社会的手抜き

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第二次世界大戦中にイギリスで行われた綱引き
綱引きは集団で同じ作業を行うことから、社会的手抜きが発生しやすい競技とも言える。

社会的手抜き(しゃかいてきてぬき、Social loafing)とは、集団で共同作業を行う時に、一人当たりの生産性が人数の増加に伴って低下する現象。リンゲルマン効果フリーライダー(ただ乗り)現象社会的怠惰とも呼ばれる。

概要

社会的手抜きが発生する要因には、以下の様な環境要因や心理的要因から発生する動機付けの低下が考えられる[1]

  • 集団の中で、自分だけが評価される可能性が低い環境。
  • 優秀な集団の中にあって、自分の努力の量にかかわらず報酬が変わらないなど、努力が不要な環境。
  • あまり努力をしない集団の中では、自分だけ努力するのは馬鹿らしいという心理から、集団の努力水準に同調する現象が起こる。
  • 他者の存在によって緊張感が低下したり、注意力が散漫になるなど自己意識の低下がパフォーマンスに影響を与えるメカニズムが働く。

社会的手抜きは肉体的なパフォーマンスに限らず、ブレインストーミングのような集団での認知的パフォーマンスでも現れる。

社会的手抜きの理論では、集団のサイズが増大するほど1人あたりのパフォーマンスが低下し、集団全体のの生産性が頭打ちになると考えられている。その理論のひとつにラタネが提唱した「社会インパクト理論」がある。ラタネによれば、監督者や視聴者など供与者からの影響の強度と、供与者との時間・空間的距離と、供与者の数の3要素を掛け合わせ、その数値が大きいほど受容者の受ける影響の強さ(インパクト)が強くなるとしている[2]。また、受容者が多くなれば受容者間で影響力が拡散し、1人あたりの影響量は小さくなるという。

特質による違いの検証

日本や中華文化圏などの東洋文化圏は集団主義的社会、欧米文化圏は個人主義的社会と言われ[3]、社会的手抜きがそうした文化や国民性に影響されるのか、さまざまな研究が行われた。文化差のようなものを検出できたものの、学問的に一貫性のある結果は出ていない[4]

年齢差、男女差の研究では、集団内での性的役割などの固定観念ステレオタイプ)が内的要因として動機付けやパフォーマンスに影響を与えている可能性が考えられている。ある実験では男女が同じ集団を構成した場合、男性側のパフォーマンスが低下する傾向が観測されている[4]

社会的手抜きに関する実験

リンゲルマンによる実験

20世紀初頭のフランス農学者マックス・リンゲルマン英語版は、綱引き荷車を引く、石臼を回すなどの集団作業時の一人あたりのパフォーマンスを数値化した。実験の結果、1人の時の力の量を100%とした場合、2人の場合は93%、3人では85%、4人では77%、5人では70%、6人では63%、7人では、56%、8人では49%と、人数が増える毎に1人あたりの力の量は低下した。リンゲルマンは、集団が大きくなるほど集団全体のアウトプットと個人のアウトプットの合計の差は拡大するリンゲルマン効果という現象を明らかにした。

ラタネとハーディの実験

目隠しとヘッドホンを着け、互いの行動が分からない状態にした2人1組のチアリーダーを衝立を挟んで座らせ、単独での条件とペアでの条件で大声を出してもらい騒音計で音量を計測する実験をしたところ、ペア条件での音量は単独条件の94%の音量しか出ず手抜きをしていた。しかし、実験後の被験者たちはどちらの条件でも全力を尽くしたと思っていたという。

脚注

  1. ^ 釘原 2013, pp. 20–31.
  2. ^ 釘原 2013, pp. 14–15.
  3. ^ こういった考え方は認知バイアスにすぎないという研究者もいる。
  4. ^ a b 釘原 2013, pp. 37–59.

参考文献

  • 釘原直樹『人はなぜ集団になると怠けるのか:「社会的手抜き」の心理学』中央公論新社〈中公新書〉、2013年。ISBN 9784121022387 

関連項目