タケ亜科
| タケ亜科 | |||||||||||||||||||||
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| 分類 | |||||||||||||||||||||
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| 学名 | |||||||||||||||||||||
| Bambusoideae Luerss. | |||||||||||||||||||||
| 和名 | |||||||||||||||||||||
| タケ亜科 | |||||||||||||||||||||
| 英名 | |||||||||||||||||||||
| bamboo(広義) | |||||||||||||||||||||
| 連 | |||||||||||||||||||||
タケ亜科(タケあか、Bambusoideae)は、イネ科 Poaceae に属する亜科の一つであり、一般にタケ・ササ類と呼ばれる植物を含む[3][4]。
2020年の報告では、タケ亜科には全世界で127属約1,700種が含まれるとされる[5]。日本産のものについて、小林(2017)は14属131分類群(99種20変種8亜種1雑種3複合体)を認めている[6]。
タケ亜科を構成する植物は、木質化した稈(かん)をもつ「木本性タケ類」と、稈が強く木質化しない「草本性タケ類」に大別される[1]。現在の分類では、タケ亜科は温帯性木本タケ類の Arundinarieae、熱帯性木本タケ類の Bambuseae、草本性タケ類の Olyreae の3連に分けられる[1][2]。(詳細は#タケ亜科内の3連分類)
日本では、木本性タケ類のうち、大型で稈鞘が早く脱落するものを「タケ」、比較的小型で稈鞘が長く残るものを「ササ」と区別される[7]。(詳細は#タケ・ササの区分)
英語では、狭義のタケ亜科の植物は bamboos と総称されることが多い。
特徴
[編集]形態
[編集]タケ亜科の植物は、イネ科植物としての基本的な構造をもち、節と節間をもつ稈、葉鞘、葉身、小穂などを備える[7][4]。木本性タケ類では稈が強く木質化し、多くの種で地下茎から多数の稈を出して群落を形成する[4]。ただし、木本性タケ類の稈は木質化するものの、一般的な木本植物のような形成層による二次肥大成長は行わない[4]。
タケ類では開花資料が得にくいことが多いため、花や果実だけでなく、稈、枝、葉、地下茎、稈鞘などの栄養器官も分類上重要な形質として用いられてきた[8]。
葉の構造
[編集]タケ亜科は、葉の内部構造によって他のイネ科植物と区別されることがある[4]。とくに葉肉内に見られる紡錘状細胞(fusoid cells)などは、タケ亜科に特徴的な構造として知られる[4]。
開花と生活史
[編集]タケ亜科の生活史、すなわち発芽から成長、開花、結実、枯死または更新に至る過程は、系統や種によって大きく異なる。木本性タケ類には、長い栄養成長期間の後に開花する種が多く、一部では広い範囲の個体群が同調して開花する一斉開花が知られている[4]。一方で、毎年または比較的短い周期で開花するものもあり、タケ亜科全体を一律の開花周期で説明することはできない[4]。
分布と生育環境
[編集]
タケ亜科は、世界の熱帯から温帯にかけて広く分布する。生育環境は多様で、熱帯林や温帯林の林床・林縁、山地、渓谷、河畔、草地、二次林などに見られる[4]。木本性タケ類では、地下茎によって群落を形成するものが多く、森林の林床や林縁で優占的な群落をつくる場合がある[4]。
分布の中心や生育環境は系統によって異なる。温帯性木本タケ類は東アジアやヒマラヤ周辺などの温帯・山地地域で多様化し、熱帯性木本タケ類は熱帯から亜熱帯に多い[1][2]。草本性タケ類は、主に熱帯林の林床に生育する[4]。
日本では、自然分布または古くから利用されてきたタケ・ササ類の大部分が温帯性木本タケ類に属する[7]。一方、熱帯性木本タケ類については、九州南部などで導入・植栽利用されるものがある[9]。このように、日本のタケ・ササ類相は、世界的なタケ亜科全体の分布の中では、温帯性木本タケ類を中心とする地域的な一部として位置づけられる。
イネ科内の位置づけ
[編集]タケ亜科は、イネ科 Poaceae の主要系統の一つである BOP clade に含まれる[10][11]。BOP clade は、タケ亜科 Bambusoideae、イネ亜科 Oryzoideae、イチゴツナギ亜科 Pooideae からなる系統であり、BOP はその頭文字である[10][11]。Oryzoideae は Ehrhartoideae と呼ばれることもあるため、BEP clade とも呼ばれる[10][11]。
