創発

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Dexbot (会話 | 投稿記録) による 2014年10月17日 (金) 03:41個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (Removing Link FA template (handled by wikidata))であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

シロアリの塚は自然界での創発の例である。

創発(そうはつ、英語:emergence)とは、部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れることである。局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される。

この世界の大半のモノ・生物等は多層の階層構造を含んでいるものであり、その階層構造体においては、仮に決定論的かつ機械論的な世界観を許したとしても、下層の要素とその振る舞いの記述をしただけでは、上層の挙動は実際上予測困難だということ。下層にはもともとなかった性質が、上層に現れることがあるということ。あるいは下層にない性質が、上層の"実装"状態や、マクロ的な相互作用でも現れうる、ということ。

「創発」は主に複雑系の理論において用いられる用語であるが、非常に多岐にわたる分野でも使用されており、時として拡大解釈されることもある。

生物学における創発

生命は創発現象の塊である。例えば脳は、ひとつひとつの神経細胞は比較的単純な振る舞いをしていることが分かってきているが、そのことからいまだに脳全体が持つ知能を理解するには至っていない。また進化論では、突然変異や交叉による遺伝子の組み合わせによって思いもよらぬ能力を獲得することがある。進化論においては個々の個体による相互作用のほかに、環境との相互作用という側面も加わっている。創発の定義において、このような非対称な要素を認める場合もある。

組織論における創発

組織をマネジメントする立場からは、組織を構成する個人の間で創発現象を誘発できるよう、環境を整えることが重要とされる。一般的に、個人が単独で存在するのではなく適切にコミュニケーションを行うことによって個々人の能力を組み合わせ、創造的な成果を生み出すことが出来ると考えられている。

情報工学における創発

セル・オートマトンライフゲーム
非常に少ない要素数・層数ですら創発が起きる例。

上の動画はマス目でできており、各マス目(= セル・オートマトン)は皆同一種で、どれも以下の3つの単純なルールだけで作動している。
誕生: 白いセルの周囲に3つの黒いセルがあれば、次の瞬間にそのセルは黒になる。
維持: 黒いセルの周囲に2つか3つの黒いセルがあれば、次の瞬間もそのセルは黒いまま残る。
死亡: 上二つの場合以外なら、次の瞬間にそのセルは白いセルになる。

大切なことは、要素(ここでは黒点)がわずか数十個存在するだけでも創発が起きている、ということである。

コンピュータサイエンスの分野では、シミュレーションによって創発現象を人工的に作り出すことが研究されている。代表的な例は、ニューラルネットワーク遺伝的アルゴリズム群知能などである。また近年、ウェブを活発な相互作用が行われる創発システムとして捉えなおす動きがある。

関連文献

日本語のオープンアクセス文献

関連項目

外部リンク