破産財団

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破産財団(はさんざいだん)とは、破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう(破産法第2条第14項)。

  1. 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする(破産法第34条第1項)。
  2. 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する(破産法第34条第2項)。
  3. 次に掲げる財産は、破産財団に属しない(破産法第34条第3項)。
    1. 民事執行法第131条第3号に規定する額(標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭)に二分の三を乗じた額の金銭
    2. 差し押さえることができない財産(民事執行法第131条第3号に規定する金銭を除く。)。ただし、同法第132条第1項(同法第192条において準用する場合を含む。)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。
  4. 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる(破産法第34条第4項)。
  5. 裁判所は、前項の決定をするに当たっては、破産管財人の意見を聴かなければならない(破産法第34条第5項)。
  6. 第4項の申立てを却下する決定に対しては、破産者は、即時抗告をすることができる(破産法第34条第6項)。
  7. 第4項の決定又は前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を破産者及び破産管財人に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定(公告等)は、適用しない(破産法第34条第7項)。
  • 破産手続については、破産を参照。

破産財団の管理、処分

裁判所は、破産手続開始決定と同時に破産管財人を選任(破産法第74条第1項)すると、破産財団に属する財産の管理及び処分する権利は、破産管財人に専属し(破産法第78条第1項)、裁判所の許可を得て任意売却等の処分ができる(破産法第74条第2項)。就職の直後直ちに破産財団に属する財産の管理に着手をしなければならない(破産法第79条)。

破産管財人は、必要がある時は、裁判所の許可を得て、破産管財人代理を選任することができる(破産法第77条)。

破産管財人の権限

破産管財人は、次に掲げる任意売却や営業又は事業の譲渡等を行う時には裁判所の許可を得なければならない(破産法第78条第2項)。

  1. 不動産に関する物権、登記すべき日本船舶又は外国船舶の任意売却
  2. 鉱業権漁業権特許権実用新案権意匠権商標権回路配置利用権育成者権著作権又は著作隣接権の任意売却
  3. 営業又は事業の譲渡
  4. 商品の一括売却
  5. 借財
  6. 第238条第2項の規定による相続の放棄の承認、第243条において準用する同項の規定による包括遺贈の放棄の承認又は第244条第1項の規定による特定遺贈の放棄
  7. 動産の任意売却
  8. 債権又は有価証券の譲渡
  9. 第53条第1項の規定による履行の請求
  10. 訴えの提起
  11. 和解又は仲裁合意(仲裁法第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)
  12. 権利の放棄
  13. 財団債権、取戻権又は別除権の承認
  14. 別除権の目的である財産の受戻し
  15. その他裁判所の指定する行為

但し一定範囲((1)最高裁判所規則で定める額以下の価額を有するものに関するとき。(2)そのほか、裁判所が前項の許可を要しないものとしたものに関するとき。)においては、裁判所の許可を要しない(破産法第78条第3項)。 裁判所は、営業又は事業の譲渡の許可を与える場合には労働組合等の意見を聴かなければならない(破産法第78条第4項)。

弁護士法で弁護士法人が認められたことを受けて、破産管財人は法人でも可能となった(破産法第74条第2項)

破産管財人による調査等

  1. 破産管財人は、第40条第1項各号に掲げる者((1)破産者、(2)破産者の代理人、(3)破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役及び清算人、(4)前号に掲げる者に準ずる者、(5)破産者の従業者((2)掲げる者を除く。))及び同条第2項に規定する者((2)~(4)に掲げる者であった者)に対して同条の規定による説明を求め、又は破産財団に関する帳簿、書類その他の物件を検査することができる(破産法第83条第1項)。
  2. 破産管財人は、その職務を行うため必要があるときは、破産者の子会社等(次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める法人の総社員の議決権の過半数を有する場合における当該株式会社又は有限会社をいう。次項において同じ。)に対して、その業務及び財産の状況につき説明を求め、又はその帳簿、書類その他の物件を検査することができる(破産法第83条第2項)。
    1. 破産者が株式会社である場合 破産者の子会社(会社法第2条第3号に規定する子会社をいう。)
    2. 破産者が株式会社以外のものである場合 破産者が株式会社の総株主の議決権の過半数を有する場合における当該株式会社
  3. 破産者(株式会社以外のものに限る。以下この項において同じ。)の子会社等又は破産者及びその子会社等が他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する場合には、前項の規定の適用については、当該他の株式会社を当該破産者の子会社等とみなす(破産法第83条第3項)。

破産管財人は、遅滞なく、破産財団に属する一切の財産を評価し(破産法153条第1項)、財産目録及び貸借対照表を作成し裁判所に提出しなければならない(破産法153条第2項)。破産財団に属する財産の総額が最高裁判所規則に定める額に満たない場合には、裁判所の許可を得て、財産目録及び貸借対照表を作成・提出をしないことができる(破産法153条第3項)。