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タケ亜科内の3連分類
[編集]現在の分類では、タケ亜科 Bambusoideae は、
- 温帯性木本タケ類 Arundinarieae(アルンディナリア連・メダケ連)
- 熱帯性木本タケ類 Bambuseae(バンブーサ連・ホウライチク連)
- 草本性タケ類 Olyreae(オリラ連)
日本語文献では、連の和名に複数の表記がみられる。小林幹夫『日本のタケ亜科植物』では Arundinarieae に「アルンディナリア連」、Bambuseae に「バンブーサ連」が用いられている[7]。『改訂新版 日本の野生植物 2』ではそれぞれ「メダケ連」「ホウライチク連」が用いられている[12]。
| 連 | 和名 | 性質 | 主な分布 | 概要 |
|---|---|---|---|---|
| Arundinarieae | アルンディナリア連・メダケ連 | 温帯性木本タケ類 | 東アジア、ヒマラヤ、北アメリカなど | 日本のタケ・ササ類の大部分を含む。 |
| Bambuseae | バンブーサ連・ホウライチク連 | 熱帯性木本タケ類 | 熱帯・亜熱帯地域 | ホウライチク属、マチク属、Guadua などを含む。 |
| Olyreae | オリラ連 | 草本性タケ類 | 主に熱帯域 | 主に林床などに生育し、稈は強く木質化しない。 |
- アルンディナリア連(温帯性木本タケ類)の Arundinaria gigantea
- バンブーサ連(熱帯性木本タケ類)の Bambusa vulgaris
- オリラ連(草本性タケ類)の Olyra latifolia
アルンディナリア連・メダケ連
[編集]アルンディナリア連 Arundinarieae は、温帯性木本タケ類にあたる連である[1]。分布の中心は東アジアにあり、中国、日本、朝鮮半島、台湾、ヒマラヤ周辺から中国西南部にかけて多様な属や種が見られる[1][4]。また、連名の由来となった属 Arundinaria が北アメリカに分布し、アフリカの山地にも一部の属が知られる[1][11]。
東アジアでは、アルンディナリア連は温帯林・暖温帯林・山地林の林床や林縁に多く、地下茎によって広がる群落を形成するものが多い。日本では、北海道から本州、四国、九州、琉球列島にかけて、ササ類、マダケ類など多様なタケ・ササ類が分布する[13][7]。日本でタケ・ササ類として扱われる植物の大部分はこの連に含まれ、マダケ属 Phyllostachys、メダケ属 Pleioblastus、ヤダケ属 Pseudosasa、ササ属 Sasa、スズタケ属 Sasamorpha などが知られる[1][7]。
日本列島では、ササ属やスズタケ属などが冷温帯から亜高山帯の林床に広く見られる一方、メダケ属、ヤダケ属、マダケ属などは暖温帯から温帯域に多い[13][7]。このため、アルンディナリア連は日本の森林植生や里山景観を構成する重要なタケ・ササ類を多く含む連である。
Arundinarieae という名は属名 Arundinaria に由来し[1]、日本語ではアルンディナリア連のほか「メダケ連」とも呼ばれる。これは、かつて日本のササ類・メダケ類を含む広い範囲の温帯性木本タケ類が広義の Arundinaria に含められ、その Arundinaria が「メダケ属」と呼ばれていたことによる[14][15]。その後、日本のタケ・ササ類は Arundinaria から分離され、現在の Arundinaria は主に北アメリカ産の少数種を含む属である[1][7](詳細は分類史/20世紀前半を参照)。そのため、現在では Arundinaria とメダケは別属であるにもかかわらず、Arundinarieae の和名に「メダケ連」が用いられている。
バンブーサ連・ホウライチク連
[編集]バンブーサ連 Bambuseae は、熱帯性木本タケ類にあたる連である[1]。主に熱帯・亜熱帯地域に分布し、アジア、アフリカ、マダガスカル、太平洋諸島などに分布する系統と、中南米を中心に分布する系統を含む[2]。アジア・アフリカなどに分布する群では、東南アジア、南アジア、中国南部、マレーシア、インドネシア、アフリカ、マダガスカル、太平洋諸島などに見られ、中南米を中心とする群では、中央アメリカ、南アメリカ、カリブ海地域などに分布する[1][4]。
