燃えさし
燃えさし(英語: ember[1])とは、燃えきらずに残った可燃物である[2][3]。
語釈
[編集]「燃えさしの薪」などという[3][4]。「
他にも「燃えかす」、「燃え残り」、「燃え殻」、「残り火」、等が類語に挙げられるが[3]、「燃え殻」は完全に燃え切ったのこりの炭のかけらや灰を指し、区別される[9]。
「燃え杭」は、まだ燃えたまま完全に鎮火してない木のことで、室町・戦国時代の頃より使用され、天草版『羅葡日対訳辞書』 (1595年刊)に記載がみえる[10][11]。
恋愛再燃の表現
[編集]「燃え杭に火がつきよい」(点きやすい)という表現は、つとに『日葡辞書』(1603年初刊)にも記載されているが[12][13]、男女関係において昔の恋愛が再燃する意味での「燃え杭」の喩えでは、浮世草子『色里三所世帯』(1688年)の中巻が初出とされている[6]。男女がよりを戻すことを「焼けぼっくいに火が付く」ともいう[14][6][注 1]。
火種として
[編集]上述の「熾」・「熾火」は「燠」・「燠火」ともつくるが、これは「赤くおこった炭火」や、木の薪がそのような状態になったものと定義される[16][注 2]。
ただし、「燠火」は、ふだんの生活においては「おも灰に埋めて火力を保つ炭火」を指す、と大岡信は指摘する[18]。たとえば火鉢(の炭火に)息を吹きかけて熾したあと「灰ならし」という道具で熾火に灰をかける描写が小栗風葉(1908)の作品にもみえる[19]。
燃えさしは、燃えた状態で灰を被せたりなどで酸素の供給を少なくすることで作ることができる。長時間燃える状態になることから、古来から火種として使用された[要出典]。紀元前3300年頃の遺体アイスマンの持ち物からも燃えさしの形跡が発見されており、当時はカエデの葉にくるんで火を持ち運んでいたことがわかった[20][リンク切れ]
事故
[編集]- 火災
- 消火されたと思っていた線香や炭、たばこなどの微小火源から火事になる例や、消火作業の数日後に再度火災になる例もある[21]。
- 火傷
- 砂浜や土に埋めて見えなくなった燃え残った炭によって火傷を負うケースや再発火も報告されている(砂に埋めても分解されず事故にもなることから自治体によっては禁止)[22][リンク切れ][23]。
保管方法
[編集]- 木綿縄を硝石に浸して作った火縄に火をつけて胴火という穴の開いた金属容器で保管
- 忍者などは、竹くずや木くず、竹や木を薄くして束にしたもの等に硫黄を塗った付竹・付木(硫黄木)に火をつけて、穴の開いた打竹に詰めた。
- 中国では、火折子と呼ばれる専用の道具を作った。質の悪い紙(土紙)、もしくは芋の蔓と綿花と葦から作った可燃物に、リン・硫黄など、さらに匂いが付く香料を加えた物を竹の筒に入れて、燃やしてから穴の開いた蓋で閉じ、空気調整して保管した[24][25]。
注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b 研究社『新英和中辞典』(岡倉由三郎編1890年版)、「ember」の項
- ^ 『日本国語大辞典』(1972年版)第 19 巻 262頁、「もえさし」の項
- ^ a b c 「燃え止し」『デジタル大辞泉』 。2025年2月9日閲覧。
- ^ 「燃えさし」『現代日葡辞典』 。2025年2月9日閲覧。
- ^ 『日本国語大辞典』(1972年版)第 19 巻 262頁、「もえくい」の項
- ^ a b c 「燃え杭」『精選版 日本国語大辞典』 。2025年2月9日閲覧。
- ^ 「余燼」『精選版 日本国語大辞典』 。2021年10月23日閲覧。
- ^ 『岩波国語辞典』(1986年)、「おき【熾】、おきび【熾火】」の項
- ^ 『使い方の分かる類語例解辞典』、小学館, 1994 436頁: "「燃えさし」は、すっかり燃えつくしたあとに残っている炭、灰など"
- ^ 『羅葡日対訳辞書』(1595年)、「titio」の項、ポルトガル語: tição、日本語:"moyecui"と定義。
- ^ 『時代別国語大辞典: 室町時代編』 第5巻、三省堂、1985年 燃杭: "羅葡日-もえくひ【燃杭】燃えて、まだすっかり火の消えていない状態の木"
- ^ 『日葡辞書』(1603年)、パリ本、「Moyecui」の項、ポルトガル語: tiçãoと定義、常套句は"Moyecuini figa tçuqiyoi" と音写されるが、ポルトガル語説明はそのまま逐語訳である。
- ^ Alvarez-Taladriz, J. L. (1954). “Cacería de refranes en el Vocabulario da Lingoa de. Japam”. Monumenta Nipponica (上智大学) 10 (1–2): p. 181, #155 .
- ^ 「焼け木杭に火が付く」『デジタル大辞泉』 。2025年2月9日閲覧。
- ^ Akiyama, Nobuo; Akiyama, Carol (1996). 2001 日本語慣用句英齬イディオム (2 ed.). Barron's Educational Series. p. 327. ISBN 9780812094336
- ^ 「燠」『デジタル大辞泉』 。2025年2月9日閲覧。
- ^ 稲村松雄、渡辺藤一、荒木一雄 編「coal」『新選英和辞典』小学館、1981年、281頁。ISBN 9784095103013 。
- ^ 大岡信『日本うたことば表現辞典: 生活編 』遊子館、2000年、97頁。ISBN 9784946525230 。
- ^ 小栗風葉「草分けの家」『早稻田文學』第28号、1908年3月、111頁。「
灰平 ()で密 ()と熾火 ()へ灰を懸ける」 - ^ アイスマンを解凍せよ キャプション:カエデの葉は、火の燃えさしを包むためのもの。 雑誌:ナショナル ジオグラフィック日本版 2011年11月号
- ^ “消防科学研究所報” (PDF). 札幌市消防科学研究所. 2021年10月23日閲覧。
- ^ 炭で砂浜が汚れます!事故の危険も! 茅ヶ崎市 更新日:平成30年1月16日 参照日:2021.10.23
- ^ 「炭は自然に返らない」BBQ後に放置しないで!西宮市が呼び掛け 神戸新聞 更新日:2019年05月16日 参照日:2021.10.23
- ^ 揭秘古代黑科技:古代用的火折子,为什么一吹就燃,原理太简单 腾讯网
- ^ 古代火折子为什么一吹就着?怎么发明得? サイト:历史资料网 更新日;2021-07-10 参照日:2021-10-23
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関連項目
[編集]- 不完全燃焼
- 火花(火の粉)
- Potager (cuisine) - フランスで使用されていた燃えさしを有効利用した調理台。