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干物箱

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

干物箱』(ひものばこ)は古典落語の演目。別題として『吹替息子』(ふきかえむすこ)、『大原女』(おはらめ)、『作生』(さくなま)[1]。ほかに『身代わり』(みがわり)、『善公の声色』(ぜんこうのこわいろ)という別題を記す書籍もある[2]上方落語では『吹替息子』の演題が使用される[1][3]。前田勇は江戸落語(東京)には上方落語(大阪)から移植されたとする[2]

遊廓通いを禁じられた若旦那が、父を欺くために声色の上手い知り合いに身代わりを頼むという内容。

原話は、延享4年(1747年)に出版された笑話本・『軽口花咲顔』の一編「物まねと入れ替わり」[1][2][3]武藤禎夫は、金で身代わりを頼んで自分が遊びに行くというストーリーは「古くからある」として、「狂言『花子』あたりにその原形がしのばれる」と記している[4]。 

あらすじ

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※以下、東大落語会編『落語事典 増補』掲載の内容に準拠する[1]

道楽が過ぎ、遊びを禁じられて父親に家で監視されている若旦那が、一計を案じて銭湯に行くという口実で外出すると、声色の得意な貸本屋の善公を訪ねる。善公に「3時間ほど自分の代わりに家の二階で寝て、親父から話しかけられたら声色で応答しろ」という頼みを30両の報酬で引き受けさせ、父親が俳句の話をするから「落巻は」と聞かれたら「竜の子さんでございます」、「句は」と聞かれたら「大原女や今朝新玉の裾長し」、「軸は」と聞かれたら「薪にせぬ杣の情や返り花」とそれぞれ答えるように念を押す。善公は若旦那の代わりに裏口から入り、若旦那は遊びに出かけてしまう。

やがて父親が二階に向かって俳句について尋ねたので善公は教えられたとおりの返事をしたが、「帰りに無尽に回ったか」と問われて的外れな返答をする。さらに干物の収蔵場所を問われて「干物箱です」と答えたりしたが、父親が二階に上がって身代わりが露見した。そこへ若旦那が戻ってきて表から「忘れ物」と声をかけると、父親が「馬鹿野郎、家へ入れねえぞ」と怒鳴る。それを聞いた若旦那は「善公は器用だな、親父の声色までそっくりだ」。

バリエーション

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『大原女』の演題は前記のようにそれを扱った俳句が登場することに由来する[1]。『作生』の演題は、若旦那の名を「作次郎」とし、「生」は「ナマタレ」(優柔不断、にやけているといった意味)の省略でそれを組み合わせたものという[2]

初代三遊亭圓遊は、若旦那の部屋にいる善公が、自分の悪口が書かれた若旦那宛の手紙を読んで大声を出し、身代わりが露見するという改変を施しており、武藤禎夫『定本 落語三百題』掲載のあらすじはこのスタイルを採用している[4]。  

若旦那が善公に想定問答を言い含めない(父親も俳句のことを聞かない)演じ方もあり、8代目桂文楽はこのスタイルだった[5][6]川戸貞吉は『桂文楽全集』の解説で、言い含める形を取った5代目古今亭志ん生と対比させ、5代目志ん生は若旦那の外出を「1時間」として前半のマクラなどにウェイトを置くのに対し、8代目文楽は外出を「3時間」として後半を盛り上げるスタイルであると評している[6]

宇井無愁『落語の根多 笑辞典』掲載の上方版『吹替息子』のあらすじでは、身代わりは「芳やん」という名前で、父親からの追及逃れに仮病を使って「薬を持ってそっちに行く」という父親に「治った」といい、また都合が悪くなると「別の場所が痛い」というやりとりを繰り返した末に父親がやってくる形になっている[3]

脚注

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  1. 1 2 3 4 5 東大落語会 1973, pp. 385–386.
  2. 1 2 3 4 前田勇 1966, pp. 270–271.
  3. 1 2 3 宇井無愁, pp. 475–476.
  4. 1 2 武藤禎夫 2007, pp. 372–374.
  5. 桂文楽全集 1973, pp. 77–95, 干物箱.
  6. 1 2 桂文楽全集解説 1973, pp. 309–311, 作品解説『干物箱(ひものばこ)』.

参考文献

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  • 前田勇『上方落語の歴史 改訂増補版』杉本書店、1966年。NDLJP:2516101 
  • 『桂文楽全集』 下巻、立風書房、1973年3月25日。NDLJP:12490952 
    • 川戸貞吉「作品解説」『桂文楽全集 下巻』立風書房、1973年3月25日、338-341頁。 
  • 東大落語会 編『落語事典 増補』青蛙房、1973年。NDLJP:12431115 
  • 宇井無愁『落語の根多 笑辞典』角川書店角川文庫〉、1976年。NDLJP:12467101 
  • 武藤禎夫『定本 落語三百題』岩波書店、2007年6月28日。ISBN 978-4-00-002423-5