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ストライサンド効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
消すと増えますから転送)
問題となったストライサンド邸の画像
California Coastal Records Project photo of coastline including Streisand Estate (2002).

ストライサンド効果(ストライサンドこうか、Streisand effect)は、ある公開された情報を秘匿・除去しようと試みる行為が、かえってその情報を広い範囲に拡散させてしまう結果をもたらす現象の名前であり、インターネット・ミームの一種である。

この名称は20世紀から21世紀に活躍したアメリカ合衆国の歌手・女優でエンターテイメント界の大物、バーブラ・ストライサンドにちなんで命名された。2003年、バーブラは自分の邸宅が写っていたネット上の画像の公開を差し止めようとして裁判を起こしたが、図らずも却って世間の関心を集める結果になってしまった[1]

情報の秘匿に際しては法的措置であるCease and Desist英語版などの措置が利用される場合があるが、仮に元の情報の秘匿や公開差し止めの実現に成功した場合でも、却ってその情報に対するネット上やメディアの関心が高まり、インターネット上でオンライン・アーカイブが配布されるなどして、情報が際限なく拡散することになる[2][3]。また出版物などについて差し止め請求を行使するなどすると、その出版物への注目がかえって高まる可能性もある。

この効果は心理的リアクタンスの一例であると見做されており、人間は何らかの情報が秘匿されていることに気付くと、その情報を入手して広めようとする意欲が大幅に高まると言われている[4]

語源・歴史

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バーブラ・ストライサンド

2003年、アメリカの歌手・女優のバーブラ・ストライサンドは、シリコンバレーの実業家で環境保護運動家のケネス・エーデルマン(Kenneth Adelman)とウェブサイトPictopia.com に対して、カリフォルニア州の「反パパラッチ法」に違反して許可無く家屋を撮影しプライバシーの侵害を行ったとして、彼らが撮影し公開していたカリフォルニア州の12,000枚にのぼる海岸線の航空写真データベースの中から、マリブの断崖上にあるストライサンドの邸宅が映っていた3850番の航空写真を削除して、5,000万ドルを支払うよう訴えた[2][5][6][7][8][9][10]。エーデルマンは、自分は政府の公認による「カリフォルニア海岸記録計画」(California Coastal Records Project、カリフォルニア州の全海岸線の航空写真をヘリコプターから撮影して公開し、過去の写真と比較することで海岸侵食の進行を研究するプロジェクト)の一環として海岸線の写真を撮ったに過ぎないと述べた[9]。この訴訟は却下され、ストライサンドは訴訟費用17万7,000ドルの支払いを命じられた[11][12][13][14]

航空写真「3850番」は訴訟前にはダウンロードされたのはわずか6回、そのうち2回は訴訟を担当した弁護士によるものであった[15]が、この訴訟の翌月には42万人以上が同ウェブサイトを訪れるようになった[16]

この訴訟の2年後の2005年、IT業界などに関するニュースを伝えるブログ「Techdirt」の管理人マイク・マズニックは、マルコ・ビーチ・オーシャン・リゾートがウェブサイトurinal.net(小便器の画像の専門サイト)に対し、自身のリゾートの名前を用いた画像を使用したことを理由に削除通知を出したことについて記事を執筆した際、先の訴訟にちなんでこの効果に「ストライサンド効果」の名前を付けた[17][18]

弁護士たちがほとんどの人が閲覧する事がない情報を秘匿しようとする行為が、却って多くの人々に見られるという結果に繋がる事に気付くまで、どれほどの時間が掛かるだろうか。これをストライサンド効果と呼ぶことにしよう
Masnick, Mike、"Since When Is It Illegal To Just Mention A Trademark Online?"、Techdirt (January 5, 2005)[8]

事例

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2013年フランス語版ウィキペディアにおけるピエール・シュール・オート軍用無線局についての記事に関して、フランスの国内情報中央局による検閲事件の影響が「ストライサンド効果」の好例であるとされている。国内情報中央局は、記事には国防上の秘密が掲載されており秘密漏洩罪に該当するとして、ウィキメディア財団に対し削除するよう要請したものの、財団に拒否された。そのため、管理者権限を持つ編集者の1人を探し当てて呼び出し、強要して削除させた。記事は削除後、他の編集者によって復活されたが、復活後には閲覧数ランキング入りを果たした[19][20]

