アルマイト

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アルマイト処理の「やかん

アルマイト: alumite or anodizealmite[1])は、アルミニウム表面に陽極酸化皮膜を作る処理である。人工的にアルミニウム表面に分厚い酸化アルミニウム被膜を作る事によって、アルミニウムの耐食性、耐摩耗性の向上、および、装飾その他の機能の付加を目的として行なわれる。

1929年に理化学研究所植木栄らが発明し、特許を取得したアルミニウムの蓚酸法陽極酸化皮膜を、それを引き継いだ理化学研究所の宮田聡が「アルマイト」(当時は登録商標)と命名したのが由来で、現在ではアルミニウムの陽極酸化皮膜の一般名称として用いられる。陽極酸化とは、対象となる材料の表面を陽極として、主に強酸中で電解によりバルブ金属の表面を酸化させる処理を指す。アルマイトはアルミニウムの代表的な表面処理方法である。日本工業規格としてはJIS H8601「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜」(ISO7599対応)、JIS H8603「アルミニウム及びアルミニウム合金の硬質陽極酸化皮膜」(ISO10074対応)及びJIS H0202「アルミニウム表面処理用語」(ISO7583対応)がある。

英語での陽極酸化は anodizing、陽極酸化皮膜は anodic oxide coatings[2]というが、正式には「anodic oxidation coatings on aluminum」である。

技術

希硫酸シュウ酸(蓚酸)などを処理浴に用いて、アルミニウムを陽極として電気分解することにより、アルミニウムの表面を電気化学的に酸化させ、酸化アルミニウムAl2O3(アルミナとも言う)の皮膜を生成させる。ホウ酸など、酸化アルミニウムの溶解力の低い酸を用いてバリヤー皮膜と言う数十nm〜数百nmの薄い酸化層を形成する技法もあるが、蜂の巣状に溶解する孔(ポアという)を作って数μmから数十μmの多孔質皮膜を形成した後、沸騰水または酢酸ニッケルなどの高温水溶液、加圧水蒸気により水和する事でβアルミナ化し、孔壁を水和膨張させて孔を封じ(封孔処理という)、耐食性を向上させる技法が一般的に用いられている。封孔処理には、化学反応による不活性化、高分子などにより孔を埋める様な技法もある。

多孔質皮膜の特性を利用して、ポーラス(多孔質体)に金属塩や有機染料などを吸着させて着色することも可能である。また、ポーラス内に電気化学的に金属などを析出させて着色する二次電解、三次電解と言うカラーアルマイトもある。アルミサッシなど、腐食環境で使用される部材においては、一般的に封孔処理しない状態で電着塗装を施した「陽極酸化塗装複合皮膜」(JIS H8602参照)が用いられている。 着色と同様にポーラスに固体潤滑剤PTFE二硫化モリブデンなど)を含浸や析出させる事で潤滑性、耐摩耗性その他の性能を付加する事も出来る。

現在、アルマイトの電解液には硫酸を用いるのが主流であるが、蓚酸などの有機酸やクロム酸、リン酸などが使われることもある。ホウ酸浴などで比較的厚いバリヤー皮膜は、絶縁被膜としてコンデンサーなどに利用されている例がある。

特別な処理条件により得られた、硬く厚い皮膜は「硬質アルマイト」と呼ばれる(JIS H8603「アルミニウム及びアルミニウム合金の硬質陽極酸化皮膜」に規定されている)。

1929年に理化学研究所で開発された。当時アルマイトは登録商標(商品名)であり、理化学研究所で開発された方法により生成された蓚酸法陽極酸化皮膜のみに限定されていたが、現在は「アルミニウムの陽極酸化皮膜」の総称として使用されている。

利用

酸化アルミニウムは非常に硬質であり耐久性に優れるが、強酸や強アルカリに対しては溶解したり腐食する場合がある。また、アルミニウムはイオン化傾向が高い金属であるため、安定な酸化物であるとしても、海水や醤油(食塩などの電解質)に曝される場合、または、鉄や銅などの金属に湿潤状態で接触すると腐食しやすい。

アルマイトを利用した家庭用製品には弁当箱、やかん、鍋などがある。特に幼児用の弁当箱としてプラスチックより耐久性に優れ、スーパー戦隊シリーズ仮面ライダーシリーズプリキュアシリーズ等の印刷されたものが根強く人気である。その他アルミニウム製の建材、電車や航空機の内装品、自動車部品、光学部品、半導体部品、各種のネームプレートや化粧板などに幅広く用いられている。

関連項目

脚注

  1. ^ 理化学研究所による表記。
  2. ^ または film、layer

外部リンク