否認権の行使

(否認権の行使)

否認権は、訴え、否認の請求又は抗弁によって、破産管財人が行使する(破産法第173条第1項)。

この訴え及び否認の請求事件は、破産裁判所が管轄する(破産法第173条第2項)。

(否認の請求)

否認の請求をするときは、その原因となる事実を疎明しなければならない(破産法第174条第1項)。

否認の請求を認容し、又はこれを棄却する裁判は、理由を付した決定でしなければならない(破産法第174条第2項)。

裁判所は、前項の決定をする場合には、相手方又は転得者を審尋しなければならない(破産法第174条第3項)。

否認の請求を認容する決定があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない(破産法第174条第4項)。

否認の請求の手続は、破産手続が終了したときは、終了する(破産法第174条第5項)。

破産債権者を害する行為の否認

1) 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる(破産法第160条第1項)。
1 故意否認
破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない(破産法第160条第1項第1号)。
2 危機否認
破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない(破産法第160条第1項第2号)。
2) 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる(破産法第160条第2項)。
3) 無償行為の否認
破産者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる(破産法第160条第3項)。

隠匿等の処分の否認

  1. 破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる(破産法第161条第1項)。
    1. 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分(以下この条並びに第168条第2項及び第3項において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること(破産法第161条第2項)。
    2. 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
    3. 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
  2. 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第2号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する(破産法第161条第2項)。
    1. 破産者が法人である場合のその理事取締役執行役監事監査役清算人又はこれらに準ずる者
    2. 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者
    1. 破産者の親族又は同居者

特定の債権者に対する担保の供与等の否認

  1. 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる(破産法第162条第1項)。
    1. 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
    1. 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
  1. 前項第1号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する(破産法第162条第2項)。
    1. 債権者が前条第2項各号に掲げる者のいずれかである場合
    2. 前項第1号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合
  2. 第1項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前一年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する。

(手形債務支払の場合等の例外)

  1. 破産法第162条第1項第1号の規定は、破産者から手形の支払を受けた者がその支払を受けなければ手形上の債務者の一人又は数人に対する手形上の権利を失う場合には、適用しない(破産法第163条第1項)。
  2. この場合において、最終の償還義務者又は手形の振出しを委託した者が振出しの当時支払の停止等があったことを知り、又は過失によって知らなかったときは、破産管財人は、これらの者に破産者が支払った金額を償還させることができる(破産法第163条第2項)。
  3. 破産法第162条第1項の規定は、破産者が租税等の請求権又は罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には、適用しない(破産法第163条第3項)。

(相手方の債権の回復) 第162条第1項に規定する行為が否認された場合において、相手方がその受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、相手方の債権は、これによって原状に復する(破産法第169条)。

権利変動の対抗要件の否認

支払の停止等があった後権利の設定、移転又は変更をもって第三者に対抗するために必要な行為(仮登記又は仮登録を含む。)をした場合において、その行為が権利の設定、移転又は変更があった日から15日を経過した後支払の停止等のあったことを知ってしたものであるときは、破産手続開始後、破産財団のためにこれを否認することができる。ただし、当該仮登記又は仮登録以外の仮登記又は仮登録があった後にこれらに基づいて本登記又は本登録をした場合は、この限りでない(破産法第164条第1項)。
この規定は、権利取得の効力を生ずる登録について準用する(破産法第164条第2項)。
  1. 執行行為の否認
否認権は、否認しようとする行為について執行力のある債務名義があるとき、又はその行為が執行行為に基づくものであるときでも、行使することを妨げない(破産法第165条)。

(支払の停止を要件とする否認の制限) 破産手続開始の申立ての日から一年以上前にした行為(第160条第3項に規定する行為を除く。)は、支払の停止があった後にされたものであること又は支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができない(破産法第166条)。

否認権行使の効果

  1. 否認権の行使は、破産財団を原状に復させる(破産法第167条)。
  2. 第160条第3項に規定する行為が否認された場合において、相手方は、当該行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、その現に受けている利益を償還すれば足りる。

破産者の受けた反対給付に関する相手方の権利等

  1. 第160条第1項(故意否認・危機否認)若しくは第3項(無償行為の否認)又は第161条第1項(隠匿等の処分の否認)に規定する行為が否認されたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる(破産法第168条第1項)。
    1. 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利(破産法第168条第1項第1号)。
    2. 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利(破産法第168条第1項第2号)。
  2. 前項第2号の規定にかかわらず、同号に掲げる場合において、当該行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる(破産法第168条第2項)。
    1. 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の全部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利(破産法第168条第2項第1号)。
    2. 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団中に現存しない場合 破産債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利(破産法第168条第2項第2号)。
    3. 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の一部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利及び破産債権者として反対給付と現存利益との差額の償還を請求する権利(破産法第168条第2項第3号)。
  3. 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が第161条第2項各号に掲げる者(破産法人の理事、取締役,執行役、監事、監査役、清算人、これらに準ずる者、総株主の議決権の過半数を有する者等)のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が前項の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する(破産法第168条第3項)。
  4. 破産管財人は、第160条第1項(故意否認・機器否認)若しくは第3項(無償行為の否認)又は第161条第1項(隠匿等の処分の否認)に規定する行為を否認しようとするときは、破産法第167条第1項の規定により破産財団に復すべき財産の返還に代えて、相手方に対し、当該財産の価額から破産法第168条第3項の規定により財団債権となる額(第1項第1号に掲げる場合にあっては、破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額の償還を請求することができる(破産法第168条第4項)。

