同化 (音声学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

同化(どうか、assimilation)とは、連声形(日本語連声とは異なる)の一種である。

概略[編集]

引用形の音素/A/が連声形では別の音素[A’]に変わること。同化現象を音韻論の定式で表わせば、

  • /A/→[A’] / X __ Y(X, Yはφを含む)[1]

となる。

逆行同化[編集]

英語[1][2][編集]

英語の同化現象の殆どは「逆行同化(Regressive Assimilation)」と呼ばれるもので、これは音素/A/が後続する音であるYに影響されて、別の音素[A’]になる現象を指す。

1.調音位置の同化

 歯茎破裂音/t, d/と歯茎鼻音/n/は、後ろに破裂音か鼻音が来ると、後ろの音の調音位置に逆行同化する。

 (例)a bad person /ə bæ̀d pə:rsn/→[ə bæ̀b pə:rsn]

      hot coffee /hɑ:t kɔ:fi/→[hɑ:k kɔ:fi]

 また、歯茎摩擦音/s, z/も、無声硬口蓋歯茎摩擦音/ʃ/が後ろに来ると、逆行同化により、調音位置が硬口蓋歯茎になる。

 (例)this shop /ðɪs ʃɑ:p/→[ðɪʃ ʃɑ:p]

 更に、複数規則変化、3単現の-(e)s、過去規則変化の語尾-(e)dも、逆行同化の典型的な例といえる。

日本語[編集]

日本語の動詞語幹末子音/w/に時制の接辞/+ta/が後続した場合、逆行同化により[t]として具現化される。

(例)買った/kaw+ta/ → [katta]

順行同化[編集]

音素/A/が先行する音であるXに影響されて、別の音素[A’]になる現象を「順行同化(lag assimilation)」または「進行同化(Progressive Assimilation)」という。

英語[1][2][編集]

1.調音位置の同化

 語中の/ən/の前に両唇破裂音/p, b/又は軟口蓋破裂音/k, g/があると、順行同化によって、同器官的な音節主音的鼻音になる。

 (例)happen /hæ̀pən/→[hǽpm]

        taken /teɪkən/→[teɪkŋ]

2.調音方法の同化

 有声歯摩擦音/ð/の前に、歯茎摩擦音/s, z/, 歯茎鼻音/n/, 又は側面接近音/l/があると、順行同化によって、その先行音と同一の子音に変化する。

 (例)was the /wəz ðə/→[wəz zə]

    on the /ɑ:n ðə/→[ɑ:n nə]

      although /ɔ:lðoʊ/→[ɔ:lloʊ]

 なお、有声歯摩擦音/ð/の調音方法の同化は、/ð/で始まる語(又は音節)がアクセントを持たない時によく見られる。

日本語[編集]

日本語の時制の接辞/+ta/。語幹が有声音で終わる場合、順行同化によって[da]として実現される。

(例)読んだ /jom+ta/ → [jonda]

朝鮮語[編集]

朝鮮語鼻音/n/。流音に連続する場合、順行同化または逆行同化によって、流音として具現化される。ただし朝鮮語では、音節中の位置で[r]と[l]が相補分布をなすため、具現形は[l]である。

(例)구일날 /ku+ir+nar/ → [ku:illal]「九日のひ」

相互同化[編集]

上記で解説した逆行同化や順行同化は、先行する音素か後続する音素の何れか、つまり1つの音素によってもう1つの音素が変わるというモノである。これ以外にも、前後にある2つの音素が互いに影響し合い、結合することで別の音素になる「相互同化(Reciprocal Assimilation)」も存在する[1]

相互同化の例として有名なものは、Could you~? /kəd ju/やDid you~? /dɪd ju/の/d/と/j/が/dʒ/という別の音素になるというものである。

(例)Could you~? /kəd ju/→[kədʒu](「クッヂュー」)

   what you say /wʌt ju seɪ/→[wʌtʃu seɪ](「ワッチューセイ」)

同種の音素に挟まれることによる同化[編集]

上記で解説したものとは違い、音韻論の定式で表すと以下のようになる。

/A/→[A’] / Y __ Y(Yはφを含む)

日本語[編集]

日本語の母音間における有声破裂音の弱化である。

(例)蕎麦/soba/ → [soβa]

朝鮮語[編集]

朝鮮語の破裂音/p, t, k/に鼻音/n, m, ŋ/が後続した場合、逆行同化により[m, n, ŋ]として実現される。

(例)입맛/ip+mat/ → [immat][食指]

  옛날/jet+nar/ → [jennal][昔]
악몽/ak+moŋ/ → [aŋmoŋ][惡夢]

母音交替では隣接していない音素に生じる同化[編集]

英語[編集]

  • 英語の'foot'の複数形'feet'は、歴史的には、複数を表す接尾辞/+i/が語基/fot-/に添加され/foti/となり、[fe:ti]として母音が逆行同化(ウムラウト)を受けた後に[i]が脱落し、その後大母音推移によって[fi:t]となった。

朝鮮語[編集]

/s[-子音,+低舌,+ATR]l+[-子音,αATR]ss+ta/ → [saratt*a]「住んだ、生きた」

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 島岡 丘、佐藤 寧『最新の音声学・音韻論 - 現代英語を中心に』研究社出版、1987年、63-67頁。 
  2. ^ a b Carley, Paul; Inger M. Mees; Beverley Collins (2017). English Phonetics and Pronunciation Practice. Routledge 

関連項目[編集]