「ナイシン」の版間の差分
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'''ナイシン'''(Nisin)は、34[[アミノ酸]]残基の多環式[[抗菌]][[ペプチド]]であり、[[食品]]の[[保存料]]等に用いられる。[[ランチオニン]](Lan)、[[メチルランチオニン]](MeLan)、[[ジデヒドロアラニン]](Dha)、[[ジデヒドロアミノブチル酸]](Dhb)等の[[異常アミノ酸]]を含むが、これらはペプチド前駆体の[[翻訳後修飾]]によって導入されたものである。これらの反応の中では、[[リボソーム]]で合成された57アミノ酸長のペプチドが最終的なペプチドになる。[[セリン]]や[[スレオニン]]に由来する非飽和アミノ酸や[[ジデヒドロアミノ酸]]に[[酵素]]によって付け加えられた[[システイン]]残基は、複数の[[チオエーテル結合]]を作る。 |
'''ナイシン'''(Nisin)は、34[[アミノ酸]]残基の多環式[[抗菌]][[ペプチド]]であり、[[食品]]の[[保存料]]等に用いられる。[[ランチオニン]](Lan)、[[メチルランチオニン]](MeLan)、[[ジデヒドロアラニン]](Dha)、[[ジデヒドロアミノブチル酸]](Dhb)等の[[異常アミノ酸]]を含むが、これらはペプチド前駆体の[[翻訳後修飾]]によって導入されたものである。これらの反応の中では、[[リボソーム]]で合成された57アミノ酸長のペプチドが最終的なペプチドになる。[[セリン]]や[[スレオニン]]に由来する非飽和アミノ酸や[[ジデヒドロアミノ酸]]に[[酵素]]によって付け加えられた[[システイン]]残基は、複数の[[チオエーテル結合]]を作る。 |
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== 解説 == |
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ナイシンは''Lactococcus lactis''の発酵によって生じる。商業的には、''Lactoccus lactis''の[[牛乳]]や[[デキストロース]]等の天然培地での培養によって得られ、化学合成されることはない。[[グラム陽性菌]]の成長を抑え、食品の寿命を延ばすために[[プロセスチーズ]]や[[肉]]、[[飲料]]等の製造に用いられる。多くの[[バクテリオシン]]が通常近縁種しか阻害しないのに対し、ナイシンは[[酢酸菌]]''Listeria monocytogenes''等を含む広い範囲の種に対して効果がある。しかし[[キレート剤]][[EDTA]]と組み合わせることで、ナイシンによって[[グラム陰性菌]]も抑えるられることが知られている。ナイシンは水溶性で、10億分の1のレベルの濃度で効果を持つ。食品中では、食品の種類や認可に応じて~1-25ppmの濃度で用いられることが普通である。またその効果の選択性により、グラム陰性菌、[[酵母]]、[[カビ]]等の単離のための培地に加えられることもある。[[サブチリン]]や[[エピデルミン]]はナイシンの関連物質であり、どれも[[ランチビオティクス]]と呼ばれる分子のグループに含まれる。 |
ナイシンは''Lactococcus lactis'' の発酵によって生じる。商業的には、''Lactoccus lactis'' の[[牛乳]]や[[デキストロース]]等の天然培地での培養、大麦焼酎粕由来発酵大麦エキスの発酵<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/104/8/104_579/_article/-char/ja/ 古田吉史、丸岡生行、中村彰宏ほか、大麦焼酎粕由来発酵大麦エキス(FBE)からのナイシン生産] 日本醸造協会誌 Vol.104 (2009) No.8 p.579-586, {{DOI|10.6013/jbrewsocjapan.104.579}}</ref>によって得られ、化学合成されることはない。[[グラム陽性菌]]の成長を抑え、食品の寿命を延ばすために[[プロセスチーズ]]や[[肉]]、[[飲料]]等の製造に用いられる。多くの[[バクテリオシン]]が通常近縁種しか阻害しないのに対し、ナイシンは[[酢酸菌]]''Listeria monocytogenes''等を含む広い範囲の種に対して効果がある<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/milk/59/1/59_59/_article/-char/ja/ 益田時光、善藤威史、園元謙二、ナイシン―類稀な抗菌物質―] ミルクサイエンス Vol.59 (2010) No.1 p.59-65, {{DOI|10.11465/milk.59.59}}</ref>。しかし[[キレート剤]][[EDTA]]と組み合わせることで、ナイシンによって[[グラム陰性菌]]も抑えるられることが知られている。ナイシンは水溶性で、10億分の1のレベルの濃度で効果を持つ。食品中では、食品の種類や認可に応じて~1-25ppmの濃度で用いられることが普通である。またその効果の選択性により、グラム陰性菌、[[酵母]]、[[カビ]]等の単離のための培地に加えられることもある。[[サブチリン]]や[[エピデルミン]]はナイシンの関連物質であり、どれも[[ランチビオティクス]]と呼ばれる分子のグループに含まれる。 |
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[[食品添加物]]としてのナイシンの[[E番号]]はE234である。 |
[[食品添加物]]としてのナイシンの[[E番号]]はE234である。 |
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==関連文献== |
== 関連文献 == |
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* K. Fukase et al., Tetrahedron Lett. 1988, 29, 7, 795. |
* K. Fukase et al., Tetrahedron Lett. 1988, 29, 7, 795. |
