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単為生殖をするザリガニ。別名ミステリークレイフィッシュ。ペットとして広く流通しているが、野外に流出したときの生態系への影響が懸念されている。
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2018年2月13日 (火) 11:56時点における版

マーブルクレイフィッシュ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 軟甲綱 Malacostraca
: 十脚目(エビ目) Decapoda
亜目 : 抱卵亜目(エビ亜目) Pleocyemata
: アメリカザリガニ科 Cambaridae
: アメリカザリガニ属英語版 Procambarus
: マーブルクレイフィッシュ
Procambarus virginalis
学名
Procambarus virginalis
和名
マーブルクレイフィッシュ
英名
marbled crayfish

マーブルクレイフィッシュ(英:marbled crayfish、学名:Procambarus virginalis または Procambarus fallax f. virginalis)は単為生殖を行うザリガニ[1]アメリカ合衆国南部原産のスロウザリガニ英語版と近縁[1]。学術界および日本国外のペット業界では、「大理石模様のザリガニ」を意味する英語の「マーブルクレイフィッシュ」またはドイツ語の「マーモクレブス (Marmorkrebs)」の名が使われているが、日本のペット業界では「ミステリークレイフィッシュ」と呼ばれている[1]

概要

世界で初めて報告された単為生殖を行うザリガニであり、スロウザリガニ英語版と近縁にあたる[1]1995年にドイツの水族館が取引したのが初出だとされている[2][注釈 1]。ドイツで2001年に出版された『Aquaristik Aktuell』で単為生殖をする原産地不明の未知の十脚目として言及されており、2003年の『ネイチャー』の短報でこれまでに報告例のない単為生殖を行う十脚目であること、アメリカザリガニ科に属しスロウザリガニと近縁であることが示された[4]。2017年の『ネイチャー エコロジー・アンド・エヴォリューション』では、世界中のマーブルクレイフィッシュは共通の1個体を起源にもつ単一のクローンであると示唆された[5]

判別にはマイクロサテライトDNA解析などの遺伝的手法、もしくはメス単体での抱卵確認が必要である[6]

分類

金沢大学西川潮は、2017年3月時点ではスロウザリガニの単為生殖体(学名:Procambarus fallax f. virginalis)とみなすのが主流だとする一方で[1]、スロウザリガニとの間に生殖隔離機構が確認されていることから独立した新種として認められる可能性もあると説明している[6]。ドイツがん研究センターのフランク・リコは2017年12月に『ズータクサ』に掲載された論文で、スロウザリガニと生殖できないこと、遺伝子学的に差異があることを根拠に、マーブルクレイフィッシュは独立した新種Procambarus virginalis sp. nov.であると主張している[7]

系統樹

2003年の『ネイチャー』短報より作成。Hasegawa–Kishino–Yanoモデル英語版を使用して2つの遺伝子Cox1英語版MT-RNR1英語版を解析した結果から作成されている[4]

Astacopsis franklini

シグナルザリガニ英語版 Pacifastacus leniusculus

Orconectes limosus

アメリカザリガニ Procambarus clarkii

マーブルクレイフィッシュ 

スロウザリガニ英語版 Procambarus fallax

ストーンクレイフィッシュ英語版 Austropotamobius torrentium

ホワイトクロウクレイフィッシュ英語版 Austropotamobius pallipes

ヨーロッパザリガニ Astacus astacus

ドナウクレイフィッシュ英語版 Astacus leptodactylus

形態

頭胸甲に青白いマーブル模様が見られる[6]。ただし、模様が茶褐色の個体も確認されている[6]

生態

出生後250日で性成熟して繁殖可能になる[8]。水温が15℃で繁殖を停止する[8]3倍体であり単為生殖が可能[6]

分布

ドイツ、オランダ、イタリア、ハンガリー、ウクライナ、スロバキア、クロアチア、スウェーデン、マダカスカル、日本の天然水域で確認されたことがある[1]

