0の0乗

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標準的な教科書において「xのy乗」という関数は原点すなわち(x,y) = (0,0)において定義されない. つまり「0の0乗」は,標準的には数ですらなく,ただ数学用語を組み合わせただけの言葉である.

この理由は,「xのy乗」は原点において,値をどう定義しても連続にならず(後述), さらにどの定義も,他の定義と比べて数学的必然性が顕著でないためである. しかししばしば0の0乗に対して特定の実数値を定義する著者もいる. 以下ではそのような例について述べる.

0の0乗 = 0

これは「0の0乗」の意味を,関数0xのx→0に対する極限とする立場である.

0の0乗 = 1

これは「0の0乗」の意味を,関数x0のx→0に対する極限, もしくは関数xxのx→0に対する極限とする立場である.

例えば計算機科学者クヌースはこの立場を取っている[1]. 曰く,0xという関数は数学的意義に乏しいのに対し, x0は様々な公式に頻繁に現れるため,こちらを基準に取る方が形式的に便利な局面が多いという. 例えば二項定理の公式 は,00=1としたときのみx=0に対して適用可能になる. この意見は,彼が離散数学,組み合わせ論のバックグラウンドを持つことを反映している. 彼の定義はあくまで利便性に基づくものであり,数学的必然性とは区別すべきであることに注意.

数学的意義を多少持っている説明としては, 「非負の整数x, yに対し『xのy乗』は, x個の要素を持つ集合Aからy個の要素を持つ集合Bへの写像f: A→Bが何通りあるかを数えたもの」 とする考え方がある. 数学基礎論や集合論をバックグラウンドに持つ著者が好む説明である. A={a,b,c}, B={x,y}という例を考えれば,この定義が通常の「xのy乗」の定義と一致することが納得できる. このとき,空集合から空集合への写像はまさに「空集合から空集合への写像」という一通りしかない(空写像)ことから,「0の0乗」は1という値を持つ.

連続性を持たないこと

連続でない理由は上記の2つの例から明らかである. 「xのy乗」という関数は実平面において直線x=0に沿って原点に近づくときと, 直線y=0に沿って原点に近づくときとで,異なる極限を持つ(それぞれ0, 1).


  1. ^ クヌース,『コンピュータの数学』,共立出版.