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[[ファイル:Ancient Al-Mir'aj depiction.jpg|thumb|right|300px|アルミラージ([[13世紀]]、[[ザカリーヤー・カズウィーニー|ザカリーヤ・イブン・ムハンマド・アルカズヴィーニー]]作]]
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'''アルミラージ'''([[アラビア語]]: المعراج ''al-mi'raj'')は、角の生えた[[ウサギ]]に似た動物。[[インド洋]]に浮かぶとされる島、ジャジラト・アル=ティニン島(Jazirat al-Tinnin)に棲息すると言われる。その名前は、[[ムハンマド]]が[[昇天の書|昇天する際に通った天への道]]と同じ名前である。
'''アルミラージ'''または'''アル=ミラージ'''([[アラビア語]]: المعراج ''al-mi'raj'')は、角の生えた[[ウサギ]]に似た動物。[[インド洋]]に浮かぶとされる島、ジャジラト・アル=ティニン島(Jazirat al-Tinnin)に棲息すると言われる。その名前は、[[ムハンマド]]が[[昇天の書|昇天する際に通った天への道]]と同じ名前である。


== 概要 ==
== 概要 ==
[[File:Al-miraj and Serpent.png|thumb|464x464px|竜(''上'')が食らっている肉塊は硫黄詰めの牛<ref>{{harvp|Moor|2012|p=269}} and note 9</ref>。</br>有角のノウサギ (中央){{right|{{small|— カズヴィーニー宇宙誌の最古本。[[バイエルン州立図書館]]所蔵本。arab. 464写本、第63葉。1279/1280年あるいは1377年製作。}}<ref name=bayerische_staatsbibiothek/><ref name=bayerische_staatsbibiothek-LOCdata />{{Refn|group="注"|写本の完成は、著者の晩年の1280年<ref name=bayerische_staatsbibiothek-LOCdata /> (あるいは1279年)との鑑定もあるが<ref name=bayerische_staatsbibiothek/>、1377年との説もある<ref name=bayerische_staatsbibiothek/>}}。}}]]
アルミラージは13世紀の[[アラブ]]、[[ペルシア]]世界の学者、[[ザカリーヤー・カズウィーニー|ザカリーヤ・イブン・ムハンマド・アルカズヴィーニー]](1203–1283)の記した[[宇宙誌]]『被造物の驚異』にて[[アレクサンドロス3世|イスカンダル(アレクサンドロス3世)]]がジャジラト・アル=ティニン島([[竜]]の島の意)を訪れたときのエピソードとともに紹介されている{{Sfn|Melville|2012|p=269}}{{Sfn|Ettinghausen|1950|p=66}}
13世紀の[[アラブ]]、[[ペルシア]]世界の学者、[[ザカリーヤー・カズウィーニー|ザカリーヤ・イブン・ムハンマド・アルカズヴィーニー]](1203–1283)の記した[[宇宙誌]]『被造物の驚異』にて[[アレクサンドロス3世|イスカンダル(アレクサンドロス3世)]]が、インド洋上のジャジラト・アル=ティニン島([[竜]]の島の意)を訪れたときのエピソードとともに紹介されている<ref name="moor"/><ref name="ettinghausen"/>


:島に恐ろしい竜が住み着いて以来竜は島民に対して2頭の牛を要求した。イスカンダルが島を訪れと、島民は竜退治してくれようと懇願するイスカンダルは牛を2頭用意させ、その牛の毛皮をはいで[[硫黄]]と[[釣り針|かぎ針]]を詰め込んだ。いざ竜が牛を飲み込もうとする瞬間になると火がつけられ竜はそのまま硫黄とかぎ針の詰め込まれ牛を飲み込んだ。後に島民たちが竜が死んでいることを確認し、感謝の印としてイスカンダルに贈り物をした。それが黒い角をもった黄色い野うさぎであった。{{Sfn|Melville|2012|p=269}}
:島にはかつて恐ろしい竜が住み着いており[放っておくと]島民たちの家屋や財産を破壊するので、そうならないよう餌用日2頭の牛を供物にささげていた。イスカンダルは島到着す島民の訴え聞き、あ奸計よって竜退治の手助けをおこなったすなわち牡牛を2頭用意させ、その牛の毛皮をはいで[[硫黄]]と[[]]を詰め込ませた竜がいざ牛を飲み込もうとすると鉤が体に突きささっ。死んだ竜を島民たちは発見し、感謝の印としてイスカンダルに贈り物をした。それが[一本の]黒い角をもった黄色い野うさぎであった<ref name="moor"/>{{Refn|group="注"|以上ビルは・ムーアによる要約「アル=ミラージ」等の動物名はみえない。要約は2本の底本に基づく。ひとつは[[ワシントンD.C.]]市[[フリーア美術館]]蔵本(FGA 54写本 第61葉表)で、これは{{仮リンク|フリードリヒ・ザーレ|en|Friedrich Sarre|label=ザーレ家}}旧蔵本に同じである<ref name=badiee/>。もうひとつはサンクトペテルブルク市{{仮リンク|ロシア科学アカデミー東洋古文書研究所|en|Institute of Oriental Manuscripts of the Russian Academy of Sciences|label=東洋古文書研究所}}蔵本(D370写本、第64葉表、西暦1580年/ヒジュラ歴988年作)。}}。