スロウザリガニとの比較

形態上の違いは2017年時点では確認されていない[9]。性成熟するのは出生後250日でスロウザリガニと差はないが、性成熟時点での体重はスロウザリガニのメスの約2倍に及ぶという報告がある[10]。また、抱卵数もスロウザリガニより多く、スロウザリガニの最大抱卵数が130個であるのに対しマーブルクレイフィッシュの飼育固体では731個、野生固体では724個とスロウザリガニの約5.6倍に及ぶという報告がある[11]

飼育

ペット用のザリガニとしてはフロリダハマー英語版(フロリダブルー、学名:Procambarus alleni)と並びヨーロッパ、北米、日本で人気があり、広く流通している[11]

外来種としてのリスク

ザリガニ類は一般に雑食であるため、大量増殖すると淡水生態系や水稲農業に影響を及ぼす可能性が指摘されている[11]。マーブルクレイフィッシュは単為生殖する、つまりメスだけでクローンを作って増殖することができ、また繁殖力が強いことから1個体だけでも野外で増殖して在来生態系を脅かす可能性が指摘されている[11]。実際、温暖な地域では非常に高密度に増殖した例が報告されており、例えば食用目的で導入されたマダガスカル島では水田、水路、養魚池などに非常に高密度で定着していることが確認されている[11]

また、マーブルクレイフィッシュを含む北米産ザリガニはいくつかの病気の保菌者となることが知られており、これらの病気を拡散させてしまう恐れがある[11]。例えば、ザリガニペスト英語版の通称で知られるアファノマイシス菌(学名:Aphanomyces astaci)は世界の侵略的外来種ワースト100に指定されており、これに耐性を持たないヨーロッパ産ザリガニやニホンザリガニなどに感染して大量死を引き起こすことがある[11]。また、白斑病英語版は様々な十脚目に感染することが確認されており、在来甲殻類に深刻な被害を引き起こしたりエビやカニの養殖に重大な被害をもたらしたりする可能性が指摘されている[11]

規制

一例として、スウェーデンではマーブルクレイフィッシュに限らず国外産のザリガニの輸入は法律で禁止されている[11]。また、日本ではマーブルクレイフィッシュを含むアメリカザリガニ科のほとんどが「未判定外来生物」に指定されており、輸入には環境庁への届出が必要である(#日本での規制参照)。

日本におけるマーブルクレイフィッシュ

日本での流通

1996年頃にマーブルクレイフィッシュと思われるザリガニが「アフリカザリガニ」の名称で流通していたという証言がある[6]。また、2001年5月頃にザリガニ愛好家のジャパン・クレイフィッシュ・クラブで広く知られるようになったという証言もある[6]

日本での生息

日本では亜熱帯から温帯にあたる地域が生息に適していると推定されているが、スウェーデンで定着が確認されており日本でも札幌市で採集されたことがあるので北海道のような冷水域でも定着する可能性がある[8]。天然水域では2006年に札幌市、2016年に松山市で採集報告があり[12]、松山市は日本全体で2例目、西日本では初の採集報告である[6]。ペットとしての流通期間に比べて報告数が少ないことから、西川潮らはアメリカザリガニと見間違えて未報告になっている可能性を指摘している[6]

日本での規制

2006年にザリガニ科英語版アスタクス属全種、シグナルザリガニ(ウチダザリガニとタンカイザリガニ)、アメリカザリガニ科オルコネクテス属英語版ラスティークレイフィッシュ英語版ミナミザリガニ科英語版ケラクス属英語版全種が外来生物法における「特定外来生物」に指定された[11][13]。これにより、2018年1月時点でザリガニ科、アメリカザリガニ科、ミナミザリガニ科は前述の特定外来生物とニホンザリガニアメリカザリガニを除いて「未判定外来生物」とされている[13]。したがって、アメリカザリガニ科であるマーブルクレイフィッシュの輸入には環境庁へ届出を提出し審査を受けなければならない[11]

脚注

注釈

  1. ^ 『ナショナルジオグラフィック』ではフロリダ州エバーグレーズで捕獲されたものを愛好家が生き物フェアで購入したと説明されている[3]

出典

参考文献