不正咬合

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不正咬合(ふせいこうごう、:Malocclusion)とは、顎顔面などが、なんらかの原因でその形態と発育と機能に異常をきたし、その結果、正常な咬合機能を営み得ない咬合状態の総称である。

いわゆる顎関節症の原因となりうる不正咬合には、以下のような典型的なパターンがある。
図は、入門顎関節症治療のための咬合分析と診断(金原出版)より引用。

中心位と咬頭嵌合位のずれ[編集]

この不正咬合は、顎関節とって都合の良い下あごの位置(中心位)と、上下の歯の噛み合わせによって決まる下あごの位置(咬頭嵌合位)がずれている状態である。

自覚症状[編集]

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噛み込むと横にずれる。右図32Aのように、上下の歯をしっかり噛み合わせると、左右のいずれか一方あるいは両方の顎関節の良好な位置関係がずれてしまう。

自己分析[編集]

顔を上に向けて、下あごをリラックスさせる。そのとき、左右の顎関節は良好な位置関係になる。その状態を維持して、上下の歯を軽く接触させる。そのとき、左右どちらかの奥歯が先に接触する。右図31A

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さらに噛み込むと、下あごが横にずれて全体の歯が噛み合う。右図32A

咬合理論による解説[編集]

顎関節は、下顎頭関節窩のくぼみに収まる構造をしている。下顎頭は関節窩の最深部から水平方向に滑走することができる。下顎頭は下顎窩のすべての位置で安定できるわけではなく、下顎頭が下顎窩の中でもっとも安定できるのは最深部である。左右の下顎頭が左右の下顎窩の最深部に収まっている状態が中心位と呼ばれ、顎関節にとってもっとも良い上下顎の位置関係である。この中心位において上下の歯が全体的に噛み合わず、咬頭嵌合位が中心位と異なる上下顎の位置関係(左右のあるいは両方の顎関節が不安定な状態)にて成立している。

治療方法[編集]

中心位で左右の歯が安定して噛み合わせることができるように、噛み合わせを構成する。特定のあるいは冠の一部分が高い場合、その部分を削除する。その場合、全体的に噛み合わせた状態で横にずれる遊びができる。逆に低い場合は、噛み合わせ部分を追加する。その場合、全体的に噛み合わせた状態に遊びを作るかどうかについて検討することになる。なお、最終的に構成される噛み合わせが、下あごを支えている筋肉群に調和するかどうかを判断する必要がある。高い噛み合わせになると常に上下の歯が接触することになり、噛み合わせが低すぎると、噛み込む力が弱くなる。これらの弊害が生じないように適切な噛み合わせの高さを設定する。

側方位にて作業側の接触不良
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この不正咬合は、下あごを横に動かしたときに上下の犬歯を接触させることができない状態である。

自覚症状[編集]

犬歯で糸を切れない。

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自己分析[編集]

下あごを右側に動かして右側の犬歯が接触するかを確認する。そのとき、左側の奥歯が接触して、右側の犬歯が接触しない。この不正咬合が存在する。その逆も行ってみる。右図34

咬合理論による解説[編集]

人が固いものを噛み切ろうとすると、下あごを横に動かして犬歯で固い食べ物を噛み切る。このときの顎関節の状態は、噛み切る側(作業側)の関節頭は顎関窩最深部に収まっており反対側の平衡側の下顎頭は前側にスライドしている。このとき、平衡側の歯が接触して作業側の糸切り歯が接触しない状態である。右図33

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治療方法[編集]

平衡側の接触している部分を取り除いて作業側の犬歯で噛むことが出来るようにする。このとき、上下の歯の咬頭部分が接触しているので、上下の歯を同時に削ると咬頭嵌合位における適切な咬合接触を削除することになり、新たな不正咬合を形成することになる。そのため、この咬合調整は、原則に基づき、細心の注意を払って行う必要がある。

前方位にて前歯の接触不良[編集]

この不正咬合は、下あごを前に突き出したとき、前歯が接触しない状態である。

自覚症状[編集]

麺類を噛み切ろうと思っても噛み切れない。

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自己分析[編集]

下あごを前に出したとき、奥歯が接触して、上下の前歯が接触しない。右図35

咬合理論による解説[編集]

通常の噛み合わせでは不正は認められない。右図49

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しかし、下顎を前にスライドさせたとき、奥歯が接触して前歯が接触しない状態である。右図50