アジア・アフリカなどのバンブーサ連には、ホウライチク属 Bambusa、マチク属 Dendrocalamus、Gigantochloa、Schizostachyum など、大型の稈をもつ属が多く含まれる[1]。これらは熱帯・亜熱帯の森林、林縁、河畔、集落周辺などに生育し、建築材、器具材、食用筍などとして利用される種も多い[4]。
中南米を中心とするバンブーサ連には、Guadua、Chusquea などが含まれる[1][2]。Guadua は中南米の低地から山地にかけて分布し、しばしば大型の木本性タケ類として目立つ群落を形成する。一方、Chusquea は中南米の山地にも多く、熱帯性木本タケ類でありながら比較的標高が高い地域に分布する種を含む[4]。
日本では、九州南部を中心に、台湾・中国南部・東南アジアから導入されたホウライチク属 Bambusa とマチク属 Dendrocalamus の2属が植栽利用されている[9]。
Bambuseae という名は属名 Bambusa に由来する[1]。Bambusa は日本語ではホウライチク属と呼ばれるため、Bambuseae は「ホウライチク連」とも訳される[12]。一方で、Bambuseae は「タケ連」と訳されることもあるが、かつて木本性タケ類全体を広義の Bambuseae とした用法とは範囲が異なる[16][1]。
オリラ連
[編集]オリラ連 Olyreae は、草本性タケ類にあたる連である[1]。Olyreae は、Arundinarieae や Bambuseae と異なり、稈が強く木質化しない草本性のタケ類を含む[1]。主に新熱帯区、すなわち中南米およびカリブ海地域に分布する[4][11]。例外的に、Olyra latifolia は熱帯アメリカのほかアフリカ・マダガスカルにも分布し、Buergersiochloa bambusoides はニューギニア島に分布する[4][11]。Olyreae は、木本性タケ類との比較を通じて、タケ亜科における木本性、草本性、開花様式、生活史の進化を考えるうえで重要な系統である[2]。
下位分類
[編集]Bamboo Phylogeny Group (2012) は、タケ亜科 Bambusoideae を Olyreae、Bambuseae、Arundinarieae の3連に分け、Olyreae と Bambuseae には亜連を置いた[1]。一方、Arundinarieae については、Bamboo Phylogeny Group (2012) では亜連を置かず、属を列挙する扱いが採られた[1]。その後、Arundinarieae の内部分類については再検討が進み、Zhang et al. (2020) は5亜連を認める分類を提案した[17]。
以下に、タケ亜科の3連と主な下位分類・属を示す[1][17][11]。Arundinarieae の亜連は Zhang et al. (2020) による5亜連分類に基づく[17]。Bambuseae および Olyreae の亜連は主に Bamboo Phylogeny Group (2012) に基づき、属の範囲はその後の更新を含む[1][11]。属の和名は、日本語文献・日本語植物名データベース類で確認できるものに限って示す[13][7]。代表種・備考欄の種名は例示であり、各属の種を網羅するものではない。
| Olyreae オリラ連(草本性タケ類) | |||
|---|---|---|---|
| 亜連 | 属 | 和名 | 代表種・備考 |
| Buergersiochloinae | Buergersiochloa | ||
| Olyrinae | Agnesia | ||
| Arberella | |||
| Brasilochloa | |||
| Cryptochloa | |||
| Diandrolyra | |||
| Ekmanochloa | |||
| Froesiochloa | |||
| Lithachne | |||
| Maclurolyra | |||
| Mniochloa | |||
| Olyra | オリラ属 | Olyra latifolia。連名 Olyreae の基準となる属。 | |
| Parodiolyra | |||
| Piresiella | |||
| Raddia | |||
| Raddiella | |||
| Rehia | |||
| Reitzia | |||
| Sucrea | |||
| Parianinae | Eremitis | ||