ビジネス

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  • 2007年、Advanced Access Content System(AACS)を策定した団体は、diggを含む大手Webサイトに対して、そのシステムの暗号解除コードの投稿を掲載し続けることの中止を求めるレターを送付した。これによって、かえって多くのサイトに暗号解除コードが掲載された[21][22]
  • 2014年8月、ニューヨーク州ハドソンにあるホテルが次のようなポリシーを掲げた。「インターネット上のUSGH(Union Street Guest House)についてのいかなるネガティブなレビューに対しても500ドルの罰金を課し、あなたのデポジットから引かせていただきます。」[23]このポリシーは、2013年11月のYelpサイト上の不都合なレビュー[24]を抑える試みとして使われた。これによって、何千ものレビューがYelpや他のレビューサイトに投稿された[25][26]
  • 2017年8月、ウォンテッドリー株式会社の株式公開についての意見を投稿したブログに対し、会社はブログに利用されている社長の写真が著作権違反であるとDMCAテイクダウンを申し立て、検索結果から削除したほか、当該ブログ記事をツイートした他人のTwitterの投稿も削除したことで[27]、Twitterの複数のユーザーが気づき[28]、騒ぎは収束するばかりか大きくなってしまった。会社の対応について、批判に対する言論封殺ではないかという意見が相次いだ[29][30]。なお、その後検索結果は復帰し、ブログ記事は再表示されるようになった[31]。一連の流れはストライサンド効果ではないかと指摘されている[32]

