超電荷
素粒子物理学におけるフレーバー |
---|
フレーバー量子数 |
関連量子数 |
組合せ |
フレーバー混合 |
超電荷 (ちょうでんか, hypercharge) Yは、素粒子の強い相互作用に関係する量子数である。 なお、物理学者は日本語訳の「超電荷」では呼ぶことは殆どなく、英語名のまま「ハイパーチャージ」と呼ぶ。
概要
素粒子物理学における超電荷は、ワインバーグ=サラム理論(あるいはそれを含む標準模型)において、ゲージ群の U(1) 成分に対応する量子数である。標準模型では U(1) のアノマリーが、クォークとレプトンで相殺されている。これは標準模型の枠内では全くの偶然であり、理論がより大きな対称性に埋め込まれている可能性を示唆しており、大統一理論の根拠の1つである。
電弱相互作用において類似する役割を持つ弱超電荷との混同に注意が必要である。超電荷の概念は、アイソスピンおよびフレーバーを単一のチャージに組合わせ統一する。
定義
超電荷は、SU(3)モデルの強い相互作用に関係する量子数である。アイソスピンはSU(2)モデルにおいて定義され、超電荷はSU(3)モデルにおいて定義される。
SU(3)ウェイトダイアグラムは、二つの量子数、アイソスピンのz-成分Izおよび超電荷Y(ストレンジネスS、チャームC、ボトムネスB′、トップネスT、およびバリオン数Bの和)を参照する二次元座標である。(en:Hypercharge#SU(3) model in relation to hyperchargeを参照)
超電荷は次の数式で表すことができる:
超電荷が保存するということは、フレーバーが保存することを示唆する。強い相互作用は超電荷を保存するが、弱い相互作用は保存しない。
電荷およびアイソスピンとの関係
中野・西島・ゲルマンの法則は、電荷とアイソスピンおよび超電荷の関係を次の数式で表す:
ここで、I3はアイソスピンの第三成分でQは粒子の電荷である。
また、超電荷は次の関係に縮尺されることもある:
アイソスピンは粒子の多重項を生成する。その平均電荷と超電荷の関係は、次の数式で表すことができる:
超電荷は多重項の全てのメンバーにとって同じであるため、I3の値の平均は0である。
計算の具体例
- 陽子の電荷はQ = +1であり、中性子の電荷はQ = 0である。(すなわち、核子の平均電荷は+1/2である。)これらのバリオン数はB = +1、フレーバーはS = C = B′ = T = 0であることから、超電荷はともにY = 1である。中野・西島・ゲルマンの法則から、陽子のアイソスピンはI3 = +1/2、中性子のアイソスピンはI3 = −1/2であることが分かる。
- クオークについても同様にアイソスピンおよび超電荷を計算できる。電荷Q = +2/3、アイソスピンI3 = +1/2、およびバリオン数B = 1/3であるアップクォークの超電荷はY = 1/3であることが推定できる。(バリオンを構成するには3つのクォークが必要なため、クォークのバリオン数は1/3である。)
- 電荷Q = −1/3、バリオン数B = 1/3、ストレンジネスS = −1のストレンジクォークの超電荷はY = −2/3であり、アイソスピンI3 = 0が推定される。これは、ストレンジクォークはそれ自身の一重項を作ることを意味する。チャームクォーク、ボトムクォークおよびトップクォークも同様だが、アップおよびダウンクォークはアイソスピン二重項を構成する。
超電荷の実用性
超電荷は、"粒子の動物園"における粒子の集団を組織し、それらの観測に基づいた保存則を開発するために、1960年代に発展した概念である。クォークモデルの登場によって、(標準模型の六つのクォークのうちアップ、ダウンおよびストレンジクォークだけを考慮した場合)超電荷Yはアップ (nu) 、ダウン (nd)、およびストレンジクォーク (ns)の数の組合わせで、以下のように表せることが明らかとなった:
現在は、ハドロンの相互作用を記述する場合、量子数の超電荷を計算するよりも、相互作用するバリオンおよび中間子を構成する個々のクォークをたどるファインマンダイアグラムを描くようになってきている。しかしながら、弱超電荷は電弱相互作用のさまざまな理論において実用的に使うことができる。
関連項目
脚注
- Henry Semat, John R. Albright (1984). Introduction to atomic and nuclear physics. Chapman and Hall. ISBN 0-412-15670-9