| Pariana | |||
| Parianella | |||
日本における分類体系
[編集]日本のタケ・ササ類文献では、国際的な分子系統分類とは別に、独自の分類体系が用いられることがある。
タケ科の独立
[編集]日本では、中井猛之進が1933年に、花の構造および解剖学的特徴から、タケ・ササ類をイネ科から分け、独立したタケ科として扱う分類を提唱した[18]。中井は、稈の木質化、葉身と葉鞘の間の関節、肩毛、小穂・小花各部の離脱位置、果実の成熟様式、種子のデンプン粒などを、一般のイネ科植物との区別点に挙げた[18]。
中井のタケ科独立説は、本田正次、室井綽、鈴木貞雄らに継承された[19]。室井は、葉の関節と肩毛、稈の木質化と中空構造、開花様式、成長形式などを、タケ・ササ類と一般のイネ科植物を区別する特徴として整理した[20]。鈴木は『日本タケ科植物総目録』において、タケ・ササ類をイネ科内の亜科ではなく独立したタケ科として扱い、日本産分類群を整理した[21]。
タケ科独立説とタケ亜科説の相違は、タケ類とイネ科との類縁の有無ではなく、その形態的な差異をどの分類階級で表すかにあった。花や小穂などの生殖器官の基本構造を重視する体系ではイネ科タケ亜科とされる一方、タケ科独立説では、木質化した稈、地下茎、分枝、稈鞘、葉、成長・開花様式など、栄養器官と生活形の特殊性が重視された[19]。
タケ・ササの区分
[編集]日本で現在広く用いられている稈鞘の宿存性によるタケとササの区別は、室井綽によって1937年に提唱されたものである[22][23]。室井は1956年の著書『竹と笹』において、1937年に刊行された『兵庫県博物学会会誌』第13号に、次のような定義を発表したと説明している[22]。
マダケ、ハチクのように竹の皮が成長後、脱落するものを竹といい、クマザサ、チマキザサ、メダケ、ヤダケのように竹の皮が腐るまで脱落しないものを笹と呼ぶ。
小林幹夫『日本のタケ亜科植物』では、タケ類とササ類の区別をもとに、アルンディナリア連の下に「タケ亜連」「ササ亜連」を置く分類体系を採用している[7]。この分類は、日本産タケ・ササ類の形態的特徴や慣用的区別を反映したものであり、Zhang et al. (2020) が分子系統解析に基づいて提案した Arundinarieae の5亜連分類(後述)とは別の体系である[7][17]。
スズザサ属の扱い
[編集]スズザサ属 Neosasamorpha は、日本の分類体系ではササ属 Sasa とスズタケ属 Sasamorpha の中間的な形態を示す属として扱われている。1940年に舘脇操が新設し、この群が両属の中間的形態を示し、両属の分布域内に生育することなどから、両属間の交雑に由来する可能性を想定した[24]。鈴木貞雄は1989年に本属を再検討し、従来記載されていた分類群を整理するとともに、新たな組合せを発表した[25]。
小林は、母稈の稈鞘が新しい枝を包むように移る「移譲的分枝様式」を、日本産ササ類の属を区別する形質として重視した。この分枝様式はスズタケ属、スズザサ属およびアズマザサ属 Sasaella の一部に見られる一方、ササ属には基本的に見られない[26]。スズザサ属はさらに、放射状に開出し、全長にわたってざらつく「ササ型肩毛」を備えることにより、肩毛を欠くスズタケ属や、肩毛の形態が異なるアズマザサ属から区別される[27]。小林(2017)はこの形態分類に基づき、本属に9種8亜種を認めた[28]。アキウネマガリについても、基準標本と自生個体に移譲的分枝様式とササ型肩毛の組合せが認められることから、鈴木が記載した Sasa suzukii var. akiuensis を独立種 Neosasamorpha akiuensis として本属へ移した[27]。
一方、スズザサ属は国際的な分類で独立属として一様に認められているわけではない。Plants of the World Online は Neosasamorpha をササ属の異名(シノニム)として扱っている[29]。したがって、本属は日本の鈴木・小林系の形態分類では認められる一方、国際的な分類ではササ属に含められることがある。
小林(2017)による日本のタケ亜科植物
[編集]小林(2017)は、日本に自生または栽培されるタケ・ササ類を14属に分類し、99種20変種8亜種1雑種3複合体、計131分類群を認めた[6]。以下の表は同書の分類体系を示す。小林が用いるタケ亜連・ササ亜連は、室井の提唱したタケ・ササの区別に基づいており、分子系統解析に基づくアルンディナリア連の亜連分類とは範囲が異なる。スズザサ属もPlants of the World Onlineではササ属の異名として扱われている[17][29]。