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これは、下の親知らずにブリッジを装着したときに生じることが多い。この不正咬合は、通常の噛み合わせ調整で異常が認められないので見逃されることが多い。この不正咬合は、深刻な歯ぎしりを引き起こす。

治療方法[編集]

不正咬合を生じさせている部分を削合する。あるいは、ブリッジを撤去することにより完治する。

咬合不安定[編集]

この不正咬合は、上下の歯が安定して噛み合わせることができる下あごの位置が定まらない状態である。

自覚症状[編集]

どこで噛み込んでよいかわからない。

自己分析[編集]

中心位で全体的に上下の歯を噛み合わせることができない。

咬合理論による解説[編集]

通常上下臼歯の凹凸部は、お互いに組み合わさり、上下の顎が横に大きくずれないようになっている。ところが、上下の凹凸が組み合わない状態になると、上下の顎は自由に横に動き、不安定な状態になる。この状態は、歯科矯正治療中に経過し、矯正治療が失敗したときは、治療後もそのような状態になることがある。また、大きなブリッジ装着時に噛み合わせの調整を失敗するとそのような状態になることがある。また、咬合理論を無視したスプリントの装着
は、かなり高い確率でこのような状態になる。さらに、噛み合わせの調整に失敗するとこのような状態になる。とくに、噛み合わせ面の凸部分を削って平らにするとこのような状態になる。


治療方法[編集]

新たな咬合関係を構築する。そのために、噛み合わせの高さ、噛み合わせの様式を計画し仮の咬合面(仮歯、仮義歯、スプリント等)を構成して、その噛み合わせが障害を生じさせないかを一定期間様子を見る。噛み合わせの問題が解消して問題が生じないことを確認できてから、その噛み合わせ状態を崩さないようにブリッジ義歯を装着する。

臼歯無咬合[編集]

 この不正咬合は、噛み込んだときに前歯だけが接触して臼歯が接触しない状態である。この不正咬合は、臼歯のみのスプリントを長期間装着して前歯が伸び出てきたときに成立するとされている。あるいは、不用意に臼歯の噛み合わせ面を削ることによっても成立する。この不正咬合が存在すると、噛み込むことにより、下顎が後方に動く力を受ける。下顎が後方に動く力を慢性的に受けることにより、顎関節は重篤な障害を受ける。この不正咬合は、顎関節円板前方転位の原因の一つとされている。

自覚症状[編集]

 臼歯で食物をすりつぶしにくくなる。  顎関節の症状としては、顎関節部に限局した疼痛や開口障害がある。症状がある日突然出現するのが特徴である。しかも、症状が徐々に進行するのではなく、階段状に悪化する。

自己分析[編集]

 臼歯に紙片を置いて噛み込み、紙片を引き抜くことが可能かどうかをチェックする。この不正咬合が存在すると、紙片を抵抗なく引き抜くことができる。

咬合理論による解説[編集]

 上顎前歯舌面に下顎前歯切縁が接触している(通常の前歯噛み合わせ)状態においてこの不正咬合が存在すると、噛み込むことにより、下顎は後方に移動する力を受ける。下顎が後方移動する力を受けると、下顎頭が顎関節の円板後部組織を圧迫することになる。円板後部組織は、血管に富む結合組織なので、慢性的圧力を受けると容易に障害を受ける。円板後部組織は関節円板が前方にずれすぎないように後方から支えている機能を持っているため、円板後部組織がその機能を失うと、関節円板は正常な位置を維持できなくなり前方に転位する。図64

Sotokawazu64.jpg

治療方法[編集]

 最初に関節円板を元の状態に戻す必要がある。  左右の顎関節が元の状態を回復した後、本来の噛み合わせの高さと咬合状態を回復することが治療目標となる。具体的には、噛み合わせが高すぎる場合、臼歯が接触するまで提出した前歯を削る。さらに、下顎が後方にずれないように安定した噛み合わせを全体的に構成する。噛み合わせが低い場合、臼歯に冠を装着して噛み合わせを構成する。そのとき、前歯と臼歯が調和するように全体的に噛み合わせを構成する必要がある。関節円板を元の状態に回復することができない場合、その状態で安定する噛み合わせを構成する。この治療に際しては、高度な咬合理論に基づいて治療方針を設定する必要がある。

参考文献[編集]

関連項目[編集]