タチウオ科

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タチウオ科
タチウオ Trichiurus lepturus
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
亜綱 : 新鰭亜綱 Neopterygii
上目 : 棘鰭上目 Acanthopterygii
: スズキ目 Perciformes
亜目 : サバ亜目 Scombroidei
: タチウオ科 Trichiuridae
英名
Cutlassfishes
下位分類
本文参照

タチウオ科学名Trichiuridae)は、スズキ目サバ亜目に所属する魚類の分類群の一つ。3亜科で構成され、タチウオなど少なくとも10属39種が記載される[1]

分布・生態[編集]

タチウオ科の魚類はすべて海水魚で、太平洋インド洋大西洋など世界中の海に幅広く分布する[1]。多くの種類が200m以深の深海で生活する深海魚で、大陸斜面など海底付近を遊泳して生活すると考えられている[2]。オビレタチ Lepidopus caudatus など一部の種類は、夜間に餌を求めて海面付近に浮上する、日周鉛直移動を行うことが知られている[2]

本科魚類の多くは牙のような鋭い歯を備えているが、大型の動物プランクトンを中心に捕食するとみられている[3]。食用魚として漁獲対象となる種類が多く、特にタチウオ Trichiurus lepturus は世界の年間漁獲量が150万トンに達し、魚種別の上位10位に入るなど漁業上きわめて重要な存在となっている[3]

形態[編集]

タチモドキ属の1種(Benthodesmus simonyi)。細長く側扁した体型と、体のほぼ全長にわたる長い背鰭が本科魚類に共通する特徴である

タチウオ科の仲間は非常に細長く、左右に平べったく側扁した体型をもつ[1]。体色は光沢をもつ銀色であることが多く[3][4]和名のタチウオ(太刀魚)や英名のCutlassfish(カットラス:船乗りに多く用いられた湾曲した剣)は、この体つきを刀剣に見立てたものである。

背鰭は透明でその基底は著しく長く、前半の棘条部と、それよりも長い軟条部からなる[1][4]。クロタチモドキ亜科の仲間は、棘条部と軟条部の間に切れ込みをもつ[1]。臀鰭は2棘56-121軟条で、胸鰭は体の低い位置にある[1]。尾鰭は小さく退化的で、もたない種類もある[1]。腹鰭はもたないか、あるいは非常に小さく痕跡的で、状の棘条と1本の軟条で構成される[1]。尾柄部に小離鰭をもたないことが、近縁のクロタチカマス科サバ科との重要な鑑別点となっている[5]

下顎を前に突き出すことができ、牙のように長く鋭い歯を備える[1]。主上顎骨は前眼窩骨によって覆われ、椎骨は58-192個[2]

分類[編集]

タチウオ科にはNelson(2006)の体系において3亜科10属39種が認められている[1]。本稿では、FishBaseに記載される10属44種についてリストする[2]

クロタチモドキ亜科[編集]

クロタチモドキ Aphanopus carbo (クロタチモドキ属)。北大西洋に分布する水産重要種[2]
タチモドキ Benthodesmus tenuis (タチモドキ属)。三大洋の大陸斜面に幅広く分布する

クロタチモドキ亜科 Aphanopodinae は2属18種で構成される。二又に分かれた小さいが明瞭な尾鰭と、腹鰭をもつことが特徴[1]。背鰭の棘条は38-46本で、軟条部との境界にはわずかな切れ込みが存在する[1]

  • クロタチモドキ属 Aphanopus
  • タチモドキ属 Benthodesmus
    • タチモドキ Benthodesmus tenuis
    • ヤマトタチモドキ Benthodesmus elongatus
    • Benthodesmus macrophthalmus
    • Benthodesmus neglectus
    • Benthodesmus oligoradiatus
    • Benthodesmus pacificus
    • Benthodesmus papua
    • Benthodesmus simonyi
    • Benthodesmus suluensis
    • Benthodesmus tuckeri
    • Benthodesmus vityazi

オビレタチ亜科[編集]

ナガユメタチモドキ Assurger anzac (ナガユメタチモドキ属)。尾鰭の有無は本科魚類の重要な分類形質となっている。本種は小さいが明瞭な尾鰭をもつ[6]
オビレタチ Lepidopus caudatus (オビレタチ属)。夜間に表層に浮上する習性をもつ、漁業対象種[2]
ユメタチモドキ Evoxymetopon taeniatus (ユメタチモドキ属)。牙状の歯が明瞭
タチウオ Trichiurus lepturus (タチウオ属)。かつて日本近海産のものは別種(T. japonicus)とされていたが、現在では本種のシノニムとして扱われている

オビレタチ亜科 Lepidopodinae にNelson(2006)は5属18種を認めているが、FishBaseの記載は13種にとどまる[2]

腹鰭をもつが、尾鰭の有無はさまざま[1]。背鰭の棘条は3-10本で、軟条部とは切れ込みをもたず連続する[1]側線は胸鰭の後方から徐々に斜めに下がって走行する[1]

タチウオ亜科[編集]

タチウオ亜科 Trichiurinae にはNelson(2006)の体系において3属3種が認めたが、その後の精力的な一連の研究(宮崎大学農学部岩槻博士らの一連の研究)により、多くの種の実態が明らかになってきた。FishBaseには下記の有効種が存在するとされるが、日本で知られるオキナワオオダチや、テンジクダチの学名の問題を含め、今後世界的なレビューが必要であろう。

他の2亜科と比べ骨格の退縮傾向が強く、尾鰭と下尾骨、腹鰭とその支持骨格を欠く[1]。背鰭の棘条は3-4本で、軟条部と連続する[1]。側線は胸鰭の後方で下向きに曲り、腹側近くを走行する[1]

  • タチウオ属 Trichiurus
    • タチウオ Trichiurus lepturus
    • Trichiurus auriga
    • Trichiurus australis
    • Trichiurus brevis
    • Trichiurus gangeticus
    • Trichiurus margarites
    • Trichiurus nanhaiensis
    • Trichiurus nickolensis
    • Trichiurus russelli
  • トゲタチウオ属 Lepturacanthus
    • トゲタチウオ Lepturacanthus savala
    • Lepturacanthus pantului
    • Lepturacanthus roelandti
  • Demissolinea
    • Demissolinea novaeguineensis

出典・脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 『Fishes of the World Fourth Edition』 pp.431-432
  2. ^ a b c d e f g Trichiuridae”. FishBase. 2010年11月21日閲覧。
  3. ^ a b c 『The Diversity of Fishes Second Edition』 p.319
  4. ^ a b 『深海調査船が観た深海生物』 p.380
  5. ^ 『Fishes of the World Fourth Edition』 pp.431-433
  6. ^ 『日本の海水魚』 p.655
  7. ^ 日本産魚類の追加種リスト”. 日本魚類学会. 2010年11月21日閲覧。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]