分類史
[編集]タケ亜科 Bambusoideae の分類史は、木本タケ類を中心とする古典的分類から、広義の森林性イネ科群としての Bambusoideae、さらに分子系統に基づく狭義の Bambusoideae へ移行してきた過程として整理できる[3][1]。
19世紀:木本タケ類を中心とする分類
[編集]19世紀のタケ類分類では、現在のような狭義のタケ亜科 Bambusoideae というまとまりよりも、ホウライチク属 Bambusa、Arundinaria、Chusquea などの属や、木本タケ類全体をどう区分するかが中心であった[30]。Munro は1868年に、当時知られていた木本タケ類を世界的に整理し、170種・21属を扱った[30]。Munro はこれらを Triglossae または Arundinarieae、Bambuseae verae、Bacciferae の3区分に分けた[30]。
- Munro (1868) の木本タケ類
- Triglossae または Arundinarieae
- Bambuseae verae
- Bacciferae
Munro の分類では草本性タケ類は扱われず、この段階での「タケ類」はほぼ木本タケ類を意味していた[30]。タケ類は開花周期が長く、分類に必要な花や果実の標本が得にくいため、この時期の属や群の境界は流動的であった[4][31]。
20世紀前半:地域分類と広義の Arundinaria の解体
[編集]20世紀前半には、日本、中国、インド、東南アジア、中南米などで地域ごとのタケ類分類が進んだ[4]。日本では、中井猛之進らにより新属や新種が記載され、東アジアの温帯性木本タケ類の分類が細分化されていった[4][7]。広義の Arundinaria に入れられていた日本産のササ類・メダケ類は、ササ属 Sasa、ヤダケ属 Pseudosasa、メダケ属 Pleioblastus、アズマザサ属 Sasaella、スズタケ属 Sasamorpha などに分けられていった[14][7]。鈴木貞雄『日本タケ科植物総目録』は、日本産タケ・ササ類が広義の Arundinaria から複数属へ分割されていく経過を次のように整理している[14]。
- 1803 旧来の広義 Arundinaria
- 1901 ササ属 Sasa
- 1931 スズタケ属 Sasamorpha
- 1925 ヤダケ属 Pseudosasa
- 1925 メダケ属 Pleioblastus
- 1929 アズマザサ属 Sasaella
- Arundinaria 現在は主に北アメリカ産タケ類を含む属
- 1901 ササ属 Sasa
この段階で重要なのは、Arundinaria が現在の狭義の北米産タケ類の属ではなく、東アジアの温帯性木本タケ類を広く含む受け皿として使われていたことである[1][7]。現在の分類では、Arundinaria は主に北アメリカ産の少数種が属する。
1950–1980年代:形態・解剖に基づく分類の整理
[編集]1950年代から1980年代にかけては、分子系統解析が普及する以前であり、タケ類の分類は主に形態と解剖に基づいて整理された[32][8][31]。この時期の重要な点は、現在のような分子系統に基づく3連分類が成立したことではなく、分類に用いる形質の範囲が広げられたことである[8][31]。
Holttum は1956年に、花序、小穂、子房、果実などを重視し、タケ類の自然分類を試みた[32]。この研究は、花部形質に基づいてタケ類の分類を整理しようとした包括的な試みの一つであった[32]。
McClure は1966年に、花部形質だけでなく、稈、枝、葉、地下茎などの栄養器官も分類に用いるべきだとした[8]。タケ類は開花周期が長く、花や果実を観察できる機会が限られるため、栄養器官を分類形質として重視する考え方は、タケ分類にとって大きな意味をもった[8]。
Calderón and Soderstrom は1980年に、タケ亜科 Bambusoideae の歴史、命名上の問題、草本性タケ類と木本性タケ類を区別する形質を整理した[31]。また、アメリカ大陸産のタケ亜科植物について、属の検索表と分類上のコメントを示した[31]。
この時期の分類は、現在の分子系統分類をそのまま反映するものではない。しかし、花部形質に偏りがちだったタケ分類に、稈、枝、葉、地下茎、葉の内部構造などを取り入れた点で、後の分子系統分類の前提となる形態学的整理を進めた段階と位置づけられる[4]。
