「おきのどくさまウィルス」の版間の差分

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駆除ソフトの登場を検知し、これを取り込むことで“Y”によって再度進化され生み出されたのが第三世代の「おきのどくさま」である。“J”もこれに対応して駆除ソフトを進化させ、以降は“Y”と“J”がいたちごっこのようにウイルスと駆除ソフトを進化させ続けている。その結果、「おきのどくさま」ウイルスは駆除されることを避け自らの子孫を残し続けるための戦略として「めだたない」ことを選択していった。このため、その後も「おきのどくさま」および駆除ソフトは高度に進化し亜種が生み出され、感染を広げ続けているものの、ユーザからは気にならない存在になっている(実害もなくなっている)。
駆除ソフトの登場を検知し、これを取り込むことで“Y”によって再度進化され生み出されたのが第三世代の「おきのどくさま」である。“J”もこれに対応して駆除ソフトを進化させ、以降は“Y”と“J”がいたちごっこのようにウイルスと駆除ソフトを進化させ続けている。その結果、「おきのどくさま」ウイルスは駆除されることを避け自らの子孫を残し続けるための戦略として「めだたない」ことを選択していった。このため、その後も「おきのどくさま」および駆除ソフトは高度に進化し亜種が生み出され、感染を広げ続けているものの、ユーザからは気にならない存在になっている(実害もなくなっている)。


== 画期的であった点 ==
== 予見的であった点 ==
この小説が発表された[[1996年]]は[[インターネット]]がようやく認知されてきた頃で、まだ[[コンピュータウイルス]]やネット上の[[セキュリティ]]に関する認識は一般的ではなかった。とくに、すでに[[PC/AT互換機]]が普及していた海外とは違い日本ではまだ独自[[アーキテクチャ]]の[[PC-9800]]シリーズや[[FM-TOWNS]]が主流であったため、特定の(同一種の)コンピュータウイルスが世界的に流行するという事態は想定されていなかった。さらに当時、ワームの存在は知られていてもまだほとんど現れておらず、コンピュータウイルスの感染経路といえばあいかわらずフロッピーディスクを経由するものだった。このため感染速度もおそく、作中のように「世界的に」「一昼夜で」「ウイルス(ワーム)自身の動作によって勝手に」感染が広がり通信網を麻痺させかねない事態におよぶことなどまだまだ当時は現実的ではなかったのである。
<!--パソコン薀蓄は記事に不要として削る。時代考証的にもヘン(上梓はWin95時代。まぁTOWNS版もあったけど)。なお、専門家ないしコンピュータマニア(作者の岡嶋はかなりコンピュータに詳しい)にとってそのようなワームは1988年の[[Morris worm]]によって周知。本作で見られた新しい点は、世界中のパソコンがネットでつながり、それがウィルス(ワーム)の育つ環境になることと、[[人工生命]]の見地が加味されていることだろう。--><!--この小説が発表された[[1996年]]は[[インターネット]]がようやく認知されてきた頃で、まだ[[コンピュータウイルス]]やネット上の[[セキュリティ]]に関する認識は一般的ではなかった。とくに、すでに[[PC/AT互換機]]が普及していた海外とは違い日本ではまだ独自[[アーキテクチャ]]の[[PC-9800]]シリーズや[[FM-TOWNS]]が主流であったため、特定の(同一種の)コンピュータウイルスが世界的に流行するという事態は想定されていなかった。さらに当時、ワームの存在は知られていてもまだほとんど現れておらず、コンピュータウイルスの感染経路といえばあいかわらずフロッピーディスクを経由するものだった。このため感染速度もおそく、作中のように「世界的に」「一昼夜で」「ウイルス(ワーム)自身の動作によって勝手に」感染が広がり通信網を麻痺させかねない事態におよぶことなどまだまだ当時は現実的ではなかったのである。-->
『パワー・オフ』の執筆・発表当時に普及していたパーソナルコンピュータの利用環境では、ネットワークへの常時接続はまだ一般的でなく、また動的に活動する、コンピュータウィルスよりもむしろワームに属するプログラムが繁殖する余地はほとんどなかった。


