「ジャンクDNA」の版間の差分

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今のところ、これらの全てあるいは部分的にはかなり信頼できる。ジャンクDNAの多くの部分は遺伝子調節において重要な機能を持っているらしく、例えばヒトの場合、転写されたDNAのわずか2%の部分だけが蛋白質に翻訳される。したがって、ゲノムレベルにおける遺伝子の機能に関する、時代遅れの誤った認識を与える'ジャンクDNA'という用語は使用が避けられるべきものであり、'非蛋白質コードDNA'([[noncoding DNA]])のようなより正確な用語の使用が好まれる。 真の'ジャンクDNA'の領域では変異がランダムに発生し、その発生数も比較的多いだろうと予想されるため、種間での比較によってそれらの領域を識別することができる。
今のところ、これらの全てあるいは部分的にはかなり信頼できる。ジャンクDNAの多くの部分は遺伝子調節において重要な機能を持っているらしく、例えばヒトの場合、転写されたDNAのわずか2%の部分だけが蛋白質に翻訳される。したがって、ゲノムレベルにおける遺伝子の機能に関する、時代遅れの誤った認識を与える'ジャンクDNA'という用語は使用が避けられるべきものであり、'非蛋白質コードDNA'([[noncoding DNA]])のようなより正確な用語の使用が好まれる。 真の'ジャンクDNA'の領域では変異がランダムに発生し、その発生数も比較的多いだろうと予想されるため、種間での比較によってそれらの領域を識別することができる。


ジャンクDNAがかなりの割合を占めるとする仮定 - 例えばヒトにおける'97%'という値 - は進化論とは決して調和しえない、という事にはには注意が必要である。細胞分裂の度に行われるこのような多量に含まれる無用の情報の複製は、役に立たないヌクレオシド作成のた多くのエネルギーが浪費されることにつながり、生命にとっては重荷となるだろう。そのため、進化論における時間のスケールの上において、自然選択における懲罰的な損失を被る事なく利用可能なエネルギーおよび物質量を維持できるような水準に、削除的な変異による'ジャンク'配列の除去によってその量が削減されなければならない。本当に'ジャンクDNA'配列が存在しているという(現在では想定されたほど一般的とは考えられていない)事実はポピュラーな科学では一般的に考えられている、よりエネルギーを維持するような[[自然選択説|自然選択]]の要求はそれほど厳しくないことを示唆している。
進化に関連してひとつ言及しておくべきことがある。ジャンクDNAがかなりの割合を占めるとする仮定 - 例えばヒトにおける'97%'という値 - は進化論とは決して調和しえない、という事である。ジャンクDNAの複製は情報保存観点から言えば無駄な行為である。しがってジャンクDNAの割合が高いということは多くのエネルギーが浪費されることを意味し、生命にとっては重荷となるだろう。そのため、進化論における時間のスケールの上において、自然選択における懲罰的な損失を被る事なく利用可能なエネルギーおよび物質量を維持できるような水準に、削除的な変異による'ジャンク'配列の除去によってその量が削減されなければならない。本当に'ジャンクDNA'配列が存在しているという考えは、現在では想定されたときほど一般的な支持を得ているわけではない、一般的支持を得ている科学的進化論おいて通常考えられる、よりエネルギーを維持するような[[自然選択説|自然選択]]の要求はそれほど厳しくないことを示唆している。


== 外部リンク ==
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2005年10月20日 (木) 12:28時点における版

ジャンクDNA(Junk DNA)とは、染色体あるいはゲノムにおける機能がまったく特定されていないようなDNAの領域のこと。分子生物学というのはまだ非常に若い学問であり、特に、このような機能の認められていないDNAの領域も、まだ発見されていないような手順で機能しているのかもしれない、という観点から、ジャンクという言葉は呼び誤りであると認識されている。実際、2005年現在、新しい研究において、ジャンクDNAがまだ確認されていない機能を果たしているかもしれない、ということが示されている(追記参照)。

ほとんどの植物のゲノムにおいては、DNAのほとんどの部分において生物学的な役割が分かっていない。生物学者は、遺伝子がコード化している蛋白質に関する情報が不完全な時でも、その遺伝子の存在する染色体の領域をオープンリーディングフレーム(Open Reading Frame; ORF、実際にアミノ酸配列として翻訳される領域のこと)として識別することが可能であり、また、ゲノムを扱う科学者は、このような領域がどのように機能するか知らないときでも、それが重要であると仮定することが合理的であると認識している。また、非蛋白質コード領域のDNA配列も重要なことが知られている。この中には、DNA複製の開始点として定義される複製起点、あるいはプロモーターエンハンサーサイレンサーといった遺伝子の発現を制御する塩基配列の領域が含まれている。

