拡張新字体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。VolkovBot (会話 | 投稿記録) による 2008年2月15日 (金) 09:20個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (ロボットによる 追加: en:Extended Shinjitai)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

拡張新字体(かくちょうしんじたい)とは、常用漢字表で採用されている新字体の略し方を、常用漢字表にない漢字にも及ぼした字体である。

漢字表の新字体

1949年当用漢字字体表(1850字)が告示された際、標準字体として略字体が多く採用された。例えば、「學」「國」「體」は「学」「国」「体」となった。その後、1981年に常用漢字表(1945字)が告示され、新たに加わった字にも略字体が採用されたものがあった。例えば、「罐」「螢」「龍」は「缶」「蛍」「竜」となった。なお、当用漢字字体表で標準字体であった「燈」が常用漢字表で「灯」に改められている。常用漢字表が告示された時点で、新字体に改められた旧字体正字体)の総数は357字(「辨」「瓣」「辯」が「弁」に統合されたため、新字体の数としては355字)となった。

ところが、略字体が採用された結果、同じ構成要素を共有する漢字が、一方は表内字であるため略字体となり、一方は表外字であるため略字体にならないという不統一が起こった。たとえば、「賣」「續」「讀」は表内字であるため「売」「続」「読」と書かれるようになったが、「贖」「犢」「牘」は表外字であるため、旁の部分を「売」にしない。これは新字体の指定を1字ごとに行うことによって必然的に生じる問題である。なお、中華人民共和国の簡体字では1字ごとではなく構成要素単位で簡略化したためそのような問題は生じない。

拡張新字体の誕生

朝日新聞社では、表内字で略されている部分は、表外字でも略す字体(朝日文字)を採用した。この字体では、「贖」「犢」「牘」の旁は「賣」ではなく「売」になっている。このように、簡略化を表外字にも及ぼしたものを、拡張新字体と称している。

拡張新字体の考え方は、いわゆるJIS漢字でも採用された。最初の1978年JIS C 6226-1978(旧JIS)では、「噓」「叛」など少数(10字程度)の表外字に略字体が採用されていた。

JIS漢字の拡張新字体が一般の関心を集めたのは、1983年制定のJIS X 0208-1983(新JIS)においてであった。この時、従来の299字(または「曾」「訛」を含む301字)の字体を改めて、「鷗」「瀆」「潑」「逢」「飴」など多数の表外字に略字体が採用されていた。これらは表外字であるから、それまで略字体で印刷されることは一般的でなかったものである。この後、「ワープロで森鷗外の名前が正字体で入力できない」などの批判を受けることになった。

拡張新字体の縮小

1990年制定のJIS X 0212(補助漢字)では、「鴎」「涜」「溌」など、それまでの拡張新字体に加えて、正字体の「鷗」「瀆」「潑」などが増補された。しかし、補助漢字はShift_JISエンコーディングでの表現を考慮していなかったため、一般的なパソコンでは表示されず、根本解決に至らなかった。1992年国語審議会でも、依然として「ワープロによって違った字体が出てきて困った経験がある。統一してほしい」などの意見が出た。

2000年2月のJIS X 0213-2000(新拡張JISコード)では、Shift JISエンコーディングで利用可能な拡張を行い、「鷗」「瀆」「潑」などの正字体をこの部分に「復活」して、問題の解決を図った。

2000年12月、国語審議会は「表外漢字字体表」を答申し、印刷字体の標準を示した。この表において、常用漢字表以外の漢字では拡張新字体を用いない方向を鮮明にした。このことは、拡張新字体の縮小に向かう流れを加速させた。

2004年JIS X 0213-2004(改正新拡張JISコード)では、例示字形を変更し、表外字の「一点しんにょう」を「二点しんにょう」にするなど、「表外漢字字体表」を踏まえる形で、点の有無や向きなどの細かい修正を施した。2007年1月発売のOSWindows Vista」もこの例示字形に準じた。結果として、人名の「辻」を、以前のOSで一点しんにょうのつもりで入力したデータが、新しいOSで出力した際に二点しんにょうとして表示されるなどの混乱も起こった。

朝日新聞社でも、2007年1月に朝日文字を改め、「表外漢字字体表」を踏まえた字体を用いるようになった。

現在、簡略化への要求が薄い背景として、略字よりも正字が標準と考えられている一般的状況がある。また、書字習慣の面でも、手書きよりコンピューターで文字を扱う機会が多くなり、字体の繁簡が書字能率にあまり影響しなくなったことも挙げられる。

関連項目