転得者に対する否認権

  1. 次に掲げる場合には、否認権は、転得者に対しても、行使することができる(破産法第170条第1項)。
    1. 転得者が転得の当時、それぞれその前者に対する否認の原因のあることを知っていたとき。
    2. 転得者が第百六十一条第二項各号に掲げる者のいずれかであるとき。ただし、転得の当時、それぞれその前者に対する否認の原因のあることを知らなかったときは、この限りでない。
    3. 転得者が無償行為又はこれと同視すべき有償行為によって転得した場合において、それぞれその前者に対して否認の原因があるとき。
  2. 第167条第2項の規定は、前項第三号の規定により否認権の行使があった場合について準用する(破産法第170条第2項)。

否認権のための保全処分

  1. 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間において、否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより又は職権で、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる(破産法第171条第1項)。
  2. 前項の規定による保全処分は、担保を立てさせて、又は立てさせないで命ずることができる(破産法第171条第2項)。
  3. 裁判所は、申立てにより又は職権で、第1項の規定による保全処分を変更し、又は取り消すことができる(破産法第171条第3項)。
  4. 第1項の規定による保全処分及び前項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる(破産法第171条第4項)。
  5. 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない(破産法第171条第5項)。
  6. 第4項に規定する裁判及び同項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない(破産法第171条第6項)。
  7. 前各項の規定は、破産手続開始の申立てを棄却する決定に対して第33条第1項の即時抗告があった場合について準用する(破産法第171条第7項)。

(保全処分に係る手続の続行と担保の取扱い)

  1. 破産法第171条第1項(同条第7項において準用する場合を含む。)の規定による保全処分が命じられた場合において、破産手続開始の決定があったときは、破産管財人は、当該保全処分に係る手続を続行することができる(破産法第172条第1項)。
  2. 破産管財人が破産手続開始の決定後一月以内に前項の規定により同項の保全処分に係る手続を続行しないときは、当該保全処分は、その効力を失う(破産法第172条第2項)。
  3. 破産管財人は、第1項の規定により同項の保全処分に係る手続を続行しようとする場合において、前条第2項(同条第7項において準用する場合を含む。)に規定する担保の全部又は一部が破産財団に属する財産でないときは、その担保の全部又は一部を破産財団に属する財産による担保に変換しなければならない(破産法第172条第3項)。
  4. 民事保全法第18条並びに第二章第四節(第37条第5項から第7項までを除く。)及び第五節の規定は、第1項の規定により破産管財人が続行する手続に係る保全処分について準用する(破産法第172条第4項)。

否認の請求を認容する決定に対する異議の訴え

  1. 否認の請求を認容する決定に不服がある者は、その送達を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる(破産法第175条第1項)。
  2. 前項の訴えは、破産裁判所が管轄する(破産法第175条第2項)。
  3. 第1項の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、同項の決定を認可し、変更し、又は取り消す(破産法第175条第3項)。
  4. 第1項の決定を認可する判決が確定したときは、その決定は、確定判決と同一の効力を有する。同項の訴えが、同項に規定する期間内に提起されなかったとき、又は却下されたときも、同様とする(破産法第175条第4項)。
  5. 第1項の決定を認可し、又は変更する判決については、受訴裁判所は、民事訴訟法第259条第1項の定めるところにより、仮執行の宣言をすることができる(破産法第175条第5項)。
  6. 第1項の訴えに係る訴訟手続は、破産手続が終了したときは、第44条第4項の規定にかかわらず、終了する(破産法第175条第6項)。

否認権行使の期間

否認権は、破産手続開始の日から2年を経過したときは、行使することができない。否認しようとする行為の日から20年を経過したときも、同様である(破産法第176条)。

法人の役員の責任の追及等

破産法第177条〜第183条

役員の財産に対する保全処分

  1. 裁判所は、法人である債務者について破産手続開始の決定があった場合において、必要があると認めるときは、破産管財人の申立てにより又は職権で、当該法人の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者(以下この節において「役員」という。)の責任に基づく損害賠償請求権につき、当該役員の財産に対する保全処分をすることができる(破産法第177条第1項)。
  2. 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間においても、緊急の必要があると認めるときは、債務者(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより又は職権で、前項の規定による保全処分をすることができる(破産法第177条第2項)。
  3. 裁判所は、前2項の規定による保全処分を変更し、又は取り消すことができる(破産法第177条第3項)。
  4. 第1項若しくは第2項の規定による保全処分又は前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる(破産法第177条第4項)。
  5. 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない(破産法第177条第5項)。
  6. 第4項に規定する裁判及び同項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない(破産法第177条第6項)。
  7. 第2項から前項までの規定は、破産手続開始の申立てを棄却する決定に対して第33条第1項の即時抗告があった場合について準用する(破産法第177条第7項)。