ヒトゲノムのおよそ97%は"ジャンク"であることが示されている。玉葱のゲノムは人間のものの12倍のサイズがあり、おそらくより多くの"ジャンク"をふくんでいると考えられる。また、これとは対照的にトラフグ(Fugu rubripes)のゲノムは人間のものの1/10程度のサイズしかないが、ゲノムの1/3に有効な遺伝子がコード化されており、ほぼ同数の遺伝子をもっていると考えられている。このように、DNAのうち機能を持っている領域と"ジャンク"な領域の比率は種によって著しく違うようである。

  • 追記

2005年理化学研究所を中心とする国際研究グループはマウスの細胞内のトランスクリプトーム分析を行い、トランスクリプトームで合成される44,147種類のRNA中、53%に相当する23,218種類が蛋白質合成に関与しないものであること、蛋白質合成をおこなうコード配列であるセンスRNAの発現は蛋白質合成を行わないアンチセンスRNA(センスDNAと相補関係にある)によって制御されていることを突き止めた。
この発見により、ジャンクDNAは実際には機能していることが分かり、従来のDNA観、ゲノム観を大きく転換する契機となると期待されている。

起原と機能に関する仮説

ジャンクDNAが形成され、それがゲノムの中で維持されてきた理由に関して、多くの理論が存在する。例えば、

  • これらの染色体領域は進化の過程で断片化し破棄された、時に偽遺伝子として知られる無効となった遺伝子の集合である。関連する仮説に対する証拠として、ジャンクは働かなくなったウイルスの蓄積されたDNAである事が示されている。
  • ジャンクDNAは遺伝子の損傷と有害な変異に対する保護的な緩衝領域としてはたらく。実際、DNAのほとんどの部分が代謝や成育といった過程に無関係な部分となっており、ヌクレオチド配列に対する単一の、ランダムな損傷が生命に影響することはほとんど起こらない。
  • ジャンクDNAは、潜在的に有利な新しい遺伝子として発現しうる配列の貯蔵庫を供給する。
  • 生物の胎児から成体までの成長に伴って、ジャンクDNAはメタDNA(meta-DNA、変化したDNA)としての役割を果たす。最近得られた成果では、ジャンクDNAの高度に保存された領域が全ての脊椎動物に共通であることが示されており、この事は、これらの領域は私達が生き残るために不可欠な部分であることを意味しているのかも知れない。
  • ジャンクDNAはいくつかのまだ認識されてない機能を含んでいるのかも知れない。例えば、いくつかの非蛋白質コードRNA(non-coding RNA; ncRNA、例えばrRNAtRNAなど)がジャンクと考えられていた領域から見付かっている。
  • ジャンクDNAは本当に何も機能を持たないのかも知れない。例えば、最近の実験としてマウスゲノムから1%に相当する領域を切り外してその影響を調べたが、表現型を変えるような影響が全く認められなかった。

など。 今のところ、これらの全てあるいは部分的にはかなり信頼できる。ジャンクDNAの多くの部分は遺伝子調節において重要な機能を持っているらしく、例えばヒトの場合、転写されたDNAのわずか2%の部分だけが蛋白質に翻訳される。したがって、ゲノムレベルにおける遺伝子の機能に関する、時代遅れの誤った認識を与える'ジャンクDNA'という用語は使用が避けられるべきものであり、'非蛋白質コードDNA'(noncoding DNA)のようなより正確な用語の使用が好まれる。 真の'ジャンクDNA'の領域では変異がランダムに発生し、その発生数も比較的多いだろうと予想されるため、種間での比較によってそれらの領域を識別することができる。

進化に関連してひとつ言及しておくべきことがある。ジャンクDNAがかなりの割合を占めるとする仮定 - 例えばヒトにおける'97%'という値 - は進化論とは決して調和しえない、という事である。ジャンクDNAの複製は情報の保存の観点から言えば無駄な行為である。したがってジャンクDNAの割合が高いということは多くのエネルギーが浪費されることを意味し、生命にとっては重荷となるだろう。そのため、進化論における時間のスケールの上において、自然選択における懲罰的な損失を被る事なく利用可能なエネルギーおよび物質量を維持できるような水準に、削除的な変異による'ジャンク'配列の除去によってその量が削減されなければならない。本当に'ジャンクDNA'配列が存在しているという考えは、現在では想定されたときほど一般的な支持を得ているわけではないが、一般的支持を得ている科学的進化論において通常考えられる、よりエネルギーを維持するような自然選択の要求はそれほど厳しくないことを示唆している。

外部リンク

参考文献

英語版より

  1. Gibbs W.W. (2003) "The unseen genome: gems among the junk", Scientific American, 289(5): 46-53. (A review, written for non-specialists, of recent discoveries of function within junk DNA.)
  2. Pearson, Helen (2004) "'Junk' DNA reveals vital role", Nature.
  3. M.A. Nobrega, Y. Zhu, I. Plajzer-Frick, V. Afzal and E.M. Rubin (2004) "Megabase deletions of gene deserts result in viable mice", Nature, 431: 988-993.
  4. Mattick, John S. (2004) "The Hidden Layer of Noncoding RNA: a Digital Control System Underpinning Mammalian Development and Diversity", HGM Symposium 2004 Session 4/16.

関連項目