その他の組織

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個人

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脚注

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出典

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  1. ^ The Streisand Effect”. Merriam-Webster.com. Merriam Webster dictionary. 2023年6月27日閲覧。
  2. ^ a b Canton, David (2005-11-05). “Today's Business Law: Attempt to suppress can backfire”. London Free Press. オリジナルの2007-09-27時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/20070927014240/http://www.lfpress.ca/cgi-bin/publish.cgi?p=111404&x=articles&s=shopping 2007年7月21日閲覧. "The 'Streisand effect' is what happens when someone tries to suppress something and the opposite occurs. The act of suppressing it raises the profile, making it much more well known than it ever would have been." 
  3. ^ Mugrabi, Sunshine (2007年1月22日). “YouTube – Censored? Offending Paula Abdul clips are abruptly taken down.”. Red Herring. オリジナルの2007年2月18日時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/20070218200850/http://www.redherring.com/Article.aspx?a=20872&hed=YouTube%E2%80%94Censored%3F 2007年7月21日閲覧. "Another unintended consequence of this move could be that it extends the kerfuffle over Ms. Abdul's behavior rather than quelling it. Mr. Nguyen called this the 'Barbra Streisand effect', referring to that actress's insistence that paparazzi photos of her mansion not be used" 
  4. ^ Burnett, Dean (2015年5月22日). “Why government censorship [in no way at all carries greater risks than benefits”]. The Guardian (London). オリジナルの2016年4月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160424061616/https://www.theguardian.com/science/brain-flapping/2015/may/22/government-censorship-psychology-theresa-may 2016年4月16日閲覧。 
  5. ^ Barbara Streisand v. Kenneth Adelman Et. Al., Cal.Super. (Superior Court of California, County of Los Angeles 2003-05-20).
  6. ^ “The perils of the Streisand Effect”. BBC News Magazine. (2014年7月31日). オリジナルの2016年1月13日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160113013559/http://www.bbc.co.uk/news/magazine-28562156 
  7. ^ Bernoff, Josh; Li, Charlene (2008). Groundswell: Winning in a World Transformed by Social Technologies. Boston: Harvard Business School Press. p. 7. ISBN 978-1-4221-2500-7. https://archive.org/details/groundswellwinni00lich/page/7 
  8. ^ a b Masnick, Mike (2005年1月5日). “Since When Is It Illegal To Just Mention A Trademark Online?”. Techdirt. 2012年11月30日時点のオリジナルよりアーカイブ2023年6月27日閲覧。
  9. ^ a b Barbra Sues Over Aerial Photos”. The Smoking Gun (2003年5月30日). 2011年4月17日時点のオリジナルよりアーカイブ2010年11月22日閲覧。
  10. ^ California Coastal Records Project”. californiacoastline.org. 2008年4月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年4月7日閲覧。
  11. ^ Streisand v. Adelman, et al., in California Superior Court; Case SC077257
  12. ^ Adelman, Kenneth (2007年5月13日). “Barbra Streisand Sues to Suppress Free Speech Protection for Widely Acclaimed Website”. California Coastal Records Project. 2008年4月7日時点のオリジナルよりアーカイブ2008年4月8日閲覧。
  13. ^ "Streisand's Lawsuit to Silence Coastal Website Dismissed" (Press release). Mindfully.org. 3 December 2003. 2009年7月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年4月8日閲覧
  14. ^ R. Weiss, Kenneth (2004年5月28日). “Judge Orders Streisand to Pay $177,000 for Photographer's Legal Fees”. Los Angeles Times. 2023年6月27日閲覧。
  15. ^ Barbara Streisand vs. Kenneth Adelman, Ruling on submitted matters, tentative decision and proposed statement of decision”. p. 6. 2015年8月24日時点のオリジナルよりアーカイブ2014年9月24日閲覧。 “Image 3850 was downloaded six times, twice to the Internet address of counsel for plaintiff” In addition, two prints of the picture were ordered—one by Streisand's counsel and one by Streisand's neighbor.
  16. ^ Rogers, Paul (2003年6月24日). “Photo of Streisand home becomes an Internet hit”. San Jose Mercury News, mirrored at californiacoastline.org. 2013年7月30日時点のオリジナルよりアーカイブ2007年6月15日閲覧。
  17. ^ Siegel, Robert (2008年2月29日). “The Streisand Effect' Snags Effort to Hide Documents”. All Things Considered. NPR. 2018年3月6日時点のオリジナルよりアーカイブ2018年3月6日閲覧。 “The episode is the latest example of a phenomenon known as the 'Streisand Effect.' Robert Siegel talks with Mike Masnick, CEO of Techdirt Inc., who coined the term.”
  18. ^ Masnick, Mike (2015年1月8日). “For 10 Years Everyone's Been Using 'The Streisand Effect' Without Paying; Now I'm Going To Start Issuing Takedowns”. Techdirt. オリジナルの2022年3月1日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220301170557/https://www.techdirt.com/2015/01/08/10-years-everyones-been-using-streisand-effect-without-paying-now-im-going-to-start-issuing-takedowns/ 2016年4月16日閲覧。 
  19. ^ Sampson, Tim (2014年2月19日). “Greek politician who sued Wikipedia editor clearly never heard of the Streisand Effect”. 2016年1月7日閲覧。
  20. ^ pernillarydmark (2013年4月8日). “Wikipediaに記事内容を削除するよう圧力をかけたら逆に注目を集める結果に”. Gigazine. 2016年1月7日閲覧。
  21. ^ Stone, Brad (2007年5月3日). “In Web Uproar, Antipiracy Code Spreads Wildly”. New York Times. http://www.nytimes.com/2007/05/03/technology/03code.html 2016年1月7日閲覧. ""The ironic thing is, because they tried to quiet it down it's the most famous number on the Internet."" 
  22. ^ Masnick, Mike (2 May 2007). "AACS Discovers The Streisand Effect: The More You Try To Suppress Something, The More Attention It Gets". TechDirt (英語). 2023年5月21日閲覧
  23. ^ Siegler, Mara (2014年8月4日). “Hotel fines $500 for every bad review posted online”. Page Six, New York Post. http://pagesix.com/2014/08/04/hotel-charges-500-for-every-bad-review-posted-online/ 2016年6月10日閲覧。 
  24. ^ Simon R. (2013年). “Union Street Guest House - Hudson, NY (review)”. Yelp. 2016年6月10日閲覧。
  25. ^ Micah Solomon (2014年8月4日). “This Hotel Fines Customers $500 For Bad Reviews (Yes, There's A Better Approach)”. Forbes. http://www.forbes.com/sites/micahsolomon/2014/08/04/you-cant-fine-guests-500-for-bad-reviews-like-this-hotel-but-heres-what-you-can-do/ 2016年6月10日閲覧。 
  26. ^ Jordan Crook (2014年8月5日). “ネガティブレビューを書く客に罰金500ドルを科すホテル”. Tech Crunch. http://jp.techcrunch.com/2014/08/05/20140804no-just-no/?iframe=true&preview=true 2016年6月22日閲覧。 
  27. ^ 岡田有花 (2017年8月25日). “WantedlyのIPO批判記事、Google検索から消える 「写真を無断利用された」とWantedlyが削除申し立て”. ITmedia NEWS. ITmedia. 2023年6月27日閲覧。
  28. ^ Wantedlyにツイートを消された(かもしれない)話”. はてなブログ (2017年8月24日). 2023年6月27日閲覧。
  29. ^ ウォンテッドリーの「批判記事排除」は問題だ”. 東洋経済 (2017年8月27日). 2023年6月27日閲覧。
  30. ^ 本田雅一 (2017年8月25日). “求人サービス運営「ウォンテッドリー」批判ブログ、ツイートするだけで削除対象? 「封殺」とも取れる対応に批判集中”. ねとらぼ. https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1708/25/news082.html 
  31. ^ tks24 (2017年8月30日). “Wantedly社によるDMCA申請で渦中のブログエントリ、Googleの検索結果に復活”. インプレス. https://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/1078040.html 2023年6月27日閲覧。 
  32. ^ 徳力基彦 (2017年8月30日). “Wantedly騒動に学ぶ、ネットの悪評を削除するリスク”. AdverTimes. https://www.advertimes.com/20170830/article256914/ 2023年6月27日閲覧。 
  33. ^ a b Cacciottolo, Mario (2012年6月15日). “The Streisand Effect: When censorship backfires”. BBC News. 2016年1月7日閲覧。
  34. ^ Google's right to be forgotten creates Streisand effect”. Recombu (2014年6月3日). 2016年1月7日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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