IEEE 802.1Q

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IEEE 802.1Q またはVLANタギングとは、IEEE 802.1 ワーキンググループが策定したネットワーク規格であり、ブリッジで連結された複数のネットワークで情報を漏洩させることなく同じネットワークリンクを透過的に共有する方式である。一般にイーサネットのネットワークでのカプセル化プロトコルを使った実装を指す。

IEEE 802.1Q-2014 は、MAC層におけるブリッジを基盤とした特定の概念モデルと IEEE 802.1D スパニングツリープロトコル によるVLANの意味を定義する。このプロトコルは、ネットワーク層レベルのスイッチやルーターを使ったVLAN同士の通信を可能にする。[1]

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VLANは、企業のネットワークが単一の物理ネットワークだったとしても、IT部門がそれを部門毎の論理ネットワークに分離することを可能にする。IT部門は部門毎に一意のVLANを割り当てる。企業のネットワークにあるエッジスイッチは、各部門から部門外に送られる全てのデータフレームに適切なVLANタグを挿入するよう設定される。VLANタグはそのフレームがあて先(同じ部門の物理的に離れた位置にある装置など)に届く前に除去される。このようにすると、ある部門のトラフィックは他の部門からは観測できず、漏洩も発生しない。

フレームフォーマット[編集]

DIX規格のイーサネットフレームへの802.1Qタグの挿入

802.1Qは実際には元のフレームをカプセル化するわけではない。その代わりに送信元MACアドレスのフィールドとイーサタイプ/長さのフィールドの間に32ビットのフィールドを追加する。このVLANタグフィールドは、初めの16ビットが TPID (Tag Protocol Identifier)、次の16ビットは TCI (Tag Control Information) と呼ばれ、次のようなフォーマットである。

16 ビット 3 ビット 1 ビット 12 ビット
TPID TCI
PCP CFI VID
TPID (Tag Protocol Identifier)
IEEE 802.1Q によるタグ付きフレームであることを示すため、0x8100 という値を置く16ビットのフィールド。
PCP (Priority Code Point)
IEEE 802.1p で定義された優先度を指定する3ビットのフィールド。フレームの優先度を0(最低)から7(最高)で示し、各種トラフィック(音声、動画、データなど)の優先順位付けに利用できる。
CFI (Canonical Format Indicator)
1ビットのフィールドで、1であればMACアドレスは正規フォーマットではないことを示す。0であれば、MACアドレスは正規フォーマットである。イーサネットの場合は常に0である。これはイーサネットとトークンリングの相互接続時に使われる。イーサネットポートでCFIが1のフレームを受信した場合、そのフレームはタグ付けされていないポートへはブリッジされない。
VID (VLAN Identifier)
12ビットのフィールドで、そのフレームが属するVLANを指定する。0の場合、どのVLANにも属していないことを意味し、そのような802.1Qタグは単なる優先度タグ (priority tag) として使われていることになる。0xFFFという値は実装で使用するために予約されている。それら以外の全ての値はVLANの識別子として使われるので、最大4094個のVLANを扱える。ブリッジでは、1番 (0x001) を管理用に予約していることが多い。

IEEE 802.2/SNAPによるカプセル化をしたフレームでSNAPヘッダのOUIフィールドが 00-00-00 の場合(SNAPヘッダのプロトコルIDがイーサタイプ)、イーサネット以外のLANの場合であり、SNAPヘッダのイーサタイプ値は0x8100と設定され、802.1Qタグの4バイトはSNAPヘッダの後ろに配置される。

このようにヘッダを挿入するとフレーム全体が変化するので、802.1Qのカプセル化ではFCSフィールドを再計算する必要がある。また、最大フレームサイズも4バイト増加する。

二重タギング[編集]

インターネットサービスプロバイダでは、802.1adで規定された二重タギングが使われることがある。これにより、既にVLANタグの付いたエンドユーザーのトラフィックを混合させつつ、インターネットサービスプロバイダが内部で独自にVLANタグを使用することができる。サービスタグ(S-TAG、外側のタグ、インターネットサービスプロバイダのVLANタグ)を先に置き、カスタマータグ(C-TAG、内側のタグ、エンドユーザーのVLANタグ)をその後に置く。この場合、外側のタグのTPIDには0x9100、0x9200、0x9300といった値を使うことがあるが、802.1adの規定では外側のタグのTPIDには0x88a8を指定することになっている。

DIX規格のイーサネットフレームに 802.1ad 二重タグを挿入

三重タギングも可能である。

Multiple VLAN Registration Protocol[編集]

さらに IEEE 802.1Q では Multiple Registration Protocol (MRP) を応用した Multiple VLAN Registration Protocol (MVRP) を定義している。これにより、ブリッジ群は特定のリンクを使用するVLANの集合について調停することができる。

MVRP は2007年の IEEE 802.1ak-2007 で低速な GARP VLAN Registration Protocol (GVRP) の代替とされた。

マルチプルスパニングツリープロトコル[編集]

2003年版の規格では、従来は IEEE 802.1s で定義されていたマルチプルスパニングツリープロトコル (MSTP) が編入された。

脚注[編集]

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • IEEE Std. 802.1Q-2005, Virtual Bridged Local Area Networks. ISBN 0-7381-3662-X. http://standards.ieee.org/getieee802/download/802.1Q-2005.pdf 
  • ISL & 802.1q Frame Formats