ピランテル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
パモ酸ピランテルから転送)
ピランテル
IUPAC命名法による物質名
識別
PubChem CID: 708857
UNII 4QIH0N49E7 チェック
KEGG D08451  チェック
ChEBI CHEBI:8654 ×
ChEMBL CHEMBL1626223 ×
化学的データ
化学式C11H14N2S
分子量206.31 g·mol−1
テンプレートを表示

ピランテル(Pyrantel)とは抗線虫作用を有するチオフェンの一つである。ピランテルは脱分極性神経筋遮断によって感受性寄生虫の組織を麻痺させることにより駆虫作用を示す[1]。ヒトでは回虫鉤虫蟯虫東洋毛様線虫の駆虫薬として承認されている[2]。イヌでは犬回虫犬小回虫犬鉤虫胃蠕虫などに、ウマでは普通円虫馬円虫馬回虫などに効果があるとされる[3]他、ウシ、ヒツジ、ブタ、ネコ等でも鉤虫、回虫の駆除に用いられる。イヌのフィラリア予防のために毎月投与する場合もある。商品名コンバントリン

日本薬局方には「ピランテルパモ酸塩」、米国薬局方英語版では“Pyrantel pamoate”、欧州薬局方英語版では“'Pyrantel embonate”と記載されているが、全て同じ物質を指す。

ピランテルのメチル誘導体であるモランテルも同様に駆虫作用を示す。1回の服薬で完全に駆虫することを目的に、ピランテルとプラジカンテルとの組み合わせがサナダムシに、フェバンテルとの組み合わせがしばしば鞭虫に使用される。

WHO必須医薬品モデル・リストに収載されている[4]

禁忌[編集]

製剤成分に過敏症の既往を有する患者のほか、ピペラジン系駆虫薬を投与中の患者では両剤の駆虫作用が減弱するおそれがあるので禁忌とされている[2]

安全性[編集]

ピランテルはヒトでの米国胎児危険度分類はCであり、日本の添付文書にも「妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する事。」と記載されているが、イヌやネコに用いる場合にはカテゴリーAであり、妊娠中の動物に対する安全性は高いと考えられている[5]

作用機序[編集]

ピランテルの回虫の体壁筋に対する作用が研究されて来た[6]。ピランテルはニコチン受容体作動薬である[7][8]脱分極性神経筋遮断薬 として作用するので、レバミゾールやモランテルと同様に寄生虫の体壁アセチルコリンニコチン受容体に作用して興奮させ、痙攣と続発性麻痺を惹起する。その結果、寄生虫は宿主の腸壁に“引っ掛かる”事ができなくなり、腸管から排出される。ピランテルは宿主の消化管からはほとんど吸収されず、少量では宿主は影響を受けない。多量の寄生虫が存在すると、駆虫薬投与の結果、完全腸閉塞が起こる可能性がある[9]。この閉塞は通常虫体の嵌入によるものである。小動物に大量に寄生されていた場合は一度に多量の虫体を排出しようとするので発生し易い。虫体は通常の便、下痢、硬便、時に嘔吐で排出される。

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ 吐山豊秋『新編家畜薬理学 改訂版』養賢堂、1994年。ISBN 4842594047 
  2. ^ a b コンバントリン錠100mg 添付文書” (2009年9月). 2016年4月25日閲覧。
  3. ^ Donald C. Plumb、佐藤宏他監訳『プラム 動物用医薬品ハンドブック 原書第3版』ワハ、2003年。 
  4. ^ WHO Model List of EssentialMedicines”. World Health Organization (2013年10月). 2014年4月22日閲覧。
  5. ^ Plumb, D. C. (2005). Plumb's veterinary drug handbook. Stockholm, Wis: PharmaVet. ISBN 0-8138-0518-X 
  6. ^ Martin RJ, Verma S, Levandoski M, Clark CL, Qian H, Stewart M et al. (2005). “Drug resistance and neurotransmitter receptors of nematodes: recent studies on the mode of action of levamisole.”. Parasitology 131 Suppl: S71-84. doi:10.1017/S0031182005008668. PMID 16569294. http://journals.cambridge.org/action/displayAbstract?fromPage=online&aid=420271&fulltextType=RA&fileId=S0031182005008668. 
  7. ^ Aceves J, Erlij D, Martínez-Marañón R (1970). “The mechanism of the paralysing action of tetramisole on Ascaris somatic muscle.”. Br J Pharmacol 38 (3): 602-7. doi:10.1111/j.1476-5381.1970.tb10601.x. PMC 1702578. PMID 5445688. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1476-5381.1970.tb10601.x/abstract. 
  8. ^ Aubry ML, Cowell P, Davey MJ, Shevde S (1970). “Aspects of the pharmacology of a new anthelmintic: pyrantel.”. Br J Pharmacol 38 (2): 332-44. doi:10.1111/j.1476-5381.1970.tb08521.x. PMC 1702778. PMID 5417856. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1476-5381.1970.tb08521.x/abstract. 
  9. ^ Salman, A. B. (1997). “Management of intestinal obstruction caused by ascariasis”. Journal of Pediatric Surgery 32 (4): 585–587. doi:10.1016/S0022-3468(97)90712-0. PMID 9126759.