役員の責任の査定等

(役員の責任の査定の申立て等)

  1. 裁判所は、法人である債務者について破産手続開始の決定があった場合において、必要があると認めるときは、破産管財人の申立てにより又は職権で、決定で、役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判(以下この節において「役員責任査定決定」という。)をすることができる(破産法第178条第1項)。
  2. 前項の申立てをするときは、その原因となる事実を疎明しなければならない(破産法第178条第2項)。
  3. 裁判所は、職権で役員責任査定決定の手続を開始する場合には、その旨の決定をしなければならない(破産法第178条第3項)。
  4. 第1項の申立て又は前項の決定があったときは、時効の中断に関しては、裁判上の請求があったものとみなす(破産法第178条第4項)。
  5. 役員責任査定決定の手続(役員責任査定決定があった後のものを除く。)は、破産手続が終了したときは、終了する(破産法第178条第5項)。

(役員責任査定決定等)

  1. 役員責任査定決定及び前条第一項の申立てを棄却する決定には、理由を付さなければならない(破産法第179条第1項)。
  2. 裁判所は、前項に規定する裁判をする場合には、役員を審尋しなければならない(破産法第179条第2項)。
  3. 役員責任査定決定があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない(破産法第179条第3項)。

(役員責任査定決定に対する異議の訴え)

  1. 役員責任査定決定に不服がある者は、その送達を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる(破産法第180条第1項)。
  2. 前項の訴えは、破産裁判所が管轄する(破産法第180条第2項)。
  3. 第1項の訴えは、これを提起する者が、役員であるときは破産管財人を、破産管財人であるときは役員を、それぞれ被告としなければならない(破産法第180条第3項)。
  4. 第1項の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、役員責任査定決定を認可し、変更し、又は取り消す(破産法第180条第4項)。
  5. 役員責任査定決定を認可し、又は変更した判決は、強制執行に関しては、給付を命ずる判決と同一の効力を有する(破産法第180条第5項)。
  6. 役員責任査定決定を認可し、又は変更した判決については、受訴裁判所は、民事訴訟法第259条第1項の定めるところにより、仮執行の宣言をすることができる(破産法第180条第6項)。

(役員責任査定決定の効力)

役員責任査定決定に対する異議の訴えが、役員責任査定決定の送達を受けた日から一月の不変期間内に提起されなかったとき、又は却下されたときは、役員責任査定決定は、給付を命ずる確定判決と同一の効力を有する(破産法第181条)。

(社員の出資責任)

会社法第663条の規定(清算持分会社の出資者の出資不足金に対する出資の履行の請求)は、法人である債務者につき破産手続開始の決定があった場合について準用する。この場合において、同条中「当該清算持分会社」とあるのは、「破産管財人」と読み替えるものとする(破産法第182条)。

(匿名組合員の出資責任)

匿名組合契約が営業者が破産手続開始の決定を受けたことによって終了したときは、破産管財人は、匿名組合員に、その負担すべき損失の額を限度として、出資をさせることができる(破産法第183条)。

財団債権

財団債権とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう(破産法第2条第7項)。財団債権を有する債権者を財団債権者という(破産法第2条第8項)。

(財団債権となる請求権)

  1. 次に掲げる請求権は、財団債権とする(破産法第148条第1項)。
    1. 破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(破産法第148条第1項第1号)。
    2. 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(破産法第148条第1項第2号)。
    3. 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(第97条第5号に掲げる請求権(劣後的破産債権)を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの(破産法第148条第1項第3号)。
    4. 破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権(破産法第148条第1項第4号)。
    5. 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(破産法第148条第1項第5号)。
    6. 委任の終了又は代理権の消滅の後、急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権(破産法第148条第1項第6号)。
    7. 第53条第1項の規定(双務契約)により破産管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権(破産法第148条第1項第7号)。
    8. 破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ(第53条第1項又は第2項の規定(双務契約)による賃貸借契約の解除を含む。)があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権(破産法第148条第1項第8号)。
  2. 破産管財人が負担付遺贈の履行を受けたときは、その負担した義務の相手方が有する当該負担の利益を受けるべき請求権は、遺贈の目的の価額を超えない限度において、財団債権とする(破産法第148条第2項)。
  3. 第103条第2項及び第3項の規定は、第1項第7号及び前項に規定する財団債権について準用する。この場合において、当該財団債権が無利息債権又は定期金債権であるときは、当該債権の額は、当該債権が破産債権であるとした場合に第99条第1項第2号から第4号までに掲げる劣後的破産債権となるべき部分に相当する金額を控除した額とする(破産法第148条第3項)。
  4. 保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした行為によって生じた請求権は、財団債権とする(破産法第148条第4項)。