上には特定の獣名はみえないが、刊行された稿本にはアル=ミラージと見え、また、あらゆる動物達はアル=ミラージを恐れ、それを一目見ると逃げだすと記述される<ref>{{harvp|Ettinghausen|1950|p=66}}、注29。ヴュステンフェルト編本({{harvp||Wüstenfeld ed.|1849|loc='''1''': 13}} )及びエテドイツ訳({{harvp|Ethé tr.|1868|p=230}})に拠る。{{仮リンク|ダミーリー|en|Al-Damiri}}「動物誌」のカイロ版本(へジュラ歴1319年)も参照している。</ref>。この特徴は、アラブ文献に登場する別の一角獣{{仮リンク|カルカダン|en|Karkadann}}と共通している点だと指摘される{{sfnp|Ettinghausen|1950|p=66}}。
概ね上記のように描写されるが『被造物の驚異』は当時人気を博し、数多くの写本が作られたためにアルミラージの描写、イラストともに様々なバリエーションが存在する{{Sfn|Melville|2012|p=269}}{{Sfn|Ettinghausen|1950|p=67}}{{Sfn|Ettinghausen|1950|p=271}}。以下に一部を紹介する。


『被造物の驚異』は当時人気を博し、数多くの写本が作られたためにアルミラージの描写、イラストともに様々なバリエーションが存在する。
:体格は普通のウサギよりやや大きめで、黄色{{Sfn|Ettinghausen|1950|p=66}}または金色{{Sfn|Melville|2012|p=270}}の体毛に覆われている。最大の特徴は、額から隆起する黒い{{Sfn|Ettinghausen|1950|p=66}}螺旋状の角であり、その長さは2フィートにも及ぶ。かわいらしい外見とは裏腹に非常に獰猛な肉食獣であり、自分より体格の大きい獣や人間までも、額の鋭い角で刺し殺して食べてしまう。食欲も旺盛で、自分の何倍もの大きさのある獲物を軽々と平らげる。そのため島の動物達はアルミラージを恐れ、常にその存在に怯え逃げ回っている{{Sfn|Ettinghausen|1950|p=66}}。
例えばザーレ家旧蔵本(現・フリーア美術館蔵本)の絵は文章に忠実な角兎に描かれているが、ベルリン本{{efn2|ベルリン市{{仮リンク|イスラム美術館 (ベルリン)|de|Museum für Islamische Kunst (Berlin)|label=イスラム美術館}}(元[[ベルリン美術館]]イスラム館)蔵本。}}の絵は雑で"どちらかというと獰猛な犬に似た合成獣"に描かれているとされる<ref name="ettinghausen"/>。最古写本では{{efn2|同じ紙面に角兎も描れているが、ムーアが解説していない。}}竜は肉塊のようなものを食らっている描写である{{sfnp|Moor|2012|p=269}}。

:島に住む人間達にとっても、アルミラージは、人間達自身や、彼らが飼育している家畜を襲うので恐怖の対象であった。そのため、アルミラージが出現したという風聞が発せられるやいなや、島の住民たちはアルミラージを駆逐するために[[魔女]]に依頼をすることになる。真に魔術の心得のある魔女は獰猛なアルミラージを手懐けて無力化することが出来るので、普通の人間でも危険を犯さずアルミラージを追い払えるようになる。


