ポリアセチレン

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トランス型とシス型ポリアセチレン

ポリアセチレン (polyacetylene) とは、アセチレンからなる共役系高分子である。共役ポリエン系を持ち、ヨウ素などの電子受容体をドープすると大きな電気伝導性を示すことが知られている。

白川英樹が導電性ポリアセチレンを発見し、2000年ノーベル化学賞を受賞した。

性質

ポリアセチレンは炭素と水素の各1原子を基本構成単位とする最も単純な1次元共役系高分子であり、ポリエン構造をもつため (CH)n と表記される。ポリエン化合物は古くから量子化学や有機化学の分野で理論的に電気的性質に関わる予測がなされていたが、その当時に合成されたポリエン化合物はその共役数が数十と非常に短く、通常の飽和炭化水素化合物に比べると電気伝導度は高いが、電気的に特異な性質は現れなかった。

トランス-ポリアセチレンの構造

研究の歴史

非常に共役数の長いポリエン化合物として、1958年にジュリオ・ナッタらがチーグラー・ナッタ触媒アセチレンを重合させ、黒色の不溶・不融な粉末としてポリアセチレンの合成に成功した。その後、旗野らの研究によりこのポリアセチレンは長い共役2重結合を導電経路とした電気伝導が行われる典型的な有機半導体の1つであることが明らかにされたが、不溶・不融の粉末であったため高分子の基本的な性質である分子量を測定することができず、また期待された特異な電気的・光学的な性質も十分に測定できなかった。

しかし1967年東京工業大学の池田研究室に在籍していた韓国原子力研究所からの留学生・邊衡直(ピョンヒョンチク)が触媒の濃度を「m」の文字に気づかず1000倍にするという失敗が元となり[1]、白川英樹らが従来より濃厚なチーグラー・ナッタ触媒の界面にてアセチレン重合を行うことで薄膜状のポリアセチレンを得ることに成功し、その構造と性質について詳細な研究を行ってきた(失敗が新発見を呼んだ例となった)。さらに、1977年に白川らはポリアセチレンにヨウ素などの電子受容体(アクセプター)やアルカリ金属などの電子供与体(ドナー)を ドーピングすることで、102 S/cm と金属に匹敵する電気伝導度を示すことを見出した。これにより、導電性高分子の道が拓かれた。この時、流れる電流は微量だ、と予想して、当時、最も微量な電流が計測できる非常に高価な電流計を購入し実験に使ったが、予想以上の電流が流れたために壊れてしまい(この時の様子を白川英樹が言うには、記録を取っていた助手が慌てているところに白川が部屋に入ってきて「どうしたの?」と訊ねて助手が気をそちらに取られた瞬間、電流計が爆発音と共に白煙を上げた)、白川の共同研究者の第一声は「なんて事をしてくれたんだ!!」と、電流計が壊れた事に対し日本語で罵声を上げた、という[2]。(それくらいポリアセチレンは電流計を爆破させるほど抵抗が低い)

欠点

ポリアセチレンは、空気中では水分などと反応して徐々に導電性を失うため、現在ではこの弱点を改良したポリアセンポリピロールなどの導電性高分子が実用化され、携帯電話の電池などに使われている。

関連項目

参考文献

  1. ^ 白川英樹『化学に魅せられて』岩波新書
  2. ^ サイエンスアイ

外部リンク