「オルニーの病変」の版間の差分

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1989年、オルニーらは神経細胞の空胞化と他の細胞傷害性病変が '''PCP''' ・ '''MK-801''' ・ '''ケタミン''' などの[[NMDA型グルタミン酸受容体#アゴニスト・アンタゴニスト|NMDA受容体アンタゴニスト]]を投与したラットの脳で起こることを発見した。
1989年、オルニーらは神経細胞の空胞化と他の細胞傷害性病変が '''PCP''' ・ '''MK-801''' ・ '''ケタミン''' などの[[NMDA型グルタミン酸受容体#アゴニスト・アンタゴニスト|NMDA受容体アンタゴニスト]]を投与したラットの脳で起こることを発見した。


NMDA受容体アンタゴニストの投与2時間後に[[後帯状皮質]]と[[脳梁膨大後部皮質]]の神経細胞を[[電子顕微鏡]]写真で見たところ、ミトコンドリアが溶解していて大きく空胞化していることがわかった。
NMDA受容体アンタゴニストの投与2時間後に[[後帯状皮質]]と[[脳梁膨大後部皮質]]の神経細胞を[[電子顕微鏡]]写真で見たところ、[[ミトコンドリア]]が溶解していて大きく空胞化していることがわかった。


[[MK-801]] をラットに 1.0 mg/kg 皮下投与後、およそ12時間後まで神経毒性的な変化が観察された。大部分の細胞空胞化は、[[光学顕微鏡]]では24時間後に正常に見えた。
[[MK-801]]をラットに 1.0 mg/kg 皮下投与後、およそ12時間後まで神経毒性的な変化が観察された。大部分の細胞空胞化は、[[光学顕微鏡]]では24時間後に正常に見えた。MK-801の 10 mg/kg 皮下投与での空胞化反応は、光学顕微鏡で投与48時間後まで見えた。

MK-801 の 10 mg/kg 皮下投与での空胞化反応は、光学顕微鏡で投与48時間後まで見えた。


NMDA受容体アンタゴニスト MK-801 と PCP の反復投与後の空胞化反応は、単回投与後と一致しているように見えた。累積的な神経毒性の影響は証拠がなかったが、反復投与で不可逆的な段階まで進行した。
NMDA受容体アンタゴニスト MK-801 と PCP の反復投与後の空胞化反応は、単回投与後と一致しているように見えた。累積的な神経毒性の影響は証拠がなかったが、反復投与で不可逆的な段階まで進行した。


MK-801は、NMDA受容体へ結合せず、[[リガンド]]の結合によって開口したリガンド依存性[[イオンチャネル]]を阻害する ([[:en:Channel blocker]])。オルニーの病変は、NMDA受容体へ直接結合しない薬物でも起こることを意味する。
光学顕微鏡で見える神経毒性的な変化をもたらしたのは[[ケタミン]]と[[チレタミン]]で最低用量がそれぞれ 40 mg/kg (皮下投与) と 10 mg/kg (皮下投与) であった。

光学顕微鏡で見える神経毒性的な変化をもたらしたのは[[ケタミン]]と[[チレタミン]]で最低用量がそれぞれ 40 mg/kg(皮下投与と 10 mg/kg(皮下投与であった。


これらの神経毒性的な変化はNMDA受容体アンタゴニストとしての効力と一致していた( MK-801 > PCP > チレタミン > ケタミン )。
これらの神経毒性的な変化はNMDA受容体アンタゴニストとしての効力と一致していた( MK-801 > PCP > チレタミン > ケタミン )。


