洗濯の風景
物干し竿に着物を干す女性(左)とたらいで洗濯する女性(右) (日本、1925年)
イギリス イプスウィッチに残る、衣類を煮沸しつつ洗濯するためのかまど。
動画。歴史的な手動洗濯機で洗う様子。お湯で洗う。
現代の先進国にある共同洗濯場、コインランドリー
洗濯された衣類

洗濯(せんたく)とは、機械的作用と化学的作用を利用して衣類などの布地洗うこと[1]。洗濯には衣類等の衛生や保存だけでなく特に文明社会では社会的受容の目的もある[1]

洗濯は家事のひとつにも数えられる。顧客の衣類を洗濯する専門の業種は「クリーニング業」と呼ばれる。界面活性剤による洗濯のほか、ドライクリーニングなどの手法を用いて洗浄する。

歴史

古代

洗濯や洗浄剤の歴史は4大文明の黎明期には既にあり、特に古代オリエントには多くの記録が発見されている[1]。古代、人々は水辺に住んでその水を利用して洗濯していたが、水の乏しい地域ではでもんで洗濯をしていた[1]

最初の洗濯条件の改良は湯の使用で、冷水よりも温水のほうが汚れ落ちの効果が高いことは古くから知られていた[1]。『枕草子』には湯による洗濯の記述がある[1]

古代エジプトや古代ギリシャでは洗濯方法は踏み洗いが一般的だった[1]。古代エジプトでは洗濯は水中の2本の足の象形文字で表現された[1]。 また、古代ギリシャの叙事詩 オデッセイには王女ナウシカ(ナウシカアー)が川で踏み洗いをする記述がある[1]。日本の平安時代末期の扇面古写経にも洗濯の様子が描かれているが、日本でも踏み洗いが一般的だった[1]。一方、『万葉集』には「ときあらい」という言葉があり着物をほどいて洗う方法も行われていた[1]

紀元前5000年頃には洗浄剤が使用されるようになった[1]。紀元前3000年頃のエジプトでは湖水から得られる天然炭酸ソーダが利用された[1]

紀元前3000年頃からはを溶かした灰汁が利用されるようになり19世紀後半まで最も一般的な洗浄剤だった[1]。日本でも『古事記』の「さねかずら」、『万葉集』の「さなかづら」や「さいかち」など植物の浸出液を洗濯に使っており、平安時代には灰汁も使われるようになった[1]

また重曹アンモニアが溶けて弱アルカリ性となった水は、汚れの皮脂成分の脂肪酸と反応して水溶性の鹸化物質となり汚れが落ちる。古代ローマでは回収して発酵させた尿を使って洗濯する業者がいたことが知られている[2]

中世〜近世

中世になるとヨーロッパでは湯沸かし、洗濯槽、たたき洗いに使用する石、洗濯板などを備えた共同の洗濯場が設置されるようになった[1]。一週間のうち主に月曜日が洗濯日とされ洗濯は社会的行事であった[1]。(イギリス、ドイツなど伝染病が広がった歴史のある地域では)都市部の家庭の女性が自宅内で洗濯する場合は、かまどで煮沸しつつ棒でかきまわしつつ洗濯したり、あるいは床においた金属性のタライに水と洗濯物を入れ、手で洗ったり足で踏んで、きれいな水ですすぐ、などといった方法が一般的だった。

江戸時代江戸では、木製の洗濯板で洗濯が行われた。川の水や井戸水を汲み、桶の中で手で洗い、竹などで作った物干し竿に干すのである。灰が用いられることもあった。

近現代

アメリカでは1930年代に一般家庭へ電気と水道が供給されるようになり電気洗濯機が普及した[1]。20世紀に先進国では洗濯機が実用化され普及した。

20世紀には、洗濯機が普及するとともに、状の合成洗剤も広まった。

洗濯用品

派生語

洗濯の語句は、転じて心身(特に心)をリフレッシュすることを比喩することもある。

  • 例: 命の洗濯

ギャラリー

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 二宮健一「洗浄と清潔の歴史概観」『繊維製品消費科学』第37巻第6号、日本繊維製品消費科学会、1996年、292-299頁、doi:10.11419/senshoshi1960.37.2922020年7月23日閲覧 
  2. ^ 排出されたばかりの尿にアンモニアは含まれないが、体外では土中の細菌などによってアンモニアに分解される。「尿を使って衣服を洗濯していた」など現代では想像できない古代ローマのトイレ事情とは?”. Gigazine (2018年4月5日). 2018年11月12日閲覧。

関連項目

外部リンク