(使用人の給料等)

  1. 破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする(破産法第149条第1項)。
  2. 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前三月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前三月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前三月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする(破産法第149条第2項)。

(社債管理者等の費用及び報酬)

  1. 社債管理者が破産債権である社債の管理に関する事務を行おうとする場合には、裁判所は、破産手続の円滑な進行を図るために必要があると認めるときは、当該社債管理者の当該事務の処理に要する費用の請求権を財団債権とする旨の許可をすることができる(破産法第150条第1項)。
  2. 社債管理者が前項の許可を得ないで破産債権である社債の管理に関する事務を行った場合であっても、裁判所は、当該社債管理者が破産手続の円滑な進行に貢献したと認められるときは、当該事務の処理に要した費用の償還請求権のうちその貢献の程度を考慮して相当と認める額を財団債権とする旨の許可をすることができる(破産法第150条第2項)。
  3. 裁判所は、破産手続開始後の原因に基づいて生じた社債管理者の報酬の請求権のうち相当と認める額を財団債権とする旨の許可をすることができる(破産法第150条第3項)。
  4. 前3項の規定による許可を得た請求権は、財団債権とする(破産法第150条第4項)。
  5. 第1項から第3項までの規定による許可の決定に対しては、即時抗告をすることができる(破産法第150条第5項)。
  6. 前各項の規定は、次の各号に掲げる者の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める債権で破産債権であるものの管理に関する事務につき生ずる費用又は報酬に係る請求権について準用する(破産法第150条第6項)。
    1. 担保付社債信託法第2条第1項に規定する信託契約の受託会社 同項に規定する社債(破産法第150条第6項第1号)。
    2. 投資信託及び投資法人に関する法律第139条の8に規定する投資法人債管理者 同法第2条第24項に規定する投資法人債(破産法第150条第6項第2号)。
    3. 保険業法第61条の6に規定する社債管理者 相互会社が発行する社債(破産法第150条第6項第3号)。
    4. 資産の流動化に関する法律第126条に規定する特定社債管理者 同法第2条第7項に規定する特定社債(破産法第150条第6項第4号)。

(財団債権の取扱い)

財団債権は、破産債権に先立って、弁済する(破産法第151条)。

(破産財団不足の場合の弁済方法等)

  1. 破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合における財団債権は、法令に定める優先権にかかわらず、債権額の割合により弁済する。ただし、財団債権を被担保債権とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権の効力を妨げない(破産法第152条第1項)。
  2. 前項の規定にかかわらず、同項本文に規定する場合における第148条第1項第1号及び第2号に掲げる財団債権(債務者の財産の管理及び換価に関する費用の請求権であって、同条第4項に規定するもの(保全管理人が権限に基づいてした行為により生じた請求権)を含む。)は、他の財団債権に先立って、弁済する(破産法第152条第2項)。

取戻権

破産手続の開始は、破産者に属しない財産を破産財団より取り戻す権利(取戻権)に影響を及ぼさない(破産法62条)。

破産管財人は、裁判所の許可を得て取戻権を承認する(破産法78条)。

(運送中の物品の売主等の取戻権)

  1. 売主が売買の目的である物品を買主に発送した場合において、買主がまだ代金の全額を弁済せず、かつ、到達地でその物品を受け取らない間に買主について破産手続開始の決定があったときは、売主は、その物品を取り戻すことができる。ただし、破産管財人が代金の全額を支払ってその物品の引渡しを請求することを妨げない(破産法63条第1項)。
  2. この規定は、第53条第1項及び第2項の規定(双務契約)の適用を妨げない(破産法63条第2項)。
  3. この規定は、物品の買入れの委託を受けた問屋がその物品を委託者に発送した場合について準用する。この場合において、同項中「代金」とあるのは、「報酬及び費用」と読み替えるものとする(破産法63条第3項)。

(代償的取戻権)

  1. 破産者(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)が破産手続開始前に取戻権の目的である財産を譲り渡した場合には、当該財産について取戻権を有する者は、反対給付の請求権の移転を請求することができる。破産管財人が取戻権の目的である財産を譲り渡した場合も、同様とする(破産法64条第1項)。
  2. この場合において、破産管財人が反対給付を受けたときは、取戻権者は、破産管財人が反対給付として受けた財産の給付を請求することができる(破産法64条第2項)。