== 起源 ==
== 起源 ==
アルミラージの由来となったのは皮膚病に感染したウサギだという。皮膚病を伝染させる[[ウイルス]]に感染したウサギは額に[[腫瘍]]が発生し、赤く膨れて隆起する。隆起、膨張した額の腫瘍はまるで角が生えているような錯覚を見せ、またおどろおどろしさを醸成する。そこから猛獣アルミラージの伝説が生まれていったと言われる。
アルミラージの由来となったのは皮膚病に感染したウサギだという。皮膚病を伝染させる[[ウイルス]]に感染したウサギは額に[[腫瘍]]が発生し、赤く膨れて隆起する。隆起、膨張した額の腫瘍はまるで角が生えているような錯覚を見せ、またおどろおどろしさを醸成する。そこから猛獣アルミラージの伝説が生まれていったと言われる。

== 注釈 ==
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== 脚注 ==
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;参考文献
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* {{cite book|ref={{SfnRef|Ethé tr.|1868}}|last=al-Qazwīnī |first=Zakariyyā ibn Muḥammad ibn Maḥmūd |others=Ethé, Hermann (trans.) |title=Die Wunder der Schöpfung: Nach der Wüstenfeldschen Textausgabe, mit Benutzung und Beifügung der Reichhaltigen Anmerkungen und erbesserungen des Herrn Prof. Dr. Fleischer |volume=1 |place=Leipzig |publisher=Fues’s Verlag |year=1868 |url=https://books.google.com/books?id=qyc-AAAAcAAJ&pg=PA230 |pages=230–231}} {{in lang|de}}

* {{cite book|ref={{SfnRef|Wüstenfeld ed.|1849}}|last=al-Qazwīnī |first=Zakariyyā ibn Muḥammad ibn Maḥmūd |editor-last=Wüstenfeld |editor-first=Ferdinand |editor-link=:en:Ferdinand Wüstenfeld |title=Zakarija ben Muhammed ben Mahmud el- Cazwini's Kosmographie |location=Göttingen |publisher=Dieterich |date=1848–1849 |url=https://books.google.com/books?id=WGvWp5XDuikC&pg=PA269 |pages=269–270; Fig. 6 (p. 278); Fig. 1 (Plate 23) |isbn=<!--9004211276, -->9789004211278}}


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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[ジャッカロープ]]
* [[ジャッカロープ]]

2022年1月1日 (土) 11:49時点における版

"一本の黒い角をもつ兎のような黄色い獣"[1]
カズヴィーニー著の宇宙誌。ボルドー市立図書館蔵本。1565年作の写本[2]

アルミラージまたはアル=ミラージアラビア語: المعراج al-mi'raj)は、角の生えたウサギに似た動物。インド洋に浮かぶとされる島、ジャジラト・アル=ティニン島(Jazirat al-Tinnin)に棲息すると言われる。その名前は、ムハンマド昇天する際に通った天への道と同じ名前である。

概要

竜()が食らっている肉塊は硫黄詰めの牛[3]
有角のノウサギ (中央)
— カズヴィーニー宇宙誌の最古本。バイエルン州立図書館所蔵本。arab. 464写本、第63葉。1279/1280年あるいは1377年製作。[4][5][注 1]

13世紀のアラブペルシア世界の学者、ザカリーヤ・イブン・ムハンマド・アルカズヴィーニー(1203–1283)の記した宇宙誌『被造物の驚異』にてイスカンダル(アレクサンドロス3世)が、インド洋上のジャジラト・アル=ティニン島(の島の意)を訪れたときのエピソードとともに紹介されている[6][7]

島にはかつて恐ろしい竜が住み着いており、[放っておくと]島民たちの家屋や財産を破壊するので、そうならないよう餌用に毎日2頭の牡牛を供物にささげていた。イスカンダルは島が到着するや島民の訴えを聞き、ある奸計によって竜退治の手助けをおこなった。すなわち牡牛を2頭用意させ、その牛の毛皮をはいで硫黄と鉄を詰め込ませた。竜がいざ牡牛を飲み込もうとすると発火し、鉤が体に突きささった。死んだ竜を島民たちは発見し、感謝の印としてイスカンダルに贈り物をした。それが[一本の]黒い角をもった黄色い野うさぎであった[6][注 2]