1980–1990年代:広義 Bambusoideae の問題化
[編集]分子系統解析が本格化する以前、Bambusoideae は「多年生で森林性、幅広い偽葉柄をもつ葉、葉肉内の fusoid cells などをもつイネ科植物群」として広く考えられていた[4]。この広義の Bambusoideae には、木本タケ類に加えて、草本性の森林性イネ科群も含められていた[4][31]。しかし、DNA配列に基づく解析により、この広義の Bambusoideae は単系統群ではないことが示された[33][3][4]。その結果、現在の狭義の Bambusoideae は、木本タケ類と草本性タケ類を含む範囲に限定されるようになり、かつてタケ亜科に含められた一部の森林性イネ科群は、Anomochlooideae、Pharoideae、Puelioideae、Ehrhartoideae、Pooideae などへ移された[3][4]。
- 旧来の広義 Bambusoideae
- Bambusoideae sensu stricto
- 現在の狭義のタケ亜科。木本タケ類と草本性タケ類を含む。
- Anomochlooideae、Pharoideae、Puelioideae など
- 分子系統解析により、タケ亜科とは別の亜科として扱われるようになった系統。
- Ehrhartoideae、Pooideae など
- 旧来の広義タケ亜科から除外された系統。
- Bambusoideae sensu stricto
2001年前後:イネ科全体の分子系統分類への位置づけ
[編集]Grass Phylogeny Working Group(GPWG)は、イネ科全体の系統関係と亜科分類を分子系統解析に基づいて整理した共同研究グループである[3]。GPWG (2001) は、従来の形態形質に基づくイネ科分類を見直し、タケ亜科 Bambusoideae を、イネ亜科 Oryzoideae、イチゴツナギ亜科 Pooideae などとともにイネ科内の主要系統の一つとして位置づけた[3]。その後、GPWG II (2012) は、より多くの分子データに基づいてイネ科の深い系統関係を再検討し、BOP clade(BEP clade)と PACMAD clade などの大きな枠組みを整理した[10]。(系統図は#イネ科内の位置づけに掲載)
この整理により、タケ亜科 Bambusoideae は、イネ科 Poaceae 全体の分子系統分類の中で扱われるようになった[3][10]。
2000年代:広義 Bambuseae の再検討
[編集]かつて、稈が木質化するタケ類は広義の Bambuseae、すなわち広義のタケ連としてまとめられることがあった[16][1]。この広義の Bambuseae には、現在の分類で温帯性木本タケ類 Arundinarieae とされるものと、熱帯性木本タケ類 Bambuseae とされるものの双方が含まれていた[16][1]。
Sungkaew et al. (2009) は、5つの葉緑体DNA領域を用いた解析により、従来の広義の木本性タケ類 Bambuseae が単系統群ではないことを示した[16]。この解析では、温帯性木本タケ類 Arundinarieae が、熱帯性木本タケ類 Bambuseae および草本性タケ類 Olyreae からなる系統の外側に位置づけられた[16]。
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| (タケ亜科) |
この結果は、木本性タケ類全体を一つの連としてまとめる従来の扱いを見直す根拠となった。すなわち、稈が木質化するという特徴だけで Arundinarieae と Bambuseae をまとめると、Bambuseae に近縁な Olyreae を除外することになり、自然な分類単位にならない。このため、木本性タケ類を温帯性木本タケ類と熱帯性木本タケ類に分けて扱う方向が明確になった[16][1]。
2005–2013年:Bamboo Phylogeny Group と3連分類
[編集]2005年には、タケ亜科 Bambusoideae の系統と分類を国際的に整理するため、Bamboo Phylogeny Group が形成された[2][4]。Bamboo Phylogeny Group は、木本性タケ類と草本性タケ類を広く代表する材料を集め、葉緑体ゲノムの複数領域を用いて、タケ亜科全体の高次系統関係を検討した[2]。