しかしこれらの事情は[[2000年]]前後を境に変化し、とくに[[MSBlast]]や[[CodeRed]]、[[Nimda]]などによって現実のものとなった。
しかしこれらの事情は[[2000年]]前後を境に変化し、とくに[[MSBlast]]や[[CodeRed]]、[[Nimda]]などによって現実のものとなった。

2010年3月11日 (木) 01:48時点における版

おきのどくさまウィルスは、井上夢人小説パワー・オフ』に登場する架空のコンピュータウイルス暗号化されており、しかも感染・複製のたびに暗号化のパターンが変化するため検出が難しいとされる。

概要

第一世代

Windows3.1以前のもの)に感染する。コンピュータの操作中にある条件が重なると発動し、CPUを完全にのっとって「おきのどくさま。このコンピューターはウイルスに感染しました」というメッセージをしばらく表示する。もともと売れないソフトウエアメーカーが自作自演でもうけるために開発したウイルスであるため、それ以上は特に実害のないウイルスのはずだったが、工業高校の実習中に電動ドリルの制御コンピュータが感染していたため、故障と勘違いして調べようとした生徒の手にドリルが刺さるという事故を引き起こし有名になってしまった。騒ぎが大きくなる頃に「ウイルス・スローター」という名称でウイルス駆除キットが発売されている。さらに工業高校での事件にショックを受けたウイルス作者(自作自演をしたソフトウエアメーカーにつとめるプログラマー)によって無料の駆除ソフトが配布されたことで、騒ぎは沈静化した。オリジナルのウイルスはオンラインソフト(アーカイバやゲーム)を通じて配布され、工業高校の場合は生徒が勝手にダウンロードしたゲームが媒介となっていた。なお「おきのどくさまウィルス」の名は、表示されるメッセージにちなんで命名された。

第二世代

初代「おきのどくさま」が人工生命アルゴリズム実験用コンピュータ“Y”にサンプルとして投入されたことで生み出された改良版。なお第一世代のウイルス作者は第二世代以降の改良には基本的に関与していない。もはや第一世代とは別物といえる凶悪な代物であり、感染したマシン上にある全データを消した上で起動不能にしてしまう。さらにワームとして自己感染活動をおこなう(感染直前に大規模なポートスキャンをするのが特徴である。)ほか、感染先のOSに合わせて自己を改変する能力ももつ。このため世界中のあらゆるコンピュータへと無限に感染を拡大し、世界中のコンピュータを破壊する恐れもでてきた。唯一の解決策は「全てのコンピュータの電源をオフにすること」とまで言われ、これが小説のタイトルの由来でもある。結局、この第二世代の「おきのどくさま」をもう一台の人工生命アルゴリズム実験用コンピュータ“J”に投入することで駆除ソフトが開発され、事態は収束に向かった。

第三世代以降の亜種

駆除ソフトの登場を検知し、これを取り込むことで“Y”によって再度進化され生み出されたのが第三世代の「おきのどくさま」である。“J”もこれに対応して駆除ソフトを進化させ、以降は“Y”と“J”がいたちごっこのようにウイルスと駆除ソフトを進化させ続けている。その結果、「おきのどくさま」ウイルスは駆除されることを避け自らの子孫を残し続けるための戦略として「めだたない」ことを選択していった。このため、その後も「おきのどくさま」および駆除ソフトは高度に進化し亜種が生み出され、感染を広げ続けているものの、ユーザからは気にならない存在になっている(実害もなくなっている)。

予見的であった点

『パワー・オフ』の執筆・発表当時に普及していたパーソナルコンピュータの利用環境では、ネットワークへの常時接続はまだ一般的でなく、また動的に活動する、コンピュータウィルスよりもむしろワームに属するプログラムが繁殖する余地はほとんどなかった。

しかしこれらの事情は2000年前後を境に変化し、とくにMSBlastCodeRedNimdaなどによって現実のものとなった。