巡回行列
巡回行列(じゅんかいぎょうれつ)または循環行列(じゅんかんぎょうれつ、英: Circulant matrix)は、テプリッツ行列の特殊なものであり、各行ベクトルが1つ前の行ベクトルの要素を1つずらして配置した形になっているものである。数値解析において、巡回行列は離散フーリエ変換によって対角化されるため、それを含む線型方程式系は高速フーリエ変換で高速に解くことができる。
定義
の行列 が次のような形式であるとき、これを巡回行列と呼ぶ。
巡回行列は1つのベクトル で完全に表すことができる。そのベクトルは の最初の列で表されている。他の列はそれを回転させたものになっている。 の最後の行は を逆の順序にしたものであり、他の行はそれを回転させたものになっている。
特性
任意の2つの巡回行列 と について、 も も巡回行列となり、 が成り立つ。従って、巡回行列は可換代数を形成する。
与えられたサイズの巡回行列の固有ベクトルは、同じサイズの離散フーリエ変換行列の列である。その結果、巡回行列の固有値は高速フーリエ変換 (FFT) で簡単に計算できる。
巡回行列の最初の行のFFTを行った場合、その巡回行列の行列式はスペクトル値の積となる。
- (固有分解による)
ここで
最後の項 は、スペクトル値の積と同じである。
巡回行列を使った線型方程式系の解法
線型方程式系を行列で次のように表す。
ここで、 が大きさ の巡回行列であれば、循環畳み込みとして次のように方程式を表せる。
ここで、 は の最初の列であり、ベクトル 、、 は双方向に循環的に拡張される。畳み込み定理を使うと、離散フーリエ変換を使って循環畳み込みを次のような形式にできる。
従って、次のようになる。
このアルゴリズムは通常のガウスの消去法よりも高速であり、特に高速フーリエ変換を使えば高速になる。
グラフ理論における応用
グラフ理論において、隣接行列が巡回行列になっているグラフをcirculant graph(循環グラフ、巡回グラフ)と呼ぶ。グラフが circulant であるとは、その自己同型群(automorphism group)に全長サイクル(full-length cycle)が含まれる場合を指す。circulant graph の例としてメビウスの梯子がある。