破産財団の換価

不動産に関する物権、登記すべき日本船舶及び外国船舶、鉱業権漁業権特許権実用新案権意匠権商標権回路配置利用権育成者権著作権又は著作隣接権(不動産等)の換価は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定により、これをなす(破産法184条第1項)。

担保権の消滅

破産法第186条〜第191条

(担保権消滅の許可の申立て)

  1. 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき担保権(特別の先取特権質権抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいう。以下この節において同じ。)が存する場合において、当該財産を任意に売却して当該担保権を消滅させることが破産債権者の一般の利益に適合するときは、破産管財人は、裁判所に対し、当該財産を任意に売却し、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める額に相当する金銭が裁判所に納付されることにより当該財産につき存するすべての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができる。ただし、当該担保権を有する者の利益を不当に害することとなると認められるときは、この限りでない(破産法第186条第1項)。
    1. 破産管財人が、売却によってその相手方から取得することができる金銭(売買契約の締結及び履行のために要する費用のうち破産財団から現に支出し又は将来支出すべき実費の額並びに当該財産の譲渡に課されるべき消費税額等(当該消費税額及びこれを課税標準として課されるべき地方消費税額をいう。以下この節において同じ。)に相当する額であって、当該売買契約において相手方の負担とされるものに相当する金銭を除く。以下この節において「売得金」という。)の一部を破産財団に組み入れようとする場合 売得金の額から破産財団に組み入れようとする金銭(以下この節において「組入金」という。)の額を控除した額(破産法第186条第1項第1号)。
    2. これ以外の場合 売得金の額(破産法第186条第1項第2号)。
  2. 破産法第186条第1項に掲げる場合には、担保権消滅の許可の申立てをしようとする破産管財人は、組入金の額について、あらかじめ、当該担保権を有する者と協議しなければならない(破産法第186条第2項)。
  3. 担保権消滅の許可の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面(以下この節において「申立書」という。)でしなければならない(破産法第186条第2項)。
    1. 担保権の目的である財産の表示
    2. 売得金の額(前号の財産が複数あるときは、売得金の額及びその各財産ごとの内訳の額)
    3. 第1号の財産の売却の相手方の氏名又は名称
    4. 消滅すべき担保権の表示
    5. 前号の担保権によって担保される債権の額
    6. 第1項第1号に掲げる場合には、組入金の額(第1号の財産が複数あるときは、組入金の額及びその各財産ごとの内訳の額)
    7. 前項の規定による協議の内容及びその経過
  4. 申立書には、前項第一号の財産の売却に係る売買契約の内容(売買契約の締結及び履行のために要する費用のうち破産財団から現に支出し又は将来支出すべき実費の額並びに当該財産の譲渡に課されるべき消費税額等に相当する額であって、当該売買契約において相手方の負担とされるものを含む。)を記載した書面を添付しなければならない。
  5. 担保権消滅の許可の申立てがあった場合には、申立書及び前項の書面を、当該申立書に記載された被申立担保権者に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない(破産法第186条第5項)。

(担保権の実行の申立て)

  1. 被申立担保権者は、担保権消滅の許可の申立てにつき異議があるときは、同条第5項の規定によりすべての被申立担保権者に申立書及び同条第四項の書面の送達がされた日から一月以内に、担保権の実行の申立てをしたことを証する書面を裁判所に提出することができる(破産法第187条第1項)。
  2. 裁判所は、被申立担保権者につきやむを得ない事由がある場合に限り、当該被申立担保権者の申立てにより、前項の期間を伸長することができる(破産法第187条第1項)。
  3. 破産管財人と被申立担保権者との間に売得金及び組入金の額(破産法第186条第1項第2号に掲げる場合にあっては、売得金の額)について合意がある場合には、当該被申立担保権者は、担保権の実行の申立てをすることができない(破産法第187条第3項)。
  4. 被申立担保権者は、第1項の期間(第2項の規定により伸長されたときは、その伸長された期間。以下この節において同じ。)が経過した後は、第190条第6項の規定により第189条第1項の許可の決定が取り消され、又は同項の不許可の決定が確定した場合を除き、担保権の実行の申立てをすることができない(破産法第187条第4項)。
  5. 第1項の担保権の実行の申立てをしたことを証する書面が提出された後に、当該担保権の実行の申立てが取り下げられ、又は却下された場合には、当該書面は提出されなかったものとみなす。民事執行法第188条において準用する同法第63条又は同法第192条において準用する同法第129条(これらの規定を同法その他強制執行の手続に関する法令において準用する場合を含む。)の規定により同項の担保権の実行の手続が取り消された場合も、同様とする(破産法第187条第5項)。
  6. 第189条第1項の不許可の決定が確定した後に、第1項の担保権の実行の申立てが取り下げられ、又は却下された場合において、破産管財人が前条第1項の申立てをしたときは、当該担保権の実行の申立てをした被申立担保権者は、第1項の規定にかかわらず、同項の担保権の実行の申立てをしたことを証する書面を提出することができない(破産法第187条第6項)。