NMDA受容体アンタゴニストである[[メマンチン]]もオルニーの病変が認められている。ラットに対する「100 mg/kg 単回経口投与」・「25 mg/kg/日 以上 14日間反復経口投与」・「100 mg/kg/日 14日間 混餌投与」の試験で、[[帯状回|帯状回皮質]]と[[脳梁膨大後部皮質|脳梁膨大皮質]]に神経細胞の空胞化や壊死が認められている<ref name=memantine_ctd_1>{{cite web |title=メマンチン塩酸塩 国際共通化資料(CTD)「前臨床安全性試験成績」 |url=https://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100018/43057400_22300AMX00423_B100_2.pdf |format=pdf |work=www.pmda.go.jp |publisher=第一三共株式会社 |accessdate=2016-05-16}}</ref>。
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[[ミノサイクリン]] 40 mg/kg は、出生後早期マウスの脳において広範囲にわたり[[大脳皮質|皮質]]のアポトーシスを誘発した。[[海馬体|海馬台]]などの部位で 0.5 mg/kg の MK-801 よりもアポトーシスを促進し、細胞死や神経変性を悪化させた<ref name="pmid26482736">{{cite journal |author=Inta I, Vogt MA, Vogel AS, Bettendorf M, Gass P, Inta D. |title=Minocycline exacerbates apoptotic neurodegeneration induced by the NMDA receptor antagonist MK-801 in the early postnatal mouse brain. |journal=[[:en:European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience]]. |date=2015-10-19 |url=https://link.springer.com/article/10.1007/s00406-015-0649-2 |pmid=26482736 |doi=10.1007/s00406-015-0649-2}}</ref>。


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2016年5月22日 (日) 02:14時点における版

オルニーの病変 (en:Olney's lesions) は、研究者 ジョン・オルニー (en:John Olney) の名前に由来する。別名、NMDA受容体・アンタゴニスト・ニューロン毒性 (NAN) は、潜在的な脳損傷の形態。オルニーは フェンサイクリジン (PCP) と類薬に起因する神経毒性を研究した。

1989年、オルニーらは神経細胞の空胞化と他の細胞傷害性病変が PCPMK-801ケタミン などのNMDA受容体アンタゴニストを投与したラットの脳で起こることを発見した。

NMDA受容体アンタゴニストの投与2時間後に後帯状皮質脳梁膨大後部皮質の神経細胞を電子顕微鏡写真で見たところ、ミトコンドリアが溶解していて大きく空胞化していることがわかった。

MK-801をラットに 1.0 mg/kg 皮下投与後、およそ12時間後まで神経毒性的な変化が観察された。大部分の細胞空胞化は、光学顕微鏡では24時間後に正常に見えた。MK-801の 10 mg/kg 皮下投与での空胞化反応は、光学顕微鏡で投与48時間後まで見えた。

NMDA受容体アンタゴニスト MK-801 と PCP の反復投与後の空胞化反応は、単回投与後と一致しているように見えた。累積的な神経毒性の影響は証拠がなかったが、反復投与で不可逆的な段階まで進行した。

MK-801は、NMDA受容体へ結合せず、リガンドの結合によって開口したリガンド依存性イオンチャネルを阻害する (en:Channel blocker)。オルニーの病変は、NMDA受容体へ直接結合しない薬物でも起こることを意味する。

光学顕微鏡で見える神経毒性的な変化をもたらしたのはケタミンチレタミンで最低用量がそれぞれ 40 mg/kg(皮下投与)と 10 mg/kg(皮下投与)であった。

これらの神経毒性的な変化はNMDA受容体アンタゴニストとしての効力と一致していた( MK-801 > PCP > チレタミン > ケタミン )。

NMDA受容体アンタゴニストであるメマンチンもオルニーの病変が認められている。ラットに対する「100 mg/kg 単回経口投与」・「25 mg/kg/日 以上 14日間反復経口投与」・「100 mg/kg/日 14日間 混餌投与」の試験で、帯状回皮質脳梁膨大皮質に神経細胞の空胞化や壊死が認められている[1]

ミノサイクリン 40 mg/kg は、出生後早期マウスの脳において広範囲にわたり皮質のアポトーシスを誘発した。海馬台などの部位で 0.5 mg/kg の MK-801 よりもアポトーシスを促進し、細胞死や神経変性を悪化させた[2]

関連項目

脚注・出典

  1. ^ メマンチン塩酸塩 国際共通化資料(CTD)「前臨床安全性試験成績」” (pdf). www.pmda.go.jp. 第一三共株式会社. 2016年5月16日閲覧。
  2. ^ Inta I, Vogt MA, Vogel AS, Bettendorf M, Gass P, Inta D. (2015-10-19). “Minocycline exacerbates apoptotic neurodegeneration induced by the NMDA receptor antagonist MK-801 in the early postnatal mouse brain.”. en:European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience.. doi:10.1007/s00406-015-0649-2. PMID 26482736. https://link.springer.com/article/10.1007/s00406-015-0649-2.