徴税村

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

徴税村(ちょうぜいそん、英語: Revenue Village)、地域によってはモウザ (mouza)、マウザ (mauza) は[1]バングラデシュパキスタン、また一部のインドにおける小規模な行政区画の一種で、境界が明確が引かれた村落日本語では、英語の音写によりレベニュー・ビレッジともいい[2]、また歳入区域と訳される場合もある[3]

ひとつの徴税村の中には、複数の小村(ハムレット)が含まれている場合もある[4][5]。それぞれの徴税村には村落行政官 (Village Administrative Officer, VAO) が置かれている[6]

インドでは、一般的に、徴税村が複数集まってグラム・パンチャヤート英語版 (GP) と呼ばれる行政村が構成される[2]。グラム・パンチャヤートは、独立前から各地に散在していたとされるが、独立後に全国的な制度化が進み、1957年に制度として確立されたが、徴税村はその後も、農村住民の日常生活の単位として実質的な役割を担い続けている[7]

歴史[編集]

徴税村は、イギリス領インド帝国の時期に、集落を統治する行政階層の最下位の単位として設定されたものである。この制度は、徴税の仕組みを改善し、徴税の過程を適正化するために設けられたものであり、農村の計画や開発を目的としたものではない[8]

例えば、ベンガル地方の場合、1840年から1870年にかけて、タクバスト測量 (Thakbast survey) と呼ばれた地租査定のための測量が全域でおこなわれ、その際に、社会経済的な地域の実情とは無関係に、機会的に徴税村の境界が設定された[9]

また、マハーラーシュトラ州のある事例では、徴税村はタルクと称され[10]、独立後に農地改革がおこなわれるまでは、不在地主として多くの土地を所有す るブラーミン地主がジャギルダールと称された徴税官を務めていたという[11]。(なお、 タルク (taluk) は、徴税村より小さい単位を意味することもある[3]。)

20世紀になるまで、モウザ(マウザ)はパルガナー英語版と称された徴税のための地区の単位を意味していた。人口が増加し、村落が各地で発展すると、モウザという概念は重要性を失っていった。今日では、自然に形成された村落を意味するグラム (gram)[1] とほとんど同じ意味で用いられている。バングラデシュでは、正式な行政区画の最小単位は、ワード (ward) であるが、その下に英語では「Revenue Village」(徴税村)と訳される単位としてモウザが日常的に用いられており[1]、バングラデシュ全域で総数は 59,990 か所にのぼるとされる[12]。また、例えば、選挙人名簿では、かつてはモウザの名称に基づいていたが、今では村落名が用いられるのが普通になっている[13]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 海田能宏、ケシャブ・ラル・マハラシャン「バングラデシュの<むら>と<まち>のインターアクション」『東南アジア研究』第28巻第3号、1990年、144頁、doi:10.20495/tak.28.3_403NAID 110000200544 
  2. ^ a b 佐藤慶子 著「第6章 インド農村における地域社会の仕組みと組織的行動 -南インド・タミルナードゥでの調査から-」、重冨真一、岡本郁子 編『アジア農村における地域社会の組織形成メカニズム 調査研究報告書』(PDF)2012年、4-5頁https://www.ide.go.jp/library/Japanese/Publish/Reports/InterimReport/2011/pdf/413_ch6.pdf2024年4月24日閲覧 
  3. ^ a b インド国タミル・ナド州非感染性疾患予防対策にかかる情報収集・確認調査 報告書』(PDF)国際協力機構(JICA)/グローバルリンクマネージメント、2017年、13頁http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/12302022.pdf2019年11月23日閲覧。"タルク(Taluk)とは、県の下の行政区域の1つである。各県は、複数の歳入区域に分かれており、さらに歳入区域は複数のタルクに分かれ、各タルクには税金を徴収する役人が配置されており、複数の村を管轄している。"。 
  4. ^ Census of India - Census Terms”. censusindia.gov.in. 2019年5月18日閲覧。
  5. ^ Concepts and Definitions”. Seventh All India Educational Survey (2002年9月30日). 2005年12月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年8月16日閲覧。
  6. ^ Revenue Department, Policy Note 2003-2004”. cms.tn.gov.in. p. 9. 2019年11月22日閲覧。
  7. ^ 藤原健蔵, シャルマ R.C.「インドにおける低開発農村地域・低所得階層発展計画と村落変化」『地誌研年報』第2巻、広島大学総合地誌研究資料センター、1992年3月、9-10頁、CRID 1050296265987798912NAID 110000955790 
  8. ^ Ramachandraiah, C. (1995). “Revenue Village vs Real Village: Under-Enumeration and Non-Enumeration under Srisailam Project”. Economic and Political Weekly 30 (37): 2301–2302. JSTOR 4403211. 
  9. ^ 矢嶋吉司『バングラデシュ農村開発モデル : 地方行政と村落のリンク』京都大学〈博士(農学) 甲第7590号〉、1999年、39頁。doi:10.11501/3147486hdl:2433/78091NAID 500000168361https://doi.org/10.11501/3147486 
  10. ^ 藤原健藏 2006, p. 24.
  11. ^ 藤原健藏 2006, p. 31.
  12. ^ 藤田幸一「バングラデシュ農村非制度金融の新動向 : 階層間金融フローの「逆転」をめぐって」『農業綜合研究』第49巻第3号、東京 : 農林水産省農業総合研究所、1995年7月、7頁、CRID 1050845763570010752ISSN 0387-3242NAID 10011281685 
  13. ^ Islam, Sirajul (2012). “Mouza”. In Islam, Sirajul; Jamal, Ahmed A.. Banglapedia: National Encyclopedia of Bangladesh (Second ed.). Asiatic Society of Bangladesh. http://en.banglapedia.org/index.php?title=Mouza 

参考文献[編集]