「クラリネット五重奏曲 (モーツァルト)」の版間の差分

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'''クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581'''は、[[ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト]]が [[1789年]][[9月29日]]に作曲した[[クラリネット]]と[[弦楽四重奏]]のための[[室内楽曲]]。友人[[アントン・シュタードラー]]のために作曲され、「'''シュタードラー五重奏'''」と呼ばれることもある。同年[[12月22日]]に[[ブルク劇場]]でシュタードラーのクラリネットにより初演された。[[クラリネット協奏曲 (モーツァルト)|クラリネット協奏曲K.622]]と同様に、本来はシュタードラーが用いていた"Bass-klarinet"(現在の[[バセットクラリネット]])のために作曲されたものである。現在一般に用いられる版は[[1802年]]に通常のクラリネット用に編曲されたもので、自筆譜は協奏曲同様に現在紛失している。
'''クラリネット五重奏曲 イ長調 [[ケッヘル番号|K. 581]]''' は、[[ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト]]が[[1789年]][[9月29日]]に作曲した[[クラリネット]]と[[弦楽四重奏]]のための[[室内楽曲]]。クラリネット奏者であった友人[[アントン・シュタードラー]]のために作曲されたため『'''シュタードラー五重奏曲'''』の愛称で呼ばれることもある。

== 概要 ==
同年[[12月22日]]に[[ブルク劇場]]でシュタードラーのクラリネットにより初演された。[[クラリネット協奏曲 (モーツァルト)|クラリネット協奏曲 イ長調 K. 622]]と同様に、本来はシュタードラーが用いていた "Bass-klarinet"(現在の[[バセットクラリネット]])のために作曲されたものである。現在一般に用いられる版は[[1802年]]に通常のクラリネット用に編曲されたもので、自筆譜は協奏曲同様に現在紛失している。


[[クラリネット]]は当時はまだ目新しく、ようやく[[オーケストラ]]の仲間入りをし始めた楽器であった。しかしモーツァルトは当時の楽器のもつ可能性を利用し尽くし、クラリネット音楽の発展に対して重要な模範を提示した。この作品においても、広い音域や歌謡的能力を活用する優れた書法を見ることができる。
[[クラリネット]]は当時はまだ目新しく、ようやく[[オーケストラ]]の仲間入りをし始めた楽器であった。しかしモーツァルトは当時の楽器のもつ可能性を利用し尽くし、クラリネット音楽の発展に対して重要な模範を提示した。この作品においても、広い音域や歌謡的能力を活用する優れた書法を見ることができる。


[[ヨハネス・ブラームス|ブラームス]]はこのクラリネット五重奏曲に大いに関心を示し、彼自身[[クラリネット五重奏曲 (ブラームス)|クラリネット五重奏曲Op.115]]を作曲した。第4楽章はモーツァルトの五重奏と同じく変奏曲形式になっている。
[[ドイツ]]の[[作曲家]][[ヨハネス・ブラームス]]はこのクラリネット五重奏曲に大いに関心を示し、同様の編成による『[[クラリネット五重奏曲 (ブラームス)|クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115]]を作曲した。この作品の第4楽章はモーツァルトの作品と同じく変奏曲形式になっている。


== 曲の構成 ==
== 曲の構成 ==
4楽章からなる。演奏時間は30分程度。
4楽章演奏時間は30分程度。


* '''第1楽章''' [[wikt:allegro|アレグロ]]
; 第1楽章:アレグロ [[イ長調]] 4/4拍子、[[ソナタ形式]]。ヘルマン・アーベルトが「雲のない春の朝」と評した清明な弦楽の旋律にクラリネットの[[アルペジ]]が応えて始まる。第主題は第[[ヴァイオリン]]に提示され、クラリネットに引き継がれる。展開部では主に第主題を扱い、形通りの再現部が続く。全体的な色調は明るいが響きは頻繁に短調に傾き、それが作品に深い陰影を与えている。
*: [[イ長調]]、4分の4拍子、[[ソナタ形式]]。
; 第2楽章:ラルゲット [[ニ長調]] 3/4拍子、[[三部形式]]。協奏曲のそれと似た性格を持つ、きわめて美しい緩徐楽章。クラリネットと弦楽が豊かに絡み合う。
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*: ドイツの[[音楽史|音楽史家]][[ヘルマン・アーベルト]]が「雲のない春の朝」と評した清明な弦楽の旋律にクラリネットの[[アルペ]]が応えて始まる。第2主題は第1[[ヴァイオリン]]に提示され、クラリネットに引き継がれる。展開部では主に第1主題を扱い、形通りの再現部が続く。全体的な色調は明るいが響きは頻繁に短調に傾き、それが作品に深い陰影を与えている。


* '''第2楽章''' [[wikt:larghetto|ラルゲット]]
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*: [[ニ長調]]、4分の3拍子、[[三部形式]]。
*: 協奏曲のそれと似た性格を持つ、きわめて美しい緩徐楽章。クラリネットと弦楽が豊かに絡み合う。


* '''第3楽章''' [[メヌエット]]
*: イ長調 - [[イ短調]](トリオⅠ、クラリネットは休止) - イ長調(トリオⅡ)、4分の3拍子。
*: 対比的な性格の2つのトリオを持つメヌエット。