(買受けの申出)

  1. 被申立担保権者は、担保権消滅の許可の申立てにつき異議があるときは、破産法第187条第1項の期間内に、破産管財人に対し、当該被申立担保権者又は他の者が保権の目的である財産を買い受ける旨の申出(以下この節において「買受けの申出」という。)をすることができる(破産法第188条第1項)。
  2. 買受けの申出は、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならない(破産法第188条第2項)。
    1. 担保権の目的である財産を買い受けようとする者(以下この節において「買受希望者」という。)の氏名又は名称
    2. 破産管財人が担保権の目的である財産の売却によって買受希望者から取得することができる金銭の額(売買契約の締結及び履行のために要する費用のうち破産財団から現に支出し又は将来支出すべき実費の額並びに当該財産の譲渡に課されるべき消費税額等に相当する額であって、当該売買契約において買受希望者の負担とされるものに相当する金銭を除く。以下この節において「買受けの申出の額」という。)
    3. 担保権の目的である財産が複数あるときは、買受けの申出の額の各財産ごとの内訳の額
  3. 買受けの申出の額は、申立書に記載された売得金の額にその20分の1に相当する額を加えた額以上でなければならない(破産法第188条第3項)。
  4. 担保権の目的である財産が複数あるときは、買受けの申出の額の各財産ごとの内訳の額は、当該各財産につき、売得金の額の各財産ごとの内訳の額を下回ってはならない(破産法第188条第4項)。
  5. 買受希望者は、買受けの申出に際し、最高裁判所規則で定める額及び方法による保証を破産管財人に提供しなければならない(破産法第188条第5項)。
  6. 破産法第187条第3項の規定は、買受けの申出について準用する(破産法第188条第6項)。
  7. 買受けの申出をした者(その者以外の者が買受希望者である場合にあっては、当該買受希望者)は、破産法第187条第1項の期間内は、当該買受けの申出を撤回することができる(破産法第188条第7項)。
  8. 破産管財人は、買受けの申出があったときは、破産法第187条第1項の期間が経過した後、裁判所に対し、第186条第3項第1号の財産を買受希望者に売却する旨の届出をしなければならない。この場合において、買受けの申出が複数あったときは、最高の買受けの申出の額に係る買受希望者(最高の買受けの申出の額に係る買受けの申出が複数あった場合にあっては、そのうち最も先にされたものに係る買受希望者)に売却する旨の届出をしなければならない(破産法第188条第8項)。
  9. 前項の場合においては、破産管財人は、破産法第187条第1項の期間内にされた買受けの申出に係る第2項の書面を裁判所に提出しなければならない(破産法第188条第9項)。
  10. 買受けの申出があったときは、破産管財人は、担保権消滅の許可の申立てを取り下げるには、買受希望者(破産法第189条第1項の許可の決定が確定した後にあっては、同条第2項に規定する買受人)の同意を得なければならない(破産法第188条第10項)。

(担保権消滅の許可の決定等)

  1. 裁判所は、被申立担保権者が第187条第1項の期間内に同項の担保権の実行の申立てをしたことを証する書面を提出したことにより不許可の決定をする場合を除き、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を当該許可に係る売却の相手方とする第186条第1項の許可の決定をしなければならない(破産法第189条第1項)。
    1. 破産法第188条第8項に規定する届出がされなかった場合 第百八十六条第三項第三号の売却の相手方
    2. 破産法第188条第8項に規定する届出がされた場合 同項に規定する買受希望者
  2. 前項第2号に掲げる場合において、同項の許可の決定が確定したときは、破産管財人と当該許可に係る同号に定める買受希望者(以下この節において「買受人」という。)との間で、第186条第4項の書面に記載された内容と同一の内容(売却の相手方を除く。)の売買契約が締結されたものとみなす。この場合においては、買受けの申出の額を売買契約の売得金の額とみなす(破産法第189条第2項)。
  3. 担保権消滅の許可の申立てについての裁判があった場合には、その裁判が確定するまでの間、買受希望者(第1項第2号に定める買受希望者を除く。)は、当該買受希望者に係る買受けの申出を撤回することができる(破産法第189条第3項)。
  4. 担保権消滅の許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる(破産法第189条第4項)。
  5. 担保権消滅の許可の申立てについての裁判又は前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない(破産法第189条第3項)。

(金銭の納付等)