Bamboo Phylogeny Group (2012) は、タケ亜科 Bambusoideae を、温帯性木本タケ類の Arundinarieae、熱帯性木本タケ類の Bambuseae、草本性タケ類の Olyreae の3連に分ける分類体系として整理した[1]。この分類では、Olyreae と Bambuseae には亜連が置かれた一方、Arundinarieae については亜連を置かず、属を列挙する扱いが採られた[1]。
Kelchner and Bamboo Phylogeny Group (2013) は、この3連分類をふまえ、葉緑体DNAに基づく系統解析において、温帯性木本タケ類、アジア・アフリカなどに分布する熱帯性木本タケ類、中南米を中心に分布する熱帯性木本タケ類、草本性タケ類という主要なまとまりを示した[2]。このうち、アジア・アフリカなどに分布する熱帯性木本タケ類と中南米を中心に分布する熱帯性木本タケ類は、分類上はいずれも Bambuseae に含まれる。
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| タケ亜科 |
これにより、2000年代の分子系統解析で問題化した広義 Bambuseae の扱いは、3連分類という高次分類の枠組みの中で整理された[1][2][4]。
2010年代以降:3連相互関係とゲノム間の不一致
[編集]3連分類は広く用いられるようになったが、Arundinarieae、Bambuseae、Olyreae の枝分かれ順序については、解析対象とするゲノムによって異なる結果が得られている[34]。葉緑体DNAまたは葉緑体ゲノムに基づく解析では、Sungkaew et al. (2009) や Kelchner and Bamboo Phylogeny Group (2013) が示したように、Arundinarieae が先に分岐し、Bambuseae と Olyreae が近縁になる関係が示される[16][2][34]。
| 葉緑体DNA・葉緑体ゲノムに基づく関係 |
| ||||||
一方、核ゲノムに基づく解析では、Olyreae が先に分岐し、Arundinarieae と Bambuseae からなる木本性タケ類のまとまりが支持されることがある[34]。
| 核ゲノムに基づく関係 |
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Chalopin et al. (2021) は、この不一致を、古い交雑、異質倍数化、偏ったゲノム分画化、二倍体化などと関連づけて説明している[34]。このため、現在のタケ亜科分類では3連分類が基本的な枠組みとして維持される一方、3連の成立過程や木本性タケ類の起源については、葉緑体ゲノムと核ゲノムの不一致を考慮する必要がある[34]。
2020年代:アルンディナリア連内部の再検討
[編集]3連分類が整理された後も、とくにアルンディナリア連(メダケ連) Arundinarieae の内部分類には多くの課題が残った[1][17]。Arundinarieae は東アジアを中心に多様化した温帯性木本タケ類を多く含み、日本のササ類、メダケ類、マダケ類などもこの連に含まれる[1][7]。Bamboo Phylogeny Group (2012) では、Arundinarieae について亜連を置かず、属を列挙する扱いが採られた[1]。その後、ddRAD-seq などの系統ゲノム解析に基づき、Arundinarieae 内部の分類を再検討する研究が進められた[35][17]。Zhang et al. (2020) は、ddRAD-seq に基づく系統樹の主要な5系統に対応させ、Arundinarieae を次の5亜連に分ける分類を提案した[17]。
この提案は Arundinarieae 内部の分類を整理する試みとして重要であるが、属の範囲、属間関係、種の境界についてはなお再検討が続いている[17][35]。
化石記録と年代
[編集]タケ亜科の過去の分布や出現時期を知る手がかりとなる化石記録は多くない。確実な大型化石としては、中国雲南省の中期中新世層から報告された葉および稈の化石があり、中国における最古級のタケ化石とされる[36]。一方、プラント・オパール(植物珪酸体)を含めると、北アメリカの後期始新世堆積物からタケ亜科に類似する証拠が報告されている[37]。
なお、かつて始新世前期の最古の竹大型化石とされたアルゼンチン産の化石は、のちに竹ではなく針葉樹と再解釈されている[38]。
脚注
