補助翼
補助翼 (ほじょよく、英: aileron) とは飛行機をバンク(横転、ロール)させるのに使う動翼である。エルロンと表記することも多い。補助翼は機体の前後軸を中心とした回転運動を制御する。
飛行機が旋回するときは、揚力を利用するために、まず旋回したい方へバンクする。
主翼と尾翼を備えた一般的な形状の飛行機では、主翼の動翼が補助翼である。
右バンクのしかた
- 操縦輪を時計回りに回転させるか、操縦桿を右に倒す。
- 左翼の補助翼の後縁側が下がる。同時に、右翼の補助翼の後縁側が上がる。
- 左翼の揚力が増加し、右翼の揚力が減少する。
- 重心まわりに、機体後方から見て(機体を前後に貫くロール軸について)右回りのモーメントが発生し、機体が右へ傾く。
航空機の構造にもよるが、一般的には右バンクをとるだけでは右旋回(ヨー軸を中心として上から見て右回りの旋回)は発生しない。揚力のsin(バンク角)成分が右横すべりの力になるだけである(これに伴い揚力の鉛直成分はcos(バンク角)まで落ちる)。それどころか後述のアドバース・ヨーが発生することもある。ヨー軸周りの旋回を行なうのはラダー操作である。ただし通常の水平旋回では、バンクにより減少した揚力を補うために機首上げ(ピッチ軸周りに機首上方向回転)およびパワー増加操作を行なうと、sin(バンク角)×sin(ピッチ角)だけのヨー軸周り右旋回のモーメントが発生する。いずれにしてもラダー操作を行なわないと、機体バンクにより揚力のベクトルに水平方向の成分が発生し、バンクした側に横滑り(スリップする、スベるなどと称する)を起こす。バンクによるスリップをうまくラダー操作で打ち消すと、航空機に働く合力のベクトルは航空機に垂直な方向になる。搭乗者にとってはやや重力が増加したようにしか感じられず、横向きの力(遠心力)などは感じない(ただしバンクが深くなるとこの垂直Gの増加は著しく増え、60度バンクでは2G = 地上などで安静時の2倍)。またスリップがないとき旋回の効率も最大となる。
他の動翼との複合
一般的に補助翼は独立した動翼だが、一部の飛行機では他の動翼の役割を兼ねているものがある。
- 補助翼(エルロン)とフラップを兼ねたものはフラッペロンと呼ばれる。
- デルタ翼機などの水平尾翼を持たない飛行機で、補助翼と昇降舵(エレベーター)を兼ねたものはエレボンと呼ばれる。
- 水平尾翼を持つ飛行機で、昇降舵を左右独立して動かすことにより補助翼としての働きを持たせたものはテイルロンと呼ばれる。テイル(尾翼)とエルロンを組み合わせた造語。
- スポイラーを左右独立して動かすことにより補助翼としての働きを持たせたものはスポイエロンと呼ばれる。
前二者は元になる2種類の動翼が同じ場所にあるため兼用とされたものだが、後二者は後述する操縦性の問題を解消するために採用される。
アドバース・ヨー
バンク時、誘導抗力差により、旋回したい向きと逆に機首が振られる現象。すなわち、上記右バンクの例では左翼の揚力が増加すると同時に誘導抗力も増加するが、反対側の右翼では揚力の減少に伴い誘導抗力が減少する。このことにより反時計回りのヨーが発生する。この場合スポイエロンを使用すれば、右のスポイラーだけを展開することにより右翼の揚力減少で右バンクすると同時に右翼の抗力増大で時計回りのヨーを発生させることができる。
エルロン・リバーサル
補助翼の操作によって主翼がねじれてしまい、結果として意図した方向とは逆に機体がバンク(ロール)してしまう現象のこと。薄くて細長い主翼を持った機体が高速で飛行した場合に起こりやすいとされる。
主翼の内側に高速用の補助翼を用意したり、テイルロンやスポイエロンを装備するなどの対策をとる機体が多い。 主翼に後退角を与えることによっても緩和できるが、この目的で後退角を与える事例は少ない。