復水式蒸気機関車

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マージー鉄道英語版の蒸気機関車Cecil Raikes。突出した排気管が後方の水タンクに延びているのが見える。

復水式蒸気機関車(ふくすいしきじょうききかんしゃ)は、通常の復水器を用いたクローズサイクルの蒸気機関と異なり、復水器の目的が効率と出力を改善するために排気側を真空にするのではなく、主に水を回収し大気に過剰に排出されてしまうのを防ぐためにある点が異なっている。一般的には、通常型の蒸気機関車に多くの配管や弁、補助装置などを付加してシリンダーからの排気を復水器で回収する形を取る。この装置が、通常は煙突から排出されて失われてしまう排気蒸気を熱交換器を基本とする復水器を通したうえで通常の水タンクへと運ぶ。装置構成は、目的・設計・取り付けた機関車の種類によって大きく異なっている。

熱力学[編集]

蒸気タービンや舶用蒸気機関でよく用いられる表面式復水器と異なり、蒸気機関車に搭載されている復水器は通常は出力を増加させることはない。実際のところかなり出力を減らしてしまうことすらある。蒸気を真空になるまで膨張させればより多くの出力を得られるが、それに伴う低密度(高い比容積)のために、実際に真空まで膨張させるためにはかなりかさばる低圧シリンダーまたはタービンが必要となることを意味している。このためより実用的な容積比では復水器の圧力は大気圧に近く、それより低くなることはあまりない。そして温度もそれに伴ってより高くなる。高温の蒸気を復水器に送れば、排気蒸気と冷却水の温度勾配は大きくなり、通常の定置式あるいは舶用の蒸気機関における同規模の復水器と比べて小さな熱交換面積で済む。しかし高温蒸気に含まれるエネルギーは機械的な仕事をしない。機関車の復水器はかなり高温で動作するため、この復水器をサイクルに入れることで期待される熱効率の改善は、実際には機関車の容積的な制限のために実現できない。実のところ、復水器の配管における粘性抵抗による損失のため、単に大気に蒸気を排出してしまうよりも出力を低下させてしまう傾向がある。

目的[編集]

復水器の装着には通常2つの目的がある。排煙の制御と航続距離の延長である。

排煙の制御[編集]

地下鉄道[編集]

メトロポリタン鉄道Aクラス蒸気機関車、蒸気を戻す配管に大きな弁が取り付けられている。復水式と非復水式を切り替えることができた。

当初、ロンドン地下鉄トンネル内でメトロポリタン鉄道の機関車を走らせられるように開発された。ダニエル・グーチにより考案されたもので、ベイヤー・ピーコックが開発した。

日本においても、トンネルの連続する碓氷峠専用機として導入された、鉄道作業局AH形に煙突からの排煙流量の制御を目的として搭載された実績がある。

この方式では通常、ブラストパイプを経由して煙突へ放出される蒸気を、弁室とブラストパイプを結ぶ排気管から横取りし、ボイラーバレル側面に隣接して搭載された水タンクへパイプで導き、タンク内に設置された復水器の配管を通して蒸気温度を低下させ、水分をある程度凝結させた後でタンク水面に吹き付ける[1]構造となっている。

この方式の主目的は蒸気中の水分回収ではなく、ブラストパイプから蒸気を放出することでボイラー内の通風が促進され、排煙が過大になることを抑制する点にある。

この種の機関車で復水機能を動作させると、ボイラー内の通風量が減少し、燃料の燃焼が緩やかになるためドラフト効果が充分得られず、機関車としての性能は低下することになる。

タンク内の水は高温の蒸気が送り込まれるため、すぐに沸点近くまで水温が上昇し、排気蒸気の復水効果は小さくなった。そのため、定期的にタンクを空にし冷たい水を補充するようにしていたことが分かっている。

通常のインジェクターは熱い水では動作しない[1](温水インジェクターが開発されるまでは)ので、この種の復水式蒸気機関車には通常は車軸によって駆動されるボイラー給水ポンプ英語版が装備された。トンネル内を走行しない時は、蒸気はブラストパイプ英語版を通り通常の煙突から排出された。