上には特定の獣名はみえないが、刊行された稿本にはアル=ミラージと見え、また、あらゆる動物達はアル=ミラージを恐れ、それを一目見ると逃げだすと記述される[9]。この特徴は、アラブ文献に登場する別の一角獣カルカダン英語版と共通している点だと指摘される[10]

『被造物の驚異』は当時人気を博し、数多くの写本が作られたためにアルミラージの描写、イラストともに様々なバリエーションが存在する。 例えばザーレ家旧蔵本(現・フリーア美術館蔵本)の絵は文章に忠実な角兎に描かれているが、ベルリン本[注 3]の絵は雑で"どちらかというと獰猛な犬に似た合成獣"に描かれているとされる[7]。最古写本では[注 4]竜は肉塊のようなものを食らっている描写である[11]

起源

アルミラージの由来となったのは皮膚病に感染したウサギだという。皮膚病を伝染させるウイルスに感染したウサギは額に腫瘍が発生し、赤く膨れて隆起する。隆起、膨張した額の腫瘍はまるで角が生えているような錯覚を見せ、またおどろおどろしさを醸成する。そこから猛獣アルミラージの伝説が生まれていったと言われる。

注釈

  1. ^ 写本の完成は、著者の晩年の1280年[5] (あるいは1279年)との鑑定もあるが[4]、1377年との説もある[4]
  2. ^ 以上ビルは・ムーアによる要約。「アル=ミラージ」等の動物名はみえない。要約は2本の底本に基づく。ひとつはワシントンD.C.フリーア美術館蔵本(FGA 54写本 第61葉表)で、これはザーレ家英語版旧蔵本に同じである[8]。もうひとつはサンクトペテルブルク市東洋古文書研究所英語版蔵本(D370写本、第64葉表、西暦1580年/ヒジュラ歴988年作)。
  3. ^ ベルリン市イスラム美術館ドイツ語版(元ベルリン美術館イスラム館)蔵本。
  4. ^ 同じ紙面に角兎も描れているが、ムーアが解説していない。

脚注

  1. ^ Wiedemann, Michel (2009年3月28日). “Les lièvres cornus, une famille d'animaux fantastiques”. 2021年12月31日閲覧。
  2. ^ Qazwini, Zakariya Ibn Muhammad (1565年). “Les merveilles de la création et les curiosités des choses existantes. Traité de cosmographie et d'histoire naturelle de Qazwînî (Ms 1130)”. Bibliothèque municipale de Bordeaux. p. 54r. 2021年12月31日閲覧。
  3. ^ Moor (2012), p. 269 and note 9
  4. ^ a b c Qazwini, Zakariya Ibn Muhammad (1279–1377). “Qazwīnī, Zakarīyā Ibn-Muḥammad al-: Kitāb ʿAǧāʾib al-maḫlūqāt wa-ġarāʾib al-mauǧūdāt”. Münchener DigitalisierungsZentrum Digitale Biliothek. p. 63r. 2021年12月31日閲覧。
  5. ^ a b Qazwini, Zakariya Ibn Muhammad (1260–1280). “The Wonders of Creation”. Library of Congress. pp. 131. 2021年12月31日閲覧。
  6. ^ a b Moor (2012), p. 269 and note 8
  7. ^ a b Ettinghausen, Richard (1950). The Unicorn. Freer Gallery of Art occasional papers. vol. 1. no. 3 / Studies in Muslim Iconography I. Washington, D.C.: Smithsonian Institution. pp. 66–67, Plate 44. ISBN 9781258518929. http://www.rhinoresourcecenter.com/pdf_files/131/1311808615.pdf?view  全画像ファイル@スミスソニアン
  8. ^ Badiee, Julie (1984). “The Sarre Qazwīnī: An Early Aq Qoyunlu Manuscript?”. Ars Orientalis 14: 93, endnote 4. JSTOR 4629331. https://books.google.com/books?id=5R7v9726QlMC&q=%22Miraculous+Hare%22. 
  9. ^ Ettinghausen (1950), p. 66、注29。ヴュステンフェルト編本( & Wüstenfeld ed. (1849), 1: 13 )及びエテドイツ訳(Ethé tr. (1868), p. 230)に拠る。ダミーリー英語版「動物誌」のカイロ版本(へジュラ歴1319年)も参照している。
  10. ^ Ettinghausen (1950), p. 66.
  11. ^ Moor (2012), p. 269.
参考文献

関連項目