  1. 担保権消滅の許可の決定が確定したときは、当該許可に係る売却の相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める額に相当する金銭を裁判所の定める期限までに裁判所に納付しなければならない(破産法第190条第1項)。
    1. 破産法第189条第1項第1号に掲げる場合 第186条第1項各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める額
    2. 破産法第189条第1項第2号に掲げる場合 同条第2項後段に規定する売得金の額から第188条第5項の規定により買受人が提供した保証の額を控除した額
  2. 前項第2号の規定による金銭の納付があったときは、第188条第5項の規定により買受人が供した保証の額に相当する金銭は、売得金に充てる(破産法第190条第2項)。
  3. 前項の場合には、破産管財人は、同項の保証の額に相当する金銭を直ちに裁判所に納付しなければならない(破産法第190条第3項)。
  4. 被申立担保権者の有する担保権は、第一項第一号の場合にあっては同号の規定による金銭の納付があった時に、同項第二号の場合にあっては同号の規定による金銭の納付及び前項の規定による金銭の納付があった時に、それぞれ消滅する(破産法第190条第4項)。
  5. 前項に規定する金銭の納付があったときは、裁判所書記官は、消滅した担保権に係る登記又は登録の抹消を嘱託しなければならない(破産法第190条第5項)。
  6. 第1項の規定による金銭の納付がなかったときは、裁判所は、前条第一項の許可の決定を取り消さなければならない(破産法第190条第6項)。
  7. 前項の場合には、買受人は、第2項の保証の返還を請求することができない(破産法第190条第7項)。

(配当等の実施)

  1. 裁判所は、破産法第190条第4項に規定する金銭の納付があった場合には、次項に規定する場合を除き、当該金銭の被申立担保権者に対する配当に係る配当表に基づいて、その配当を実施しなければならない(破産法第191条第1項)。
  2. 被申立担保権者が一人である場合又は被申立担保権者が二人以上であって破産法第190条第4項に規定する金銭で各被申立担保権者の有する担保権によって担保される債権を弁済することができる場合には、裁判所は、当該金銭の交付計算書を作成して、被申立担保権者に弁済金を交付し、剰余金を破産管財人に交付する(破産法第191条第2項)。
  3. 民事執行法第85条及び第88条から第92条までの規定は第1項の配当の手続について、同法第88条、第91条及び第92条の規定は前項の規定による弁済金の交付の手続について準用する(破産法第191条第3項)。

商事留置権の消滅

  1. 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき商法又は会社法の規定による留置権(商事留置権)がある場合において、当該財産が第36条の規定により継続されている事業に必要なものであるとき、その他当該財産の回復が破産財団の価値の維持又は増加に資するときは、破産管財人は、留置権者に対して、当該留置権の消滅を請求することができる(破産法第192条第1項)。
  2. 前項の規定による請求をするには、同項の財産の価額に相当する金銭を、同項の留置権者に弁済しなければならない(破産法第192条第2項)。
  3. 第1項の規定による請求及び前項に規定する弁済をするには、裁判所の許可を得なければならない(破産法第192条第3項)。
  4. 前項の許可があった場合における第2項に規定する弁済の額が第1項の財産の価額を満たすときは、当該弁済の時又は同項の規定による請求の時のいずれか遅い時に、同項の留置権は消滅する(破産法第192条第4項)。
  5. 前項の規定により第1項の留置権が消滅したことを原因とする同項の財産の返還を求める訴訟においては、第2項に規定する弁済の額が当該財産の価額を満たさない場合においても、原告の申立てがあり、当該訴訟の受訴裁判所が相当と認めるときは、当該受訴裁判所は、相当の期間内に不足額を弁済することを条件として、第1項の留置権者に対して、当該財産を返還することを命ずることができる(破産法第192条第5項)。

別除権

別除権は、破産手続によらないでこれを行うことができる(破産法第95条65条第1項)。つまり、別除権の行使は、破産手続きの開始の影響を受けない。

破産財団に属する財産の上に存する特別の先取特権質権又は抵当権を有する者は、その担保権の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する(破産法第65条第2項)。

(留置権の取扱い)

  1. 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する商法又は会社法の規定による留置権(商事留置権)は、破産財団に対しては特別の先取特権とみなす(破産法第66条第1項)。
  2. この商事留置権は、民法その他の法律の規定による他の特別の先取特権に後れる(破産法第66条第2項)。
  3. 商事留置権を除き、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する留置権は、破産財団に対してはその効力を失う(破産法第66条第3項)。

(別除権者等の破産手続参加)

  1. 別除権者は、当該別除権に係る第65条第2項に規定する担保権によって担保される債権については、その別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の額についてのみ、破産債権者としてその権利を行使することができる。ただし、当該担保権によって担保される債権の全部又は一部が破産手続開始後に担保されないこととなった場合(破産管財人との破産財団(別除権)の任意処分、別除権の放棄など)には、その債権の当該全部又は一部の額について、破産債権者としてその権利を行使することを妨げない(破産法第108条第1項)。
  2. 破産財団に属しない破産者の財産につき特別の先取特権、質権若しくは抵当権を有する者又は破産者につき更に破産手続開始の決定があった場合における前の破産手続において破産債権を有する者も、前項と同様とする(破産法第108条第1項)。

関連項目