路面軌道[編集]

イギリスでは、路面軌道で運転される機関車は法律により復水器を装備することを要求されていた。

水タンク式復水器も時折使用されたが、空冷式復水器がより一般的だった。蒸気路面機関車は通常全長に渡る屋根を持ち、この上に排気蒸気を復水するための空冷銅管を載せていた。キットソン英語版がこのタイプの機関車を多数製作した。この方式は低出力の路面機関車にとっては十分であったが、より大型の鉄道用の機関車のためには十分ではなかったと思われる。

航続距離の増加[編集]

南アフリカ国鉄25型蒸気機関車、非常に長い炭水車と、その側面の復水器を冷却するためのルーバーに注意
南アフリカ国鉄25型

航続距離の増加目的では、強制空冷ファンを併設した空冷復水器を用いたより洗練された装置を使用していた。この方式は、砂漠や非常に乾燥した地帯を走行する蒸気機関車に十分な水を供給する問題に対処することを目的としていた。

排気ドラフト[編集]

排気蒸気を復水することの欠点は、ブラストパイプから蒸気を排出してボイラー内の火勢を強めるために使用できなくなることである。このため蒸気駆動のファンで強制的に煙管を通風促進させる必要がある[2]。可能であれば、このファンを駆動するために排気蒸気を使用するようにするが、より多くの場合には生蒸気が必要で、余分な蒸気と燃料の消費につながった。

復水器の種類[編集]

蒸気機関車の復水器は水冷式か空冷式である。

水タンク復水器[編集]

水タンク式では、機関車の水タンク内の冷水の中に排気蒸気を噴出させる。絶気した際にシリンダーに水が逆流、ハンマーブロー現象でシリンダーを破壊するのを防ぐため、逆流防止弁が必ず装備された。この方式は、トンネル内を走る機関車に主に使用された。

空冷式復水器[編集]

空冷式復水器では、内燃機関の冷却機構に使われているのと似た、空冷式放熱器の中に排気蒸気が送られる。この方式は小さな路面機関車(復水器を屋根の上に装備)か、大型のテンダー機関車(炭水車に復水器が装備される)で用いられていた。

アンダーソン・システム[編集]

アンダーソン復水システム英語版[3]は空冷式復水器を使用するが、蒸気中に水滴のエアロゾルを形成する程度にわずかに復水される。このエアロゾルは、専用に設計されたボイラー給水ポンプを利用して圧力によって液化される。通常の大気に排気を放出する方式に比べて、燃料は30%近く節約できるとアンダーソン・システムでは公称していたが、これは逆説的であったようだ。エアロゾルを圧縮するために出力を必要としたため、より燃料消費が悪化することになった。

復水器を装備した蒸気機関車[編集]

水タンク復水器付き[編集]

空冷式復水器[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b Semmens, P.W.B.; Goldfinch, A.J. (2003) [2000]. How Steam Locomotives Really Work. Oxford: Oxford University Press. p. 277. ISBN 978-0-19-860782-3. 
  2. ^ Roosen, Dr.-Ing. R. (17 March 1960). “Class "25" Condensing Locomotives on the South African Railways — Design and Operating Experiences”. J. Inst. Locomotive Engineers 50:2 (274): 243–280. Paper Nº607. 
  3. ^ The Holcroft-Anderson Recompression Locomotive”. Aqpl43.dsl.pipex.com (2008年4月1日). 2012年2月17日閲覧。
  4. ^ National Museums Liverpool”. Liverpoolmuseums.org.uk. 2012年2月17日閲覧。
  5. ^ Roosen 1961, p. 244
  6. ^ ただし、東部戦線地域の水質の問題が原因で164両の52形に復水装置搭載テンダーが採用されたとする文献( 篠原正瑛 「大いなる時代を偲ぶ-回送のメルクリン ドイツ鉄道の変遷と蒸気機関車たち」、『世界の鉄道模型 メルクリンのすべて』、サンポウジャーナル、1979年)も存在する。
  7. ^ “9: Near East to Far East”. The World's Railways and How They Work. Odhams. (1947). pp. 182–183. 

関連項目[編集]