花筏

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花筏(はないかだ)は、上方落語演目の一つ。東京にも移植されている。

概略

あらすじ

提灯屋の徳さん【東京落語では熊さん。以下同様】のところへ知り合いの相撲部屋の親方から呼び出しがかかる。

てっきり仕事の話かと思って行ってみると、話は全く違っていた。

実は親方、播州の高砂下総の銚子】への晴天10日の巡業を請け負っていたのだが、部屋の看板力士である大関の花筏関が急病で寝込んでしまい、命に別条はないものの、とても巡業になどは出られる状態ではないという診断を受けてしまう。

もうすでに手付けを貰ってしまっている以上、いまさら断るわけにもいかなくなった親方、たまたま徳さんが花筏関と容貌がそっくりだというので、偽物を仕立てて巡業をやろうというのである。

確かに容貌はそっくりだが、相撲は取ったことがない徳さん。断ろうとはしたのだが、

  • 病気であることは先方に伝えてあるので、土俵入りだけ務めてくれればいい
  • 引き受けてくれれば徳さんが普段一日で稼ぐ手間賃の倍出そう

と言われて、欲に目がくらんで引き受ける。

今のようにマスコミなんてものがない時代のこと、偽物であることなんか外部の人間にわかるはずもなく、徳さんは日々代役を無事務めていたのだが、現地では何しろ酒肴で接待、当然のことながらご祝儀も出る。これが毎日続いたものだから、徳さんすっかり気が緩んでしまう。

その巡業では、興行の一環として、土地の力自慢が玄人の力士たちに交じって相撲を取っていた。その中で千鳥ヶ浜という素人力士が並み居る玄人力士たちを蹴散らして9戦全勝という好成績を残していたのだが、千秋楽の結びの一番にこの千鳥ヶ浜と花筏関の取組が組まれたのである。

これを聞いた徳さん、話が違うと夜逃げを企てるが、親方から、徳さんが病人であることを忘れて、酒や飯をやたらに飲み食いすることを指摘されたので、「そこは普段の量より少ない」と説明して事なきを得たのだが、よりによって徳さんが前の晩に夜這いを仕掛けていたことを先方から聞かされて言い訳のしようがなくなってしまったと告げられる。

こうなっては自業自得、土俵上で殺される覚悟をした徳さんだったが、親方から「立合い後すぐに両手を出して、相手に触ったなと思ったらそのままひっくり返ってわざと負けろ。そうすれば、病をおして相撲を取ってくれたんだ、と観客は勝手に考えてくれるから、大関の名誉も傷つかず、徳さんの体も無事」というアドバイスを受ける。

一方の千鳥ヶ浜、明日は天下の大関と相撲が取れるんだと喜んでいたのだが、父親から

「今まで勝ってきたのはこっちがご贔屓衆だから手を抜いてくれたからじゃないのか。あちらにも玄人の矜持というものがある。その鬱憤晴らしに明日はお前を土俵の上で殺す気だ。お前はうちの一人息子だから死んでもらっては困る。だから明日は相撲を取るな」

と言われてしまう。

親からそういわれたものの、相撲好きの千鳥ヶ浜、相撲会場へ来てみると親の意見なんかすっかり忘れてしまい、千秋楽結びの一番、呼び出しの声がかかると、土俵の上に上がってしまう。

一方、花筏関に成りすまして土俵に上がり、仕切りをしている徳さん、あとは行司の声に合わせて立ち上がり、親方から言われたとおりにすればいいだけなのだが、変なところで好奇心が沸いてしまい、千鳥ヶ浜がどんな様子なのか上目使いにみてしまう。そして、「大阪【江戸】の大関何するものぞ」とばかりに恐ろしい形相で仕切っている千鳥ヶ浜を見て、恐怖に体が硬直してしまう。

(ああ、倍の手間賃に目が眩んだばかりに俺はこの場で果てるのか、これがこの世の見納めか)

頭の中を今までの人生が走馬灯のように過り、目から涙がポロポロ。思わず「南無阿弥陀仏……」と唱えてしまう。

一方の千鳥ヶ浜、念仏を唱える声が聞こえてきたものだから、「誰がそんな縁起の悪いことを」と耳を澄ませてみると、今相対している花筏関(に成りすました徳さん)だったものだから、途端に前夜の父親の意見を思い出した。

(ああ、親の意見を聞かなかったばっかりに(以下略))

こちらも(以下略)「南無阿弥陀仏……」

行司さん、異様な光景を目の当たりにして、合わせるもへったくれもない。あとは野となれと「ハッケヨイ」

思わず反応した二人。ところが、千鳥ヶ浜も「殺される」と思っているから力が入らない。そこへ徳さんの手が当たったものだから、物の弾みというのは恐ろしいもので、そのまま後ろへズデーンと飛ばされてしまった。

「さすがは大関。張手一発で千鳥ヶ浜を吹っ飛ばした」

張るのは上手いはず。提灯屋の職人だから。