フシナシミドロ

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フシナシミドロ
Vaucheria sp thallus branch.jpg
Vaucheria spフシナシミドロの1種(淡水産)
分類
ドメ
イン
: 真核生物 Eukaryota
階級なし : SAR Sar
階級なし : ストラメノパイル Stramenopiles
: 黄緑藻綱 Xanthophyceae
Allorge ex Fritsch
: フシナシミドロ目 Vaucheriales
: フシナシミドロ科 Vaucheriaceae
: フシナシミドロ属 Vaucheria
学名
Vaucheria De Candolle
和名
フシナシミドロ属

フシナシミドロ Vaucheria は、黄緑藻に属する糸状藻類の一つ。枝分かれした細長い藻体には隔壁が無い。

形態[編集]

まばらに分枝を持つ、不規則な分枝のある糸状体になる。細長い藻体にはしきりが無く、多核体となっている。糸状体の径は60-90μm、細胞壁は硬くて変形しない。手で触れるとごわごわした感触がある。細胞壁の内側には一面に葉緑体が並んでいる。葉緑体は長さ4-5μm、幅3-4μm。岩やコンクリート壁などに、しっかりと張り付いているのが普通である[1]。黄緑藻とはいうが、色はアオミドロなどとさほど変わらない緑色である。

藻体の成長は先端部に限定されている、いわゆる先端成長が行われる。先端部の構造は先端成長をする細胞、例えば毛根花粉管菌糸と類似する。それ以降の部分では、細長く延々と続く液胞がその中央を占めている[2]

生殖[編集]

無性生殖[編集]

無性生殖・上が集合性遊走子

無性生殖として、遊走子形成を行う。糸状体の先端に仕切を生じ、先端側が遊走子嚢となる。この内部の細胞質が大きな1個の遊走子となる。この遊走子は遊走子嚢を出て泳いだ後、他物に付着し、成長して新たな糸状体となる[3]。遊走子も多核で、表面には2本一組の鞭毛が多数あり、これを集合性遊走子(synzoospore)という。集合性遊走子は直径150μm、長さ200μmに達する巨大なもので、表面の鞭毛はほぼ等長で装飾を持たず、また内部には葉緑体を多数含んでいる[4]

有性生殖[編集]

有性生殖
有性生殖器官
両側に生卵器、先端に空洞になった造精器
上記田辺産のもの

有性生殖は分枝した藻体の一部、あるいは全部が生卵器造精器に変わり、造精器で形成された精子が泳ぎ出て生卵器に入り、そこに形成された卵細胞受精することで行われる[5]。造精器と生卵器は藻体の上でごく接近して作られ、造精器は細長く伸びた枝の先が分割され、その内部が多数に分かれて精子を作る。生卵器は内部に多数の核を含むが、そのうち1個だけが残り、それが卵核となる[6]。それらの形は、例えば V. repens では生卵器は半球形から楕円形で柄がなくて藻体に直接につき、造精器は短い柄の先について鉤状に曲がった円筒形、先端に丸い出口が出来る[7]。精子は側面から2本の鞭毛を出し、それらは前後に分かれて伸びる。これは不等毛類の鞭毛としては標準に近いが、普通は前鞭毛が長いのに対し、本属では後鞭毛の方が長い。また葉緑体が退化する[8]

なお、培養下で有性生殖を誘引するには培養液に砂糖を加え、長日条件下におくと、2週間ほどで最初の造精器が形成される[9]

生態[編集]

淡水産が多いが、産種もある。また湿った地上に出るものもある。湿地渓流や湿った岩の上に生じて緑色の絨毯のような姿になることが多い[10]。 やや低温を好み、オーストリアでの観察では冬から春には緑のマットをよく形成するが、夏季にはそれらの多くが見られなくなるという[11]

分類[編集]

世界で70近い種が記録されている。分類は主として形態的な特徴で行われてきた。造精器の構造によって幾つかの節に分けられた。似た種の間には特徴の重複があるので同定が困難との指摘がなされたこともあるが、数多くの変種や亜種が記載されてもいる。系統的な研究も行われつつあり、少なくとも一つの生殖枝に生卵器と造精器をまとめて形成する群については単系統との判断が出ている。他方でこれまでの分類の問題点も明らかになりつつあり、形態的には区別出来ない隠蔽種の存在も指摘されている[12]

学名のVaucheriaは、スイスの藻類学者、ジャン=ピエール・ヴォーシェ(Jean-Pierre Étienne Vaucher)に献名されたものである。

出典[編集]

  1. ^ 月井(2010),p.108
  2. ^ Otto & Brown(1974)
  3. ^ 月井(2010),p.108
  4. ^ 岩槻・馬渡監修(1999),p.224
  5. ^ 月井(2010),p.108
  6. ^ 上野編(1973)p.96
  7. ^ 山岸(1998)p.52
  8. ^ 岩槻・馬渡監修(1999),p.224
  9. ^ Schagerl & Kerschbaumer(2009)
  10. ^ 上野編(1973)p.96
  11. ^ Schagerl & Kerschbaumer(2009)
  12. ^ Schagerl & Kerschbaumer(2009)

参考文献[編集]

  • 月井雄二、『原生生物 ビジュアルガイドブック 淡水微生物図鑑』、(2010)、誠文堂新光社
  • 岩槻邦男・馬渡峻輔監修『藻類の多様性と系統』,(1999),裳華房
  • 山岸高旺、『淡水藻類写真集ガイドブック』、(1998)、内田老鶴圃
  • 上野益三編、『日本淡水生物学』、(1973)、図鑑の北隆館
  • M. Shagerl & M. Kershbaumer 2009, Autecology and morphology of selected Vaucheria species (Xanthophyceae). Aquat Ecol, 43:pp.295-303
  • D. W. Ott & R. M. Brown Jr. 1974. Developmental Cytology of the genus Vaucheria I. Organistion of the Vegetative Filament. Br. phycol. 9.pp.111-126.