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* G. W. Buchman et al., J. Biol. Chem. 1988, 263, 31, 16260. |
* G. W. Buchman et al., J. Biol. Chem. 1988, 263, 31, 16260. |
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* [https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1962/14/1/14_1_31/_article/-char/ja/ 慶田雅洋、ナイシンの食品工業への応用] 日本食品工業学会誌 Vol.14 (1967) No.1 P31-40, {{DOI|10.3136/nskkk1962.14.31}} |
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== 脚注 == |
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== 外部リンク == |
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* [http://bactibase.pfba-lab-tun.org/BAC047 Nisin A] |
* [http://bactibase.pfba-lab-tun.org/BAC047 Nisin A] |
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* [http://bactibase.pfba-lab-tun.org/BAC049 Nisin Z] |
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* [http://bactibase.pfba-lab-tun.org/BAC146 Nisin F] |
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* [http://bactibase.pfba-lab-tun.org/BAC147 Nisin U] |
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* [https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/55/1/55_1_37/_article/-char/ja/ 島純、ナイシンA] 日本食品科学工学会誌 Vol.55 (2008) No.1 P37, {{DOI|10.3136/nskkk.55.37}} |
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2016年2月12日 (金) 07:37時点における版
ナイシン | |
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識別情報 | |
CAS登録番号 | 1414-45-5 |
PubChem | 16219761 |
ChemSpider | 21106355 |
E番号 | E234 (防腐剤) |
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特性 | |
化学式 | C143H230N42O37S7 |
モル質量 | 3354.07 g/mol |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
ナイシン(Nisin)は、34アミノ酸残基の多環式抗菌ペプチドであり、食品の保存料等に用いられる。ランチオニン(Lan)、メチルランチオニン(MeLan)、ジデヒドロアラニン(Dha)、ジデヒドロアミノブチル酸(Dhb)等の異常アミノ酸を含むが、これらはペプチド前駆体の翻訳後修飾によって導入されたものである。これらの反応の中では、リボソームで合成された57アミノ酸長のペプチドが最終的なペプチドになる。セリンやスレオニンに由来する非飽和アミノ酸やジデヒドロアミノ酸に酵素によって付け加えられたシステイン残基は、複数のチオエーテル結合を作る。
解説
ナイシンはLactococcus lactis の発酵によって生じる。商業的には、Lactoccus lactis の牛乳やデキストロース等の天然培地での培養、大麦焼酎粕由来発酵大麦エキスの発酵[1]によって得られ、化学合成されることはない。グラム陽性菌の成長を抑え、食品の寿命を延ばすためにプロセスチーズや肉、飲料等の製造に用いられる。多くのバクテリオシンが通常近縁種しか阻害しないのに対し、ナイシンは酢酸菌Listeria monocytogenes等を含む広い範囲の種に対して効果がある[2]。しかしキレート剤EDTAと組み合わせることで、ナイシンによってグラム陰性菌も抑えるられることが知られている。ナイシンは水溶性で、10億分の1のレベルの濃度で効果を持つ。食品中では、食品の種類や認可に応じて~1-25ppmの濃度で用いられることが普通である。またその効果の選択性により、グラム陰性菌、酵母、カビ等の単離のための培地に加えられることもある。サブチリンやエピデルミンはナイシンの関連物質であり、どれもランチビオティクスと呼ばれる分子のグループに含まれる。
関連文献
- K. Fukase et al., Tetrahedron Lett. 1988, 29, 7, 795.
- G. W. Buchman et al., J. Biol. Chem. 1988, 263, 31, 16260.
- 慶田雅洋、ナイシンの食品工業への応用 日本食品工業学会誌 Vol.14 (1967) No.1 P31-40, doi:10.3136/nskkk1962.14.31
脚注
- ^ 古田吉史、丸岡生行、中村彰宏ほか、大麦焼酎粕由来発酵大麦エキス(FBE)からのナイシン生産 日本醸造協会誌 Vol.104 (2009) No.8 p.579-586, doi:10.6013/jbrewsocjapan.104.579
- ^ 益田時光、善藤威史、園元謙二、ナイシン―類稀な抗菌物質― ミルクサイエンス Vol.59 (2010) No.1 p.59-65, doi:10.11465/milk.59.59