* '''第4楽章''' [[wikt:allegretto|アレグレット]]・[[wikt:con|コン]]・ヴァリアツィオーニ
*: イ長調、4分の4拍子、[[変奏曲]]形式。
*:<score sound="1">
\relative c'' { \set Staff.midiInstrument = #"violin"
\key a \major
\time 2/2
\tempo "Allegretto con Variazioni"
\tempo 4 = 109
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a-. a-. b-. b-.
a4.\startTrillSpan (gis16 \stopTrillSpan a) gis2-!
}
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*: 軽快な主題に4つの変奏と表情豊かな[[wikt:adagio|アダージョ]](第5変奏)、アレグロ(第6変奏またはコーダ)が続く。


== 五重奏の草稿 ==
== 五重奏の草稿 ==
モーツァルトはこの作品のほかに、クラリネットを含む五重奏の断片をいくつか遺しており、補筆・演奏されることがある。
モーツァルトはこの作品のほかに、クラリネットを含む五重奏の断片をいくつか遺しており、補筆・演奏されることがある。
* K.Anh.88 (581a) 断章 [[イ長調]]
* 断章 [[イ長調]] K. Anh. 88 (581a)
* K.Anh.89 (516e) ロンド [[変ホ長調]]
* ロンド [[変ホ長調]] K. Anh. 89 (516e)
* K.Anh.90(580b) アレグロ [[ヘ長調]] クラリネット、バセットホルン、[[弦楽三重奏]]の編成。
* アレグロ [[ヘ長調]] K. Anh. 90 (580b)
*: クラリネット、バセットホルン、[[弦楽三重奏]]の編成。
* K.Anh.91(516c) アレグロ [[変ロ長調]] 演奏機会は比較的多い。
* アレグロ [[変ロ長調]] K .Anh. 91 (516c)
*: 演奏機会は比較的多い。
* K.516d ロンド 変ホ長調
* ロンド 変ホ長調 K. 516d


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
『作曲家別名曲解説ライブラリー モーツァルト<2>』音楽之友社、2007
* 『作曲家別名曲解説ライブラリー モーツァルト<2>』音楽之友社、2007
* オスカール・クロル、ディートルルト・リーム編、大塚精治・玉生雅男共訳『クラリネット・ハンドブック』音楽之友社、1984

オスカール・クロル、ディートルルト・リーム編、大塚精治・玉生雅男共訳『クラリネット・ハンドブック』音楽之友社、1984


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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* [http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op5/k581.html 解説] - Mozart con grazia
* [http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op5/k581.html 解説] - Mozart con grazia



2020年5月12日 (火) 04:44時点における版

クラリネット五重奏曲 イ長調 K. 581 は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト1789年9月29日に作曲したクラリネット弦楽四重奏のための室内楽曲。クラリネット奏者であった友人アントン・シュタードラーのために作曲されたため『シュタードラー五重奏曲』の愛称で呼ばれることもある。

概要

同年12月22日ブルク劇場でシュタードラーのクラリネットにより初演された。『クラリネット協奏曲 イ長調 K. 622』と同様に、本来はシュタードラーが用いていた "Bass-klarinet"(現在のバセットクラリネット)のために作曲されたものである。現在一般に用いられる版は1802年に通常のクラリネット用に編曲されたもので、自筆譜は協奏曲同様に現在紛失している。

クラリネットは当時はまだ目新しく、ようやくオーケストラの仲間入りをし始めた楽器であった。しかしモーツァルトは当時の楽器のもつ可能性を利用し尽くし、クラリネット音楽の発展に対して重要な模範を提示した。この作品においても、広い音域や歌謡的能力を活用する優れた書法を見ることができる。

ドイツ作曲家ヨハネス・ブラームスはこのクラリネット五重奏曲に大いに関心を示し、同様の編成による『クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115』を作曲した。この作品の第4楽章は、モーツァルトの作品と同じく変奏曲形式になっている。

曲の構成

全4楽章、演奏時間は30分程度。

  • 第2楽章 ラルゲット
    ニ長調、4分の3拍子、三部形式
    協奏曲のそれと似た性格を持つ、きわめて美しい緩徐楽章。クラリネットと弦楽が豊かに絡み合う。
  • 第3楽章 メヌエット
    イ長調 - イ短調(トリオⅠ、クラリネットは休止) - イ長調(トリオⅡ)、4分の3拍子。
    対比的な性格の2つのトリオを持つメヌエット。

五重奏の草稿

モーツァルトはこの作品のほかに、クラリネットを含む五重奏の断片をいくつか遺しており、補筆・演奏されることがある。

  • 断章 イ長調 K. Anh. 88 (581a)
  • ロンド 変ホ長調 K. Anh. 89 (516e)
  • アレグロ ヘ長調 K. Anh. 90 (580b)
    クラリネット、バセットホルン、弦楽三重奏の編成。
  • アレグロ 変ロ長調 K .Anh. 91 (516c)
    演奏機会は比較的多い。
  • ロンド 変ホ長調 K. 516d

参考文献

  • 『作曲家別名曲解説ライブラリー モーツァルト<2>』音楽之友社、2007
  • オスカール・クロル、ディートルルト・リーム編、大塚精治・玉生雅男共訳『クラリネット・ハンドブック』音楽之友社、1984

関連項目

外部リンク