ナツノハナワラビ

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ナツノハナワラビ
分類
: 植物界 Plantae
: シダ植物門 Pteridophyta
: マツバランPsilotopsida
: ハナヤスリ目 Ophioglossales
: ハナヤスリ科 Ophioglossaceae
: ハナワラビ属 Botrychium
: ナツノハナワラビ B. virginianum
学名
Botrychium virginianum (L.) Sw.
和名
ナツノハナワラビ
図版

ナツノハナワラビ Botrychium virginianum (L.) Sw. はハナヤスリ科に属するシダ植物の1つ。長い茎の先に羽状複葉の栄養葉とやはり羽状に枝を出す胞子葉をセットにつける。胞子葉を初夏に出す。

特徴[編集]

夏緑性の草本[1]根茎は短くて肉質で円柱形をなし、そこから多肉質を多数、らせん状に出す。は年に1枚ずつ出る。葉はまず単一の茎があり(担葉体)、その先端が分岐して栄養葉と胞子葉となっている。この全体の大きさは25-70cmに達する。そのうちで担葉体は長さ15-35cm、葉全体の長さのほぼ半分に達し、ほとんど無毛で基部に口を開いているところがある。

栄養葉は担葉体との間に柄を持っておらず、水平に広がり、3-4回羽状複葉気味に裂けているが、最下の羽片がよく発達するので3出複葉にも見える。全体としては幅広い5角形をしており、先端は鈍く、あるいは鋭く尖り、基部は断ちきった形かやや心形にくぼみ、長さ5-28cm、幅7-30cm。葉質は薄くて柔らかい草質で淡い浅緑色をしており、裏面の中肋にはその上に白い毛がある。羽片は広卵形で、基部の小羽片は小さい。大きい小羽片は長楕円形から卵状披針形で、裂片は楕円形から長楕円形で先端は細く突き出して尖り、縁は深く裂けるかはっきりした鋸歯がある。

胞子葉は上向きに直立し、10-30cmの柄の上について3-4回羽状に分枝し、全体としては卵状3角形の円錐花序の形となってその長さは10-20cm。羽片には柄がある。

和名は『夏の花蕨』で5-6月に胞子穂を出すことによる[2]

分布と生育環境[編集]

日本では北海道本州四国九州から知られ、国外ではロシア朝鮮中国南アジアヨーロッパ北アメリカから中南米にまで分布域がある[3]

山地森林内の林床に生える[4]

分類など[編集]

本種はハナワラビ属の特徴を持つが、日本の他の種と較べると担葉体が長くて栄養葉を地表から離れた場所に出し、夏緑性であることなどで独特であり[5]、そのような点で共通するナガホナツノハナワラビ B. strictum と共にナツノハナワラビ亜属 subgen. Osmundopteris とすることが従来から行われており、またこれらを属として独立させる考えもある。ただ、系統の分析ではこの2種が側系統であるとの判断があるとのことで、今後の検討が待たれる[3]

ナガホナツノハナワラビは本種とよく似ているが胞子葉が2回羽状までしか分裂せず、また羽片の長さも短いために全体に細長い形を取る。和名からすると胞子葉が長いかのようであるが、長さはさほど変わらず、細い形になっていることになる。他に栄養葉の小羽片が無柄などの違いもある。分布域は日本国外では朝鮮、中国のみだが国内では本種と同じで、本種よりは稀である[4]

利害[編集]

その姿はなかなかに美しく、岩槻編(1992)ではあえて冒頭に『美麗な草本』と記してあるほどで、そのためにアメリカなどでは栽培されていると言い、特に芽立ちの良さが愛でられているという[6]。ただし日本ではそのような利用は稀で、むしろフユノハナワラビの方がより頻繁に山野草として栽培される[7]

また中国では解毒などの薬用に用いられ、湖北省ではそのために栽培もされる[4]

出典[編集]

  1. ^ 以下、主として岩槻編(1992),p.69
  2. ^ 牧野原著(2017),p.1261
  3. ^ a b 海老原(2016)p.290
  4. ^ a b c 岩槻編(1992),p.69
  5. ^ 池畑(2006),p.30
  6. ^ 引用とも岩槻編(1992),p.69
  7. ^ google検索で見てもこれはよく分かる。フユノハナワラビを検索語として入力すると補助キーワードとして『育て方』が真っ先に出るが、本種の名を入れても何も出てこない。

参考文献[編集]

  • 岩槻邦男編、『日本の野生植物 シダ』、(1992)、平凡社
  • 海老原淳、『日本産シダ植物標準図鑑 I』,(2016)、学研プラス
  • 牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』、(2017)、北隆館
  • 池端怜伸、『写真でわかるシダ図鑑』、(2006)、トンボ出版