[編集]- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 Bamboo Phylogeny Group 2012.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 Kelchner & Bamboo Phylogeny Group 2013.
- 1 2 3 4 5 6 7 Grass Phylogeny Working Group 2001.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 Clark, Londoño & Ruiz-Sanchez 2015.
- ↑ Zhang, Guo & Li 2020, p. 127.
- 1 2 小林 2017, p. 113.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 小林 2017.
- 1 2 3 4 5 McClure 1966.
- 1 2 小林 2017, p. 114.
- 1 2 3 4 5 6 Grass Phylogeny Working Group II 2012.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 Sorengほか 2022.
- 1 2 大橋ほか 2016.
- 1 2 3 鈴木 1996.
- 1 2 3 鈴木 1978.
- ↑ 牧野富太郎『植物記』桜井書店、東京、1943年。「マダケ属すなわち Phyllostachys 属ならびにメダケ属すなわち Arundinaria 属これなり。」
- 1 2 3 4 5 6 7 Sungkaew et al. 2009.
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 Zhang, Guo & Li 2020.
- 1 2 中井 1933, pp. 6–7.
- 1 2 小林 1993, pp. 33–34.
- ↑ 小林 1993, p. 33.
- ↑ 鈴木 1978, p. 25.
- 1 2 室井 1956, p. 1.
- ↑ 柴田昌三「緑化植物としてのササ類」『草と緑』第7巻、2015年、20–29頁、doi:10.24463/iuws.7.0_20。
- ↑ 舘脇 1940, pp. 8–10.
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- ↑ 小林 2016, pp. 141–159.
- 1 2 小林 2019, pp. 244–245.
- ↑ 小林 2017, pp. 297–324.
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- 1 2 3 4 Munro, William (1868) (英語). A monograph of the Bambusaceae, including descriptions of all the species. Transactions of the Linnean Society of London. 26. pp. 1–157. doi:10.5962/bhl.title.15634 2026年7月4日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 Calderón & Soderstrom 1980.
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- 1 2 3 4 5 Chalopinほか 2021.
- 1 2 Guo, Cen; Ma, Peng-Fei; Yang, Guo-Qing; Ye, Xing-Ying; Guo, Yan; Liu, Jin-Xia; Liu, Yong-Lin; Eckholm, Erik et al. (2021). “Parallel ddRAD and genome skimming analyses reveal a radiative and reticulate evolutionary history of the temperate bamboos” (英語). Systematic Biology 70 (4): 756–773. doi:10.1093